表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/65

チャプター23

〜ドナー山 山道〜



 のんきながらも必死に声援を送るエルリッヒの背後、一匹のガーゴイルが忍び寄っていた。本来なら、その気配や傷口から流れる血の匂いに、もっと遠くにいても気づくところだが、声援を送りつつ三人の戦いに注目していたため、ついつい検知がおろそかになっていた。

 ガーゴイルの話し合いはエルリッヒたちに理解できなかった。それを見越して、一匹が背後から不意打ちをする作戦であった。乱戦になっていて、誰も一匹少ないことに気づいていない。七匹を相手にしているものだとばかり思っている。

 そして、彼らは彼らでエルリッヒの放つ、人間には感じ取ることのできない、それどころか今の竜人族ですら感じ取れない程の気配を感じ取り、一番の危険人物だと認定していた。それゆえに、一番軽傷の一匹が自ら不意打ちを買って出ていた。

 台車に寄り添うように立ち、声援を送っている。その姿を確認しながら、できるだけ気配を殺して近づく。ケガと疲労で飛行することもままならないが、足音を消して近づくよりも、羽音を消して近づく方が困難なため、これはこれで怪我の功名かもしれない。

「……」

 じっと、その時を待つ。おそらく本領ではなかったのだろうが、仲間の話によると謎の武器による殴打は想像を絶する攻撃力だったという。そして、かなりの速度でスイングしてきたため、回避も困難だったらしい。よほど上手く隙を突かなければ、ただ返り討ちに遭って終わりだろう。こんなところで無駄に命を散らすことはできない。人間どもが手練れなのは交戦すればわかるが、このままでは犬死にだ。せめて、一矢報いなくては。自分たちは末席なれど、それでも人間など及びもつかぬ程に高等な、悪魔族なのだ。こんなに屈辱的な戦いは、あってはならない。縄張りに踏み込んできた以上、恐れをなして逃げるか、さもなければ返り討ちに遭わせて骸を転がしてやらなければならない。

 それが、魔族としての矜持だ。

「いけーっ!」

 威勢のいい声が響いた。左手には相変わらずあの謎の武器を手にしているが、右手は大きく振り上げていてすぐさま攻撃に転じることは難しそうだ。今しかない、そう判断した。

「キキーッ!!」

 台車の脇から姿を表すと、すぐさま飛びかかり、大きく振りかぶった右爪で背後からの切り裂き攻撃を放つ。

「っ!」

 確かな手応えがあった。声を発したからか、気付かれはしたが、その頰に鋭い一撃をくれてやった。戦果を確認するよりも先に、距離を取り再び隠れる。



「っ!」

 気付いた時にはガーゴイルの一撃を受けていた。声援に夢中になるあまり、思い切り油断していたらしい。振り向いた刹那、頰に鋭い痛みが走った。瞳にかからなかったのがせめてもの救いか。

 返り討ちに遭わせてやろうと思うも、どこかに隠れたらしく、その姿は発見できない。キョロキョロと探すうちに、冷静な気持ちが戻ってくる。確かに痛いし、頰の熱さからも出血してることが伝わって来る。しかし、ここで怒りに飲み込まれていては、ダメだ。それに、向こうではゲートムントたちが戦っている。もし見られでもしたら、疑われてしまう。

 そうは言っても、仕返しをしないと気が済まない。怒りに身を任せるのではハイリスクだが、冷静な自分を保てているのなら、やりようはいくらでもある。

「……気配、こんなに露骨だったんだ」

 ハンカチで頰の血を拭いながら、ガーゴイルの気配を探る。すぐそこ、台車の陰に隠れていることは、すぐにわかった。そして、男たちの方を見ると、確かに一匹足りない。なぜ気付かなかったのかと疑問に思うが、確かに足りない。

 赤く染まってしまったハンカチを台車に置くと、一歩ずつ近づいて行った。気配からすると、そんなに早くは動けまい。一撃離脱だった先ほどの攻撃が精一杯だったに違いない。気配が動かないのは、こちらの様子を伺っているからなのか、はたまたもう離脱するだけの体力がないからなのか。いずれにしろ、これは好都合だった。

