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ナナツヨの泣かない死霊術師  作者: いちい
がらくた人形と火の国
80/98

かどうおん

現在、火の国編にて主人公の一人称が正しくは『私』のところ、ひらがな表記になっていたため修正作業をしています。すみませんでした。

初期に書いていた時だったか、別作品と混じっていたようです。申し訳ない……。

あと3、4話で火の国編は終了です。

現在、主人公があんまり成長してなくね?と思い、過去の話を読んでいたのですが、恥ずかしさのあまり悶えました。なんというか……来年も、もっと頑張ります!

皆さま、よいお年を!

 



 動きが早すぎて反応が間に合わない。跳躍するように一瞬で距離を詰めたラトニア- IIの武器を、琥珀が間に割り込んで受ける。その時に至って、ようやくラトニア- IIが実体化させた武器の種類が判別できた。

 ラトニア- IIは、彼女の背丈よりも巨大で無骨な造りをしたバトルアックスを、頭上から振り下ろしていた。琥珀は苦しそうに鎌を横にして受け、バトルアックスの軌道を逸らして後退した。


 琥珀は鎖鎌を使って中距離から援護をするのが得意。鍔迫り合いはできなくはないが、専門ではない。まして尋常でない質量のバトルアックスを豪腕で振り回すラトニア- IIと真っ向からの力勝負は分が悪すぎる。

 私は前衛に巻き込まれないように下がり、ポーチからラトニアの髪が入った包みを取り出した。

 詠唱すらもどかしい。


「『来たれ』」


 術が失敗しないようにしつつも性急に魔力を注ぐ。ラトニアの幻影はすぐに現れた。両手に持つ武器は、見慣れた剣ではない。紅茶色の半透明な刀身はラトニア- IIのバトルアックスと同じだが、その手にあるのはもっと柄が長く、湾曲した刃と穂先を備えるポールアックスの二刀流だった。


 ラトニアがラトニア- IIに飛びかかった直後、炸裂音と共に地面が揺れた。別働隊が魔法を使ったのか、それとも魔道具か……。こちらに器人が加勢してこないからには上手く引きつけてくれているのだと思うが、いずれにしても応援に割く余力はない。健闘を祈るばかりだ。


 琥珀が私の前まで下がり、鎖鎌を操って援護する。さらに前方では、二人のよく似たメイドが激しい攻防を繰り広げている。しかし、実力の差は残酷なまでに明らかだった。

 私と琥珀のサポートがあってなお、ラトニア- IIには及ばない。ラトニアの速度と技巧で何とか拮抗状態に持ち込んでいたが、ラトニア- IIは連携の隙をついてラトニアの胴に大振りな一撃を加えた。ラトニアは死霊特有の無表情のまま吹っ飛び、岩床を数メートル擦って止まる。


「旧型ごときが、私に敵うと思ったのですか? 私はこれまで、1000に近いニンゲンの経験を吸収しています。純粋な戦闘技能で及ぶものは、最早いません。魔法にしても、習得できるものは全てインストール済みです」


 ラトニア- IIは悠々と斧を構えている。追撃をしないのは、わたしたちを警戒しているからじゃない。遊ばれていると、そう感じる。

 ラトニアは元々、Sランクギルドの一員だけあって温い相手ではない。彼女を楽にいなせてしまう、ラトニア- IIの戦闘能力が異常なのだ。


「モンスター化で能力が上がっているにしても、こんな」

「ご主人様。おそらくラトニア- IIが吸収したのは単純な戦闘経験や魔法技能だけではありません。鍛治技能が大きな役割を果たしていると考えられます」

「鍛治技能?」


 琥珀の推理に、ラトニア- IIが満足げに頷く。


「よい予測です、F- am。私たちが実体化させる武器は、心のカタチ。思いの強さが鋭さ、形状は心の在り方です。しかし、鍛治の知識があれば、実体化させる時の細かな形状をより戦闘向きに調整することも、魔法的な効果を付与することも容易です」


 ここは火の国。鍛治はこの地の特色と言っていいほどに染み付いている。そんな場所であるからして、一流の技能は喰らい放題だっただろう。

 まして、そうして極限まで強化した武器をモンスターの膂力(りょうりょく)と速度で、しかも一流の斧術を使って振り回すのだ。ニンゲンがちょっと何かをした程度で埋まる力の差ではない。


