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錬成の可能性

主人公が無双するための第一歩。説明文なげぇ・・・

 リムルの町に滞在して三日が過ぎた。

 この間俺はアクセサリーの量産と露天を繰り返したり、シオンと一緒に帰り道の為に布と綿を買ってクッションを縫っていたりした。

 俺が作った装飾品はどうやら町の人々に受け入れられたらしく、目新しさもあって売れ行きは好調だ。逆に売れすぎていて怖いくらいだ。


「それにしてもこの短期間でこれだけお金を稼ぐと、感覚がおかしくなりそうです」

「そうなんだよな。普通に考えると、異常な稼ぎなんだよな」


 俺の気持ちを代弁するように呟くシオンに同意しながらも、今日の露天の準備を始める。なんだかんだと言いつつも、これだけ売れると楽しくて仕方が無い。

 その分大金を持つことになる為、誰かに襲われるんじゃないかと帰り道で周囲を無駄に警戒することになるのだが。

 今日必要な分だけの商品とつり銭を用意したところで、扉がノックされた。次いで聞きなれた声が聞こえてくる。


「リア、いる?」


 声に応じて扉を開けると、ニコルがいつものにんまり顔で立っていた。


「どうしたんだ? 昨日、一昨日となんだか忙しそうだったみたいだけど」

「うん。頼まれてたもの揃えた」

「……もしかしてこの間頼んだ奴か? もう?」


 呆れ気味に尋ねると、無言で頷く。結構なものを結構な量で頼んだのだが、それを僅か二日かそこらで揃えたことには、本当に唖然とするしかない。

 誇らしげに胸を反らしている彼女に対し、素直に称賛を贈る。


「本当に良くこの短期間で揃えられたな。流石と言うべきかなんというか」

「とりあえずマルテール商会の館に置いてある。館も自由に出入りしていいから、好きに使って」

「……勝手に出入りしてもいいのか?」

「リアは好き勝手動いて貰ったほうが、利益が大きい気がする」


 いくら友人だからと言って破格の待遇に疑問を浮かべると、そんな身も蓋も無い返答が帰ってきた。曖昧な理由だが、利益を優先している辺り、最早苦笑しか出てこない。

 それでも折角なのでその好意に甘えることにした。俺がやろうとしていることは、あまり他人に見せたくないことなので、マルテールの館の一室を借りられるのは助かる。


「それじゃ今日は露天休んで早速色々やってみるかな。シオンはどうする?」

「私のほうは元々の目的である薬の納品は済ませてますので、暫くはクッションの続きをしてます。目処がついたら適当に町をうろつくかも知れませんが」

「ふむ、了解。一応夕食までには戻るようにする」


 軽く今日の予定だけ合わせて、ニコルの案内の元マルテールの館を訪ねる。一瞬ニコルがクッション? と首を傾げたが、俺が待っているのを見て先にたって歩き出した。

 マルテール商会の館は町の中でも活気のある南側の一角にあり、この町でそれなりに名が通っているだけあってかなりでかい。

周囲を豪奢な細工の施された鉄柵に覆われており、結構な広さの庭には馬車が止まっている。建物自体は石造りの二階建てなのだが、一階部分の大半は取り扱っている商品などを仕舞っておく倉庫になっているようだ。


「頼まれたものは二階端の部屋にまとめてある。その部屋を使って。他の部屋は場合によっては商談とかに使われたりするかもしれないから」

「わかった。助かるよ」


 角部屋の前まで俺を案内すると、ニコルは小さく手を振って去っていった。どうやら今回の件でできたコネから、幾つか商談があるらしい。まったくもって忙しいことだ。

 案内された部屋は十畳程度の広さがあり、中央にテーブルとソファ、壁際にチェストとクローゼットが並んでいる。

 先ほどニコルが話していたように商談にも使われているのか、調度品の一つ一つが素人目にも質が良い物だと判断できる。その癖自己主張しない程度に落ち着きがあり、どことなく質素な雰囲気だ。