「みーつけた」

 頑張って穏やかな声色を作り、まるでかくれんぼの鬼のように話しかける。驚いたようなガーゴイルの表情が印象的だ。

 どうせこちらの言うことも理解できないのだろうが、それでも話しかけずにはいられない。

「今さっきつけられた傷、見る? ほら、こんなになっちゃった。痛いし熱いし、血も出てる。その爪、随分鋭いけど、毒なんかないでしょうね。女の子の顔に傷をつけるっていうことがどれだけの罪か、わかる? 人間じゃないからわからないかな。とにかく、怪我をさせた罰を受ける準備だけは、しておいてね。ていうか、今すぐしなさい」

 驚きから一転怯えた表情になったガーゴイルの首根っこを掴み、片手で捩じ上げる。苦しそうにもがく姿からは、少々の罪悪感を受けないでもなかったが、ここで容赦するほど甘くはない。

 チラリ、と男たちの方を見ると、残り六体のガーゴイルに忙しく、こちらには気を配っていない。これなら、多少のことはできそうだ。

 もがくガーゴイルは振りほどこうと必死だが、その首を掴み捩じ上げている細腕と白魚のような指先は、みじんも動かない。ガーゴイルとて、これまで幾度か人間と戦ってきた経験から、このような鎧も着ていないような娘はとても弱いと知っている。それなのに、ただならぬ気配を放ち、人間より軽いとはいえこの体を軽々と、それも片手で持ち上げている。しかも、息が苦しくなるほどの強い力で。もはや、恐怖でしかなかった。

「さーて、どうやって罪滅ぼしさせようか。向こうが仲間を片付けちゃう前にやらなきゃだから、あんまり時間ないんだよねー。このまま握りつぶして首を飛ばしてもいいし、どこか遠くへ投げ飛ばしてもいいんだけど、どうしよっか」

 人差し指を顎に当て、いかにも乙女っぽく考えてみる。跡形もなく消し去るか、勇ましく踏み潰すか、それともフライパンで砕くか、はたまた本当に山肌にめり込むほど勢いよく投げてみるか。選択肢がありすぎるのも困りものだ、と悩んでしまった。

「よし決めた。頭を砕く。覚悟してね」

 フライパンを台車の上に置くと、左手で坊主頭を掴み、力を込める。ミシミシと音を立て、頭蓋骨が悲鳴をあげていた。これにはさすがに少し心が痛む。

 せめてもの慈悲にと、力を込めていく。少しでも早く絶命させれば、このガーゴイルにとって少しは楽だろう。そう思った頃、すでに頭は砕け、血が噴き出していた。いつの間にやら討伐していたらしい。

「う〜ん、力を入れすぎたかな。弱すぎる……弱いフリも辛いなぁ……」

 ガーゴイルの骸を打ち捨てると、台車に腰掛けて青空を見上げながら、つまらなさそうに呟いた。



「キキッ!」

 ゲートムントたちと応戦しながらも奇襲の行方を気にしていたガーゴイルたちは、その結果に驚きを隠せなかった。すんでのところで躱され、軽傷で終わってしまい、あまつさえすぐさま返り討ちに遭い、まして一瞬で殺されてしまった。

 仇を討ちたいという気持ちはあるが、それよりもまず、三人の人間が手強いのでそれをなんとかする方が先だった。

「キキーッ!!」

「キィッ!」

「キキィッ!!」

 攻撃に必死ながらも目配せをする。「まずは目の前の人間が先」という合図だった。そして、それを体現するかのように攻撃が一段激しくなる。

 もちろん、手負いゆえに限界はあるのだが。

「こいつら、どうした? 急に激しくなったぞ」

「何かあったのかな……」

「ねえ、二人とも、なんか変だ。ガーゴイルが六匹しかいない」

 ようやく、マクシミリアンが気づいた。そして、その指摘を受け、さらに遅くゲートムントたちが気付いた。

「ほんとだ!」

「い、いったいどこに!」

 ガーゴイルが何かを企んでいると知り、緊張が走った。




〜つづく〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