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異世界での生活2

ようやく更新。ちまちま書いていきます

 太陽がほぼ頂点に到達する頃には村についた。

 じっとりと浮き出てきた汗を拭い、門をくぐる。途中哨戒に立っている門番の人に軽く頭を下げた。

 フェルニアは村だが、規模だけで言えば他の町と大して変わらない程度に広い。それでも村と称されるのは、こののどかな雰囲気の所為だろう。

 肥沃な土地故に周囲は緑が多く、少し歩けば鬱蒼と茂った森が広がる場所がある。加えて西側に平坦な土地があるので、農作物や牧畜なども盛んだ。

人口は五百人程度。豊富な自然素材を使った組木細工や村で作られているオリーブオイルが特産品という地味さ加減だ。この五百人という村の規模は、こちらでは結構な人数らしいけれど、都心の人混みを知る俺からすれば田舎と言って差支えが無かった。

 そんな村の一、二を争う大きさの家が、現在俺が寝起きしているリーメイ家だ。

 大きい理由も単純で、怪我や病気になった人を入院させるための部屋を複数用意しているからだ。薬草を取りに行きやすいからという理由で村の外れに近いので、門をくぐればすぐに見えてくる。


「ただいま戻りました」


 挨拶をするシオンに続いて自分も診療所兼寝床へと足を踏み入れた。


「おう、無事帰ったか。おかえり」


 すぐに低めの渋い声が聞こえてきた。

 現れたのは、薬師というのを疑いたくなるような筋肉質の男性だ。強面の上に口髭と顎鬚が生えていることもあって、威圧感が半端ない。だが性格は実直で優しく、腕もいい事から村の人たちからの評判はすこぶるいい。


「ただいまです、ラオ先生。すぐに薬草まとめてきますね」

「いや、もう今は昼休憩だ。それからリアに客が来てるぞ」

「俺に?」


 首を傾げる俺に、先生は黙って頷いた。一体誰だろう、と頭を悩ませる間もなく、その当人が奥の部屋から顔と手だけにゅっと出して挨拶してきた。


「おかえり、シオン、リア~」


 くりくりとした大きな瞳とにんまりと笑った口元。頭の左右で結わえられた亜麻色のツインテールがそれに合わせて揺れる。年のころは十四、五歳と言ったところだ。この村にやってくる唯一の行商人、マルテール家の娘ニコルがひらひらと手を振っていた。

 そういえば帰ってくる途中、真新しい轍が街道に残されていたな。


「そういうわけだ。薬草は後で良い。それよりも食事を頼む」


 そう言って手を差し出すラオ先生に鞄を渡してわかりましたと返事を返す。そんな俺に私の分もよろしく、と笑うニコルに苦笑を返しつつ、キッチンへと向かった。

 この家は一つ屋根の下だが診療所部分と生活空間はしっかりと区切られている。入ってすぐの手前側が診療所、奥がシオンや先生の住居になっている。

 ちなみにキッチンは奥にある。時折入院患者も出て大量に作る必要があるので随分広い。


「さて、と。それじゃどうしよっかなぁ」

「リアさん、私も手伝いますよ」

「ありがと。それじゃ火を起こしてお湯を沸かしておいてもらえる?」

「わかりました」


 手伝いを申し出てくれたシオンにも手伝って貰い、ささっと料理の支度に取り掛かる。

 現在この家で俺の役目になっている一つが、この料理当番だ。最初作ってもらっていた時に感じたのだが、なんと言うか、こちらの世界の料理は日本での料理に比べて随分と手抜きなのだ。

 一口大に切られた野菜などを入れて煮込み、塩や香草で味を調えるだけのスープ。ちぎった野菜にオリーブオイルを使ったドレッシングをかけるだけのサラダ。

 材料自体が新鮮なので、それでも十分美味しかったのだが、折角なのでやらせて貰えないかと頼み込み、作らせて貰ったところ高評価だった。

 以降、この家の食事は俺が用意することになったのだ。

 とは言っても大したものが作れるわけでもない。精々スープを作る際には出汁をとるとか、肉を酒や自作のタレに浸けて柔らかくして臭みを取ったりなどと言った、ちょっとした一手間を加えているだけだ。