「よし、やるか!」


 一つ気合を入れて壁際にまとめて置いてあった素材を漁る。

 資金が溜まってきた今、次にすることは自衛のための道具作りだ。

クロム鋼やイバル鋼と言うこの世界独特の硬度の高い金属なども複数取り出す。それらを用意してきた魔法陣に載せ、純度の高い魔晶石も取り出した。

 ちなみに魔晶石にはランクがあり、このランクが高くなるごとに当然値段も高くなる。俺が使用するものは純度五十パーセントのもので、売り出されているものの中で真ん中のランクのものだ。

 売り物の最高品質は七十パーセント程度の純度を誇り、ここまで来ると金と同じ値段になる。純度百パーセントの結晶ももちろんあるにはあるが、これは自然界から取れるものだけになっているため希少だ。

 触媒となっている水晶と混ざり濁ってはいるが、黒く輝くその結晶を片手に魔法の使用準備に入って意識を集中した。

 今回使う魔法は“圧縮練成”。練成の上位互換の魔法で、文字通り物質を圧縮させつつ練成することができる。

 作るものをイメージし、頭の中で形を思い浮かべてから魔法を発動する。大分記憶は薄れてしまっているが、昔調べた部品を思い起こしながら、それを作って行く。

 円筒上で、均等な位置に合計六つの穴が空いたものや、細長い筒。それ以外に細かいパーツを作りつつ、それらを再び練成で組み上げる。

 そう、作っているのは拳銃。リボルバーと呼ばれるものだ。

自衛の手段として異世界と言うことから剣技や体術と言ったものを最初に考えたが、魔法が存在するため諦めた。

 身を守れるまで鍛えるとなると時間が掛かる上、魔法で攻撃されたら俺では手も足も出ないからだ。加えて同じ接近戦でも、身体強化の魔法などもあるので、そういったものを使われたら、もう太刀打ちできない。

 もちろん選択肢を増やすためにもその内どこかで習おうとは思っているが、今はできるだけ早く身を守れる力が欲しい。

 その点で現代兵器というのは具合が良かった。

 何時ごろとかは言わないが、一時期リボルバー拳銃のかっこよさにはまって構造や仕組みを調べたことがあった。

 憧れから、銃の模造品を作ろうとしたのだ。もちろん結果は惨敗。

無駄に凝って各パーツを作ったりしたのだが、実際にやってみると思った以上に複雑で、最終的にサイズが合わず、組みあがることすらなく断念した。

無論、同じ時期にオートマチック拳銃も調べ上げたのだが、こちらの機構内容は現状では複雑すぎて諦めた。


「そう、あの頃は若かった」


 胡乱な事を思わず呟く。過ぎ去りし思い出を振り返り、どことなくセンチメンタルになりながらも作業を進める。

 リボルバーはオートマチック拳銃よりかは単純な構造とは言え、撃鉄周りのパーツは複雑なため所々怪しい。だがこの辺りは練成で微調整が行える為、何回も試行錯誤を繰り返すことで対応する。

 実際に動かしてみて不具合がある部分を調べ、形状を変えたり、機構を変えたりとひたすらトライアンドエラーを繰り返した。

 アクセサリー作りで細かい錬成に慣れていたこともあり、どうにかこうにか完成に漕ぎ着ける事ができた。

 ある種の奇跡だと思う。

 全長三十センチ。重量は一キロ超。恐らく口径としては四十五口径程度だと思われる。あの頃の中学二年生的な心がうずいてしまい、ごついフォルムにした所為か強度はいいが思ったよりも重くなった。