 ラトニアはポールアックスを杖代わりに、よろよろと立ち上がる。攻撃を受けたメイド服の腹部はボロボロだ。純白のエプロンは土に汚れ、黒いワンピースにも無残に穴が空いてしまっている。

 それでも彼女はラトニア- IIに飛びかかるけれど、目に見えて動きが悪い。軽くあしらわれ、黒いエナメル靴と白いニーハイソックスに包まれた足がラトニアの腹部にめり込み、彼女は地面に倒れ伏した。


「無様ですね。そんなことだから、主人(あるじ)を守ることすらできなかったのです」


 ラトニア- IIは無表情に、ラトニアを罵倒(ばとう)した。凍てついた湖面のようなその顔の裏ではしかし、炎のような激情が燃え盛っているのが窺える。


 ラトニア- IIが蹴りのモーションに入る。倒れたラトニアを嬲るつもりだ。


「『水盾(スイジュン)』」


 私の発動した魔法でラトニアの前に水の盾が現れ、ラトニアの足を阻む。足と水盾が接触する瞬間、わたしはとっさの思いつきで盾の魔法を操作した。

 水流で硬化した表面を、一部だけ柔らかくしてラトニア- IIの足が盾に埋まるようにしたのだ。そして、すぐにまた硬化。

 ラトニア- IIは足を取られ、中途半端に片足を浮かせた体勢でその場に釘付けになった。琥珀がその隙に鎖鎌を操り、ラトニアが立ち上がって離脱する。


 琥珀の牽制を加味しても、ラトニア- IIへの妨害は、もってあと30秒ほど。その間にラトニア- IIを仕留める策を講じなければ、私たちはここで死ぬ。

 火の国は職人の国。元々戦闘能力に秀でない彼らが器人に対抗できているのは、魔道具の在庫によるところが大きい。ここで私たちが退けば、ラトニア- IIは職人と冒険者たちの連合軍を全滅させる。そして、火の国の軍が到着するころには、この街はヒト一人すらいない地になっていることだろう。


 たとえ私が生き残れるにせよ、軍が出てくれば自由に動くことはできない。自身でラトニア- IIを討伐する機会は今だけなのだ。


 ラトニア- IIが水盾にとられた足に力を込める。水盾はついに破壊され、小さな水たまりが残るばかりになった。

 それを見て、瞬間的に一連の作戦が思い浮かぶ。是非を考える時間はない。


「琥珀はこっちに。ラトニアも、私の前へ」

「ガラクタを盾にしようというのですか。無意味です」


 ラトニア- IIがバトルアックスを手に駆ける。

 足を踏み出す瞬間、私は魔法を構築した。初めて構成する魔法。でも、よく似たものをわたしは一度見ている。

 できるかできないかではなく、やるのだ。

 地面にじりじりと魔法陣が現れる。設置するのは、前衛の正面1mくらいの場所。案の定、先ほどと同じように真っ直ぐに突っ込んできたラトニア- IIは、魔法陣の範囲内に囚われる。

 構成さえ正しければ、魔法の名前はひとりでに口をつくものだ。属性は、水。


「『水牢(スイロウ)』」


 青い魔法陣が輝き、瞬時に水の柱が何本も立ち昇る。柱同士は縒り合わされ、連結し、格子状に流れる水の檻がラトニア- IIを囲った。


「水盾の形を変えただけの初級魔法。脅威度は小」


 ラトニア- IIは冷静に分析すると、両手でバトルアックスを豪快に、横薙ぎに振り抜いた。武器の質量と遠心力の乗った一撃に、檻は紙切れのように上下に真っ二つに断ち切られる。だがこれは、想定通りの行動だ。

 怒涛の如く降り注ぐ大量の水。そこに、魔道具をオーバースローする。


「琥珀も……!」


 意図を理解し、琥珀もすぐに魔道具を起動、投擲する。共に武器を投擲して扱うこともあり、魔道具は水を目くらましに、ラトニア- IIのびしょ濡れのメイド服を直撃した。

 魔道具に込められているのは見張りの器人に使ったのと同じ、雷属性の高位攻撃魔法。一つでも充分なそれを、二つ同時に、しかも水に濡れた状態で使えば、威力は格段に跳ね上がる。


 目の眩むような激しい閃光とスパークの紫電が、ラトニア- IIを──ラトニア- IIの電子回路を灼いた。







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