 後はパンが主食なのでコレに合う物を考えればいい。

 基本は煮込み系。口の中がぱさつきやすいのでスープなどもお勧めだ。

 時間が余り無かったのでサンドウィッチにベーコンと野菜のスープを作る。手抜きで申し訳ないが、一応ささやかな心配りとして女性でも食べやすいようにサンドウィッチは小さめにした。

 人数分のお昼と飲み物を持って先ほどの部屋に足を運ぶと、雑談を中止してラオ先生とニコルがこちらを振り返った。


「おー、やっときたー」

「サンドウィッチか。良いな」


 客室にはベッドが一つと、簡素な丸テーブルに椅子が二脚、チェストが一つと、簡素な部屋になっている。それに加えて何着かの衣類や薬草を煎じる為の道具が壁際置いてある。現在俺が使わせて貰っている部屋だ。

 部屋には椅子が二脚しかないので、隣の部屋から一つ運び込み、俺自身はベッドに座った。

 全員に食事が行き渡ったところで、シオンがお茶を皆に手渡した。俺もそれに習って受け取る。


「ありがとう、シオンさ……」


 受け取る前にカップが手から離れていった。そのまま顔を上げると、にこやかな笑顔が浮かべられていた。


「あ、ありがとうございます、シオン」

「よし」


 カップを受け取る。なんだか躾けられる犬の気分だった。


「呼び捨て……リア、私も呼び捨てで構わない」

「……ほう、呼び捨てになったのか」

「や、止むに止まれぬ事情があるといいますか、一種のペナルティと言いますか……」


 ニコルに肩口を揺すられつつ、妙な威圧感のあるラオ先生から睨まれる。なんていうか、怖かった。別に変な関係になろうとかそんなこと思ってないのだが、妙な威圧感を感じる。

 お願いだから何も言わずに食べ始めないで欲しい。


「っていうか、いい加減にしてくれないかなニコルさん」


 そして空気を読まずにさっきから人の肩を揺すり続けるその人物を突き放す。どうやら無視していたのが気に食わなかったのか、段々ふり幅も勢いも増してきて、そろそろ許容限界だった。

 ただ、こちらとしてもこの妙な空気を換えたいので丁度いい切欠だったけれども。

 払いのけられた彼女は不貞腐れるかと思いきや、にんまりとした笑みを浮かべた。


「ふふふ……そんな口を利いていいの? 折角頼まれたものを持ってきてあげたのに」

「あぁ、わざわざもって来てくれたんだ。ありがとう」


 笑顔でお礼を言って手を差し出す。


「…………」


 ジト目で睥睨された。


「……わかったよニコル。これでいい?」

「よしよし。やっぱり商談は対等の関係でこそ」


 呼び捨てにしたことで満足げに頷く彼女に苦笑する。丁度歳も背格好も妹と同じ位なので、どうにもこの子には親近感が沸いてしまう。活発だった妹とは正反対で物静かだけど、どこか似通った部分があるように思えた。

 そんなことを考えて、ついついあちらの世界のことを思い出しそうになるのを頭を振って止めた。


「ん? どした?」

「いや、なんでもない」


 疑問符を浮かべるニコルにいつもと変わらない笑みを浮かべてそう答える。

 いずれはしっかりと向き合うべきことだが、今はまだ先にやることがある。

 それに今考えてることが上手くいけば、商人である彼女の家とはこれからもやり取りが出来てくるのだ。仲良くしておくのは、きっと悪いことではないはずだ。

 俺は彼女から視線を切ると、手に持っていたサンドウィッチを口の中に放り込んだ。



もう暫くは余り大きな変化はない内容になるかも。ただ次はいよいよ魔法を使う予定。

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