 好意的に捉えるなら、銃身周りもごつく角ばっているため、反動を押さえ込むのに多少有利だと考えられなくも無い。

 機構が若干記憶と異なる気がするが、正しく動くのであれば問題ないだろう。

 強度などの不安があるため、全てのパーツをできうる限りの硬度でガチガチに練成する。


「とりあえずは形になったか。後は弾のほうを作って実際に試すしかないな」


 窓の外を見ると随分と日が傾いていた。思った以上に作業に没頭していたらしい。

 一応の完成を見たのでこの日は宿に戻ることにする。

こういったものは焦っても仕方が無い。とはいっても軽い興奮状態だったのでこの日は寝付くまでに少し、時間が掛かった。


 翌日以降、今度は弾丸の製造に取り掛かる。露天に関してはニコルに頼んで商会の人間に行ってもらった。

貸してもらっている館の部屋に入るなり、作業を開始した。弾頭、薬莢をリボルバーのシリンダーのサイズに合わせて作り、慎重に内側に火薬を流し込む。

 信管の部分の構造がわからなかったのでここは魔法陣で代用した。

 実のところ俺が使用している魔法陣では、二つの方法で魔法が発動できる。

一つは今まで魔法陣を使ったように、接触し続ける方法での発動。もう一つは、魔法陣に対して魔晶石を叩きつけるなどして衝撃を与えて発動する方法だ。

 前者のほうは微調整やコントロールが利くが、後者の方法では瞬間的な発動しかできないという欠点がある。

 今回のような信管の変わりにするなどしないと応用の利かない発動手段なので、今のところあまり使える機会が無い。

 とは言え今回はその特性に助けられた形だ。

 ちなみに銃弾の実験は町の外、誰も来ないところで行った。銃身と同じ太さの筒を用意し、弾丸をセット。暴発が怖いので遠くから“射出”の魔法を使って小石を信管に当てて実験を行う。

 この射出、指定したものを狙った場所に向かって加速、射出するため使い勝手が良い牽制魔法としてよく使用される。もっとも自分の場合は魔法陣を書いた布を手のひらに乗せて使っているので、実用性は皆無だ。

 そうした実験を繰り返し、火薬の量などベストと思われる弾丸を作成する。一度完成してしまえば後は複製でひたすら量産だ。

 この後も実際に拳銃に弾を込め、適当な木に固定して遠くからのヘタレスイッチングで問題がないかをチェックしたのは言うまでも無い。

 ひたすら頑丈に作ったからか、特に問題なく試験は終わり、最後のテストを残すのみとなった。

 シリンダーをスイングアウトして弾丸を込める。しっかりと両手で握って、そして構えた。

最後のテスト項目。それは自らの手による使用実験。

 大きく深呼吸をして、樹木の枝に取り付けた的を狙う。引き金を引くと同時に予想よりも強い反動に腕が跳ね上がる。それでも衝撃を逃がしきれず、たたらを踏んで尻餅をついた。放たれた弾丸は的に掠りすらしなかったが、挑戦自体は成功だった。


「……できた」


 一丁の拳銃を作るのに、一週間ほど掛かった。機構やら構想やらを知っていたとは言え、自分でも驚くべき快挙だ。感動に、鳥肌が立った。

「けど反動が思ったより強いな。衝撃分散の魔法でなんとかなるかな? 後銃身に射出つけたら命中精度上がったりしないかな」

 感動の波が納まらないまま問題点に対して自問自答しながら、最早手馴れた練成で衝撃分散と射出の魔法陣をシリンダーと銃身にそれぞれ刻み込む。発動条件を満たすために魔晶石を練りこむのも忘れない。


「もう一発挑戦!」


 幾つかの仕込をしてもう一度銃を構える。先ほどの衝撃を鑑みて、腕に力を込めつつ体の重心もやや前のめりにして引き金を引く。

 ガウンッ、という先ほどよりも大きな音と反するように、手に伝わる衝撃は拍子抜けするほど軽かった。加えて先ほどは掠りもしなかった弾丸が的を捉えていた。


「よっし!」


 予想通りの結果に手を握り締めて小さくガッツポーズをする。読みどおり衝撃分散と射出による命中精度補正は有効なようだ。

 実は衝撃分散の効果の所為で、片手で扱えるほどに反動が抑えられた上、射出の魔法の効果によって弾速が加速され、威力や貫通力が拳銃の癖に狙撃銃並みに跳ね上がっていると言う予想以上に反則的な結果だったことに、この時はまだ気がついてなかったりする。


