第二話
今回から文章長めで投稿します。
拙い文章ですが楽しんでいただけると嬉しいです。
※注意※
今回から動物との会話シーンが出てきます。
『』が主に動物の台詞を指します。
「ふぅ…」
(…気持ち悪い……)
朝食を口の中にかきこみ、なんとか予定時間に家を出ることができた。
朝食が出そうになるのを抑えて時計を見る。新入生の集合時刻は8時30分、現在の時刻は8時ちょうど。学校までは20分もあれば着くので急いで歩く必要はなさそうだ。
5分ほど歩いていくと、真新しいマンションが見えてくる。最近はこの辺りまで宅地化が進んでいるようだ。
そのマンションの向かい側、風情のある木造住宅の塀の上に一匹の猫がいる。
「おはよう、遙さん」
『にゃー(おお、ヒロ坊か)。』
遙さん(はるさん)は、この家で飼われている猫で、毎朝ここで僕を出迎えてくれる。
また、遙さんと少ししゃべってから登校するのが僕の日課にもなっている。
――僕は、動物と意思疏通することができる力を持っている。話すことができる、といった方が近いかもしれない。動物の考えていること、思っていることが人間の言葉になって聴こえてくるのだ。
僕は、親に捨てられてから警察に保護されるまでの10ヶ月間、森で生活していた。この10ヶ月間は、動物たちが僕の家族になってくれた。
この能力は、どうやらこのときからあるようで、なぜかは分からないけれど、森で目が覚めた頃には、動物と話せるようになっていた。
『今日はいつもより少し遅かったな。…それに、服も違う』
「少し寝坊してしまってね。それに、今日は高校の入学式なんだ」
因みに、僕がこの力を持っていることを知っているのは、孤児院のみんなと、その他の極一部の人だけだ。
『ヒロ坊はやっと高校生か。私はもう中年期の後半だよ』
「もうそんなになるんだね…」
『体力もだいぶ落ちてきて大変だよ』
遙さんは僕が8歳のころからこの家で飼われている。多くの動物たちは人間の数分の1の寿命しかない。遙さんもいつの間にかだいぶ年をとっていたようだ。
「あんまり無理しないようにね」
『無茶できるような体力もないから大丈夫さね。ヒロ坊こそ、若いからと言って危険なことはしないようにな』
「ありがとう、遙さん。じゃあ、そろそろ行くね。また明日」
遙さんと別れ、学校へと歩を進める。
10分ほど歩いていくと、桜の並木道に差し掛かってくる。桜はちょうど満開で、まるで今日の入学式を祝ってくれるようだった。
桜からの祝福を感じながら少し歩くと、見覚えのある背中が目に入ってきた。
駆け寄っていき、後ろから声をかける。
「久しぶりだな、大希!」「おぉ、ヒロか。久しぶりって言っても、一昨日も一緒に遊んだじゃねぇか」
こいつは僕の親友の尾崎大希。小学校の頃から仲が良くて、中学の三年間はずっと同じクラスだった。
「今日は珍しく遅かったじゃん」
小学校のときからずっと一緒に通っていたので、やはり気づいたようだ。本日3回目の質問をされた。
「寝坊しちゃてさ…。さっき碧と遙さんにも同じ質問されたよ」
「ごめんごめん。でも、ヒロが俺より遅く来ることなんて滅多にないからさ。しかも入学式に寝坊とか(笑)」
「おかげで流し込んだ朝食が出そうだよ…」
「遙さんは元気そうだった?」
「うん。でも、年老いてきて体力がなくなってきた、って嘆いてたよ」
「そっか」
大希は孤児院の人以外で数少ない、僕の力を知っている人物でもある。
「気になるなら今度会いに行ったら?遙さんも喜ぶよ」
「そうだな」
大希は僕のように話せるわけではないけれど、僕より遙さんになつかれている。
(まあ、大希は大雑把なように見えて、結構気遣い屋だったり繊細だったりするからな)
「…なにボーッとしてんだよ、ヒロ。早くしないと本当に遅刻するぞ」
そう言うと、大希は先に行ってしまった。考え事をしていることに気付かれてしまったようだ。
「待てよ、大希!!」
僕は、急いで大希の背中を追いかけた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
◇ ◆ ◇
学校に着くと、玄関の前に新入生による人だかりが出来ていた。おそらくクラス割りの張り紙だろう。
大希と僕も、確認するために人だかりの中に入る。
「もっと大きく張り出せなかったのか、これ?全然見えないじゃねぇか」
大希が思わず呟く。
それもその筈である。見たところ200人はいる場所に、張ってあるのはA4プリントが8枚だけ。もう少し頭を使って欲しいものである。
何とか人混みの先頭付近に出て、クラスを確認できたのは3分後である。
「え〜っと…。俺は3組だな。ヒロも一緒じゃん」
「おう、サンキュ。出席番号も7番と8番で前後だな」
『『パンッ!』』
挨拶がわりに二人でハイタッチする。今年もよろしく、という気持ちを込めて。
玄関へ向かうと、碧がもう自分の下駄箱を確認し終えていた。
「碧、ずいぶんゆっくり登校したんだね」
「出る前に言ったでしょ。のんびり行くって」
「そんなこと言って、ヒロのこと待ってたんじゃねぇの?」
大希が碧をからかう。
(そんなこと言ってるとまた碧怒っちゃうぞ…。というかなんで碧が僕を待つ必要があるんだ?)
「そ、そんなわけないでしょ!アホ大希!!」
「アホじゃねぇし!!」
また始まってしまった。この二人が話し始めると、よく口喧嘩になる。
「まあまあ二人とも。遅刻しちゃうから早く行こ」
二人の喧嘩をなんとか止め、教室に向かった。
「そういえば、碧は何組だったの?」
「私は四組。友姫と一緒だった」
広野友姫は、碧の友達で、中学では、二人は同じ部活に入っていた。
「…早く入らないの?三組の教室過ぎちゃうわよ」
そんなことを考えていたら、いつの間にか教室についていたようだ。
「わ、ホントだ!ありがとう碧!!またあとで!」
「うん、バイバイ」
慌てて引き返し、教室に入る。
「大丈夫か?ヒロ」
「うん…。ちょっと考え事してた」
「お前よくボーッとしてんだから、気を付けろよ」
「ごめんごめん」
僕たちは席に着き、先生が来るのを待った。
長いから大変でした…。
多分次回は一週間以上経たないと投稿できません。すみません(>_<)
次回も楽しみに待っていただけるとありがたいです。