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ナナツヨの泣かない死霊術師  作者: いちい
がらくた人形と火の国
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さいぎのしんおん

しばらく頑張って投稿します! 12月初めくらいから忙しくなると思うので、それまでは頑張るのです!

思えば1年くらい停滞していた時期もあったのでしたね……。

お待たせして申し訳ありませんでした。そして、続きを待ってくださっていた方々、ありがとうございます!


 



 私とマレットの視線が集中する中、彼女は綺麗に一礼して告げる。


「申し訳ありません。(わたくし)にはその現象について答える権限がありません」

「何言うてるんや! そんな人ごとみたいに涼しい顔して──アンタらまさか、ウチらの間に入り込んで、何かしようとしてるんか」


 マレットは木卓に立てかけたハンマーの柄に

 手を伸ばす。けれど琥珀は微動だにせず、もう一度同じ言葉を繰り返した。


「申し訳ありません。私にはその現象について答える権限がありません」


 マレットの顔がさっと紅潮した。ハンマーを握り立ち上がろうとするけれど、それは短絡的にすぎる。


「待って」

「はぁ? ウチにそんなこという権限、それこそアンタにはないやろ!」

「いいから」


 マレットはひとまず動きを止めた。けれどその両手はしっかりとハンマーを握りしめ、琥珀が何かしようものならいつでもそれを振り下ろすだけの準備があった。

 わたしは座ったまま琥珀に向き直る。彼女たち器人は機械仕掛けなのだと言っていた。火龍の心炉から出現した種族。それは、各地でダンジョン化した聖地に現れたモンスターとよく似ている。


「今からいくつかあなたに質問をする。『答えられない』ものは、そう言って」

「はい」

「あなたはモンスターなの?」

「いいえ」

「じゃあヒト?」

「そうであるとも、違うとも言えます」


 マレットが胡散臭そうな声で疑義を挟む。


「そんなヒトでもモンスターでもないもんがおるかいな」

「黙って」


 明らかに不満そうなマレットを沈黙させ、質問を再開する。


「あなたが回答する権限を制限しているものは何?」

「器人すべての上位個体、ラトニア- IIです」

「…………は?」


 らとにあツー? ラトニアのゆかりの国は知らないが、消去法からいって火の国にいるのはラトニアかナギだと予想はついていた。それにしてもあんまりなネーミングに絶句する。頭の中が一瞬真っ白になった。

 いや待て。これは器人ジョークかも知れない。


「今なんて?」

「私の回答権限を制限しているのは、器人すべての上位個体であるラトニア- II(らとにあつー)です」


 聞き間違いでも勘違いでもなかった。琥珀は律儀に同じ名称を繰り返した。

 ……まあいい。いや、よくはないが、ここにいるのも所詮はラトニアの肉体ベースのモンスターだ。多少いかれているのも当然、むしろモンスターなら自然なことかもしれない。


「ラトニア- IIは器人?」

「いいえ。彼女は器人をベースとしたモンスターです」


 わたしは器人とは、この異常で生まれた新種だと思っていた。だが、ラトニア- IIが器人ベースのモンスターである以上、オリジナルのラトニアは器人でなければならない。とすると、ラトニアは20台半ばくらいの容姿だったし、異常が発生するよりも早く生まれている計算になる。


「器人はどうやって生まれるの?」

「申し訳ありません」


 琥珀はほとんど表情を動かさなかったが、申し訳なさそうに目を伏せた。


「どういうことなん?」


 疲れ果てたようにマレットが言った。戦意は消えその手はもう、ハンマーからは離れている。純粋に、琥珀の回答が理解できないのだろう。


「つまり、器人はモンスターの配下。でも少なくともモンスターではないし、自由意志もある。琥珀はわたしたちに好意的で、なるべく情報を与えたいけど、肝心な部分は上位個体に収まってるモンスターから禁止されてる。多分モンスターの居場所は火龍の心炉だと思う」

「……一部、違います。器人にはたしかに人格がありますが、上位個体からのインストラクションを拒否できません。現在器人すべてに共通する命令は、4つ。ヒトに仕えること、上位個体の命令を守ること、自己を保存すること、ヒトから記憶を奪って上位個体に流すこと、です」

「記憶を奪って流すっちゅうんはどういうことなん?」


 マレットの疑問に、琥珀は小さく首肯して説明する。


「ヒトは生きているときは記憶を積み重ねていきます。それを損なうと、ヒトは自分自身を失い、はじめはぼんやりとする程度ですが、やがて人形のようになり、覚めない眠りにつきます。寿命は尽きていないのですぐに死にはしませんが、眠るうちに衰弱し、次第に生命活動が停止、します」

「まさかそれが……」

「…………」


 彼女は何も言わない。けれどその目は、如実にその論理を肯定していた。直接的に答えなければ、ある程度の融通は効くということなのか。

 琥珀は一度瞬きすると、強い覚悟を秘めた目でわたしを見つめた。


「お願い申し上げます。ご主人様、火龍の巣へとお向かい下さい。火の国の龍帝であれば、器人のことも、ラトニア- IIのことも、すべてがわかります」


 まあ、どの道器人がいる限り、ラトニア- IIは無限に強化されてしまうことになる。モンスターとは澱みから生まれるのだから、ヒトから直接記憶を収集できるというのなら、その補給ラインの断絶は急務だ。


「わかった。火龍の巣はどこに?」

「火龍の心炉へと