「大成功、とは言え貰った材料の大半が無くなったなぁ」


 上機嫌に銃をくるくると指で回しながら一人言ちる。

 拳銃本体の製造に加え、銃弾も相当数作っている。その内結構な数を安全性確認の実験で使っているので、残りはそう多くは無い。火薬は微妙に余っているが、金属の類がほぼ全滅だ。

先ほどの魔法による反動制御などから、魔法を利用した弾丸のアイデアなどがあるのだが、このままではそれを試すこともできない。

 資金面では最早安定しているが、いずれは元の世界に戻るための旅に出る予定のため、余り無駄にはしたくない。


「あぁ、そういえばまだ金策試してなかったな」


 ふとそこで以前思いついた金策方法を思い出した。ようやく自衛手段が一段落着いたところだし、試しに挑戦してみよう。

 そう決めた俺は拳銃片手に、意気揚々とマルテール商会へと戻るのだった。



部屋に入っていそいそと準備に取り掛かる。

 大き目の布を取り出し、そこに圧縮錬成の魔法陣を書く。

未だに部屋の隅で詰みあがっていた最後の素材をその魔法陣の上に大量にばら撒き、魔法発動の体勢に入る。

 考え付いた金策。残念ながらこの世界は、鉛を金に変える様な錬金術は存在していない。似たようなことができる錬成は、あくまで対象となった物質のみに作用し、その形状を変化させる魔法だ。

 ぶちまけられた真っ黒いそれを見据えた後、目を閉じる。脳裏に錬成後のイメージを強く思い描く。

 俺は錬成の魔法の内容を知った時、もしかしたらそれができるのではないかと思った。魔法に対して科学的なアプローチをするのが正しいとは思わないが、もしもこの錬成という魔法が対象とした物質に原子レベルで作用しているのだとすれば十分可能なのだ。

 形状変化と圧縮。単一の分子で構成されるそれは、結合具合で大きく性能を変化させる。


「……やってみるもんだな」


 魔法の発動終了後、目の前に転がった小さな欠片を眺めて俺は口角を吊り上げた。

 魔晶石の残りは少ないが、もうこれに全部つぎ込む事をこの瞬間に決めた。何せ一個完成品ができてしまえば、材料さえあれば幾らでも量産できる便利な魔法があるのだ。


「くくっ……ふっふふふふ」


 魔晶石と素材を使い切るまでノンストップだ。怪しげな笑いが止まらない。それも仕方無いことだろう。

 出来上がった元々は黒かったそれを手に、俺は最早こういう時にお決まりとなった人物の元へと向かった。


「ニコルっ!」

「へ?」


 マルテール商会の館、その一室で書類の整理をしているニコルのいる部屋に、俺はノックもせずに突入した。


「どうしたのさ、リア?」


 突然のことに目を白黒させている彼女の前に行き、先ほど作ったそれを見せる。


「こいつを売りたいんだけど、誰か良い買い手って知らないか?」

「へっ? えぇっ!?」


 驚きの声を上げた後、絶句した上で俺の顔とテーブルの上に置かれたそれを交互に見る。

 そして恐る恐るそれを手にして光にかざす様に持ち上げる。


「……一体何をしたの?」


 戦々恐々と言った感じにニコルが呟いた。彼女の指先では炭素の同素体、ダイヤモンドが光を受けて輝いていた。



ようやく主人公が武器を持ちました。加えてダイヤモンド作成とかのチートっぷり……。

ツッコミどころが、多々ありますでしょうが、ご容赦くだせぇ……



そして例によって魔法の補足


圧縮錬成

この世界では頑丈なレンガや石材の作成、武器作りの仕上げに使われています

圧縮具合は材質によって限界が変わってきます


衝撃分散

主に高いところからの着地や防御手段として使われています

魔法陣に触れた衝撃が分散されるイメージです

作中の銃では反動となる部分が上手く分散するように設置されてます


射出

対象の物質を加速、そしてまっすぐ飛ばします

曲げたりはできませんが、手に持った小石を飛ばしたり、中には投げナイフなどに適用して戦うものもいます


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