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チャプター6

〜ヴォーデン街道〜



 五人組の野盗相手に、馬車から降りたゲートムントとツァイネが対峙する。手に握られた得物が、日の光を受けてキラリと光る。

「さて、腕慣らしと行くか」

「だね」

 二人は五人の野盗相手に対峙する。そして、お互いがお互いを品定めするように目線を流す。盗賊たちは武器の値段を値踏みし、二人が軽装なのを確認した。一方、ゲートムント達はより正確に、そしてよりシビアな目で、相手の装備を見定める。

「子分が皮の鎧にナイフ、首領が鉄の鎧と長剣か。なぁー、なんで盗賊ってみんな同じような装備なんだろうな。頭のバンダナといい」

「さあねえ。って、刺激してどうするのさ。隠し玉があったら危ないのはこっちなんだからね?」

 数で圧倒的に不利だというのに、会話はいたってのんきだ。これが二人の見せる余裕だ。自信があるのはもちろんの事、元来の性格もあった。

「おいてめぇら! 何のんきに話してやがる! 俺らが怖くねぇのか!」

 当然、首領は怒り出す。本来なら、ここで怯え出すという算段だったのだから、それが崩された事は大きな計算違いとなった。再び威圧をするべく、手にした長剣を大げさに振りかざす。

「あの武器、あれは市販品だね。どこかの行商から強奪したか、お店で買ったか」

「なるほどな。じゃあ、俺達に負ける要素はねーな」

 威圧をかけたつもりが、逆に平凡な装備を見抜かれる事となった。だが、野盗にそのような事は関係ない。武器も防具も、相手から奪えばそれだけで強化できるのだから。今回もまた、そういう計画であった。まして目の前の二人はとても上等の武器を手にしている。その上鎧を身につけていない。格好の獲物のはずだった。

 それなのに、この二人の余裕はなんだ。鎧を着ていないのも、鎧を持っていないのではなく、鎧を着るまでもないと踏んでいるのかもしれない。

 威圧のための怒号ではなく、心の底からの怒りがふつふつと湧き上がってくる。

「この野郎、ナメやがって!」

「な、なんだ? 急に怒り出しやがった!」

「ほら刺激するから〜。それじゃ、俺は手下を倒すから、首領の相手、頼んだよ?」

 ツァイネが勝手に役割分担をするも、ゲートムントは素直に従っている。首領と戦うというのは、いわば見せ場をもらったようなものだ。相手をした数ではない、相手の地位と実力の方が重要だった。

 もちろん、二人ともこんな所で勝利しようと、まして首領に勝とうと、なんの名誉にもならなければ、賞金が出るわけでもない。だから、自己鍛錬の世界を一歩も出はしないのだが、一戦一戦を着実にこなすことで、より高みに登れる、と考えていた。

 治安の事とか、自分が怪我をする可能性とか、そう言った事は、頭の片隅にしかない。それよりも、エルリッヒにいいところを見せよう、という功名心の方が強かった。ストイックさと不純な気持ちが同居しているのもまた、二人の個性だ。

「おめぇら! ナメられたまんまじゃ示しが付かねぇ! 行くぞ!」

「「おぅ!! ぶっ殺してやる!」」

 首領の先導で、手下四人も駆け出す。乱暴な言葉を吐きながら、三十メートルほどの距離を詰めてくる。

 ゲートムント達も、馬車や馬にもしもの事があってはと、駆け出していく。

「さーて、おとなしく戦わせてくれるかな?」

「さあね。首領の相手なら、まず雑魚を蹴散らしてからになるかもね」

 できれば雑魚は自分一人で引き受けたいと思っていたツァイネも、相手の都合を考えるとそうはならないかもしれない、とも考えていた。それ自体はありがちな展開なのでゲートムントも分かっているが、首領との戦いには邪魔が入って欲しくない、と思っていた。

「さ、手下の相手は俺だよ!」

 ツァイネはわざとらしく挑発するように、手下の右翼ど真ん中に突っ込んでいった。握られた剣には、宝石がはまっていない。無垢の状態でも十分に鋭い切れ味を誇るが、攻撃能力は落ちてしまう。それでも、今はまだ長旅の序盤、消耗品を温存する作戦を取った。

「うあぁ! こいつ速いぞ!」

「馬鹿野郎! 鎧を着てないから速いだけだ! 防御力は低い!」

「そ、そうだな。俺たちが束になれば!」

 手下は手下で、考えなしの荒くれ者というわけではなさそうだった。当然、その方が戦っていて楽しい。ツァイネは表情が緩むのを止められなかった。

「みんな、リーチが短い事、忘れてないよね?」

 楽しそうな声色で、四人の手下に向かって行った。



「さて、子分は連れが引き付けちまったぜ? おめーは俺と一対一だ。これで勝機は無くなったな。せっかく俺らの武器はいい武器なのに」

「へっへっへ、いい事を聞いたぜ。それなら、尚更その武器をぶんどってやらないといけねぇな。俺だって、伊達で盗賊団を率いてるわけじゃねえ。それを、嫌っていうほど味あわせてやるぜ!」

 首領は剣を構える。手下達に比べれば圧倒的に長いリーチだが、何しろゲートムントは槍使いだ。どう考えても不利だった。

「槍相手には、いくら長剣でも不利だと思うけどな」

「それは、一般論だろう? 俺をそこらの雑魚と一緒にするなってこった。さて、公開させてやるかな」

 下卑た顔で刀身を舐める姿は、まさしく悪党そのものであり、倒すのに遠慮のいらない相手に見えて仕方がなった。ゲートムントに宿った小さな正義感が、槍を持つ手を刺激する。

「悪党だったら、やっつけちまっても、心が痛まねーもんなぁ」

「やっつけるだ? 正義の味方気取りか。そんな手ぬるい事で、この俺様に勝てるとは思わないこったな。何しろ、こっちはお前らを殺したって、ひとっつも心が痛まねーんだからな。カタギの世界で生きてきた奴に、勝てる見込みなんてねーって事を、思い知らせてやるよ!」

 駆け出すゲートムントと首領。すぐさま二人の間でつばぜり合いが始まった。



「うわぁ、二人ともやってるな〜」

 馬車の窓は小さい。ここからでは、心配そうに見守る御者の後ろ姿しか見えない。ついつい、馬車から出るエルリッヒ。

 すると、目に飛び込んできたのは四人の手下を相手に丁々発止の活躍を見せるツァイネの姿と、首領相手に互角に見える戦いを繰り広げているゲートムントの姿だった。

 二人とも、戦いを楽しもうとしているのか、手を抜いているように見える。その攻め口は、明らかに手ぬるかった。本当の二人なら、あれしきの相手は一瞬で倒してしまえるだろうに。まして武者修行でさらに強くなったというのなら尚更。

「もどかしいなぁ」

 戦いを見ていて、ついつい心の声が漏れてしまった。自分はいつまで「か弱い女の子」の位置付けでいるつもりなんだろう。本当はあの二人よりも強いのだから、などと野暮な事を言うつもりはない。それでも、あのフライパンを軽々と扱う姿を見ている以上、ある程度は認めてくれているはずなのに、それなのに、こうして守られる立場なのは、納得行かない。

 もちろん、いい所を見せたい、という下心や、本職の戦士だから、というプロ根性はあるのだろうが、こういう場面でも、少しくらい役割を与えてくれてもいいのに、と思ってしまった。

「はぁ……」

 今できるのは、御者のおじさんを守る事だけ。そう思うと、やっぱりやるせなかった。ドラゴンとは、本来好戦的な生き物なのだ。

「って、あれま」

 一人悩んでいる間に、戦局が決しようとしていた。ゲートムントは首領に尻もちをつかせ、ツァイネは手下四人を組み伏せていた。

「まあ、当然の結果なんだろうけど……っ! きゃぁ!」

 安心したのも束の間、今度はエルリッヒに異変が起こった。いつの間にか、誰かに背後から取り押さえられてしまった。しかも、喉笛にはナイフが突きつけられている。

(しまった! 手下がまだ……!)

 正直なところ、気配が小さすぎて気付かなかった。弱い相手なのだろうが、この局面はまずい。

「へっへっへ、お前ら、後ろを見てみろ」

 隠れていた手下がエルリッヒを捕まえたのを確認し、それまでの敗色を噛み締めていた首領は、途端に強気の態度を取り戻した。

 ゲートムントとツァイネも、言われるままに後ろを確認する。

「なっ!」

「エルちゃん!」

 二人の声は虚しく響く。エルリッヒも、口元を押さえられ、満足に会話ができない。

「へっへっへ、形勢逆転だな」

 首領の声がドス黒く響いた。




〜つづく〜

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