取り戻すために。
適当にジャンルを文学にしています。
ご了承ください。
殴られることが痛いことだというのは、まだ幼かった俺だって理解していた。
傷つくことがどれほどつらいのか、知った上で、俺はあいつを殴り続けていた。
毎朝、毎晩。
くる日もくる日も、同じことを繰り返し、あいつを傷つけることをやめなかった。
それが唯一、俺とあいつがつながっている時間だったからだ。
何度も殴られて、泣きわめいてもおかしくないのに、あいつはいつだって笑って、大丈夫だよと口にする。
赤黒く染まったはだも、鮮血が溢れ出す傷口も、何もかもが大丈夫な訳がないのに、あいつはいつも、大丈夫だと口にした。
俺を傷つけないためだけに。
一番に守りたかったものを、一番に傷つけてしまった。それは到底やめられず、ずるずると引きずっていくうちに、やめることをやめてしまった。
いくら子供だったからといって、それが異常であり、自身の考えと矛盾していることは、わかりきっていた。
そして、日に日にあいつから、表情というものが薄らいでいくこと。感情というものが欠落していく様子は、目に見えてわかった。
だから俺は、あいつの表情を取り戻すため、感情を再度生み出すため、あいつが唯一笑う時を、俺が傷つけ終わったその時を繰り返すことを、やめられなかった。
読んでくださって、ありがとうございました。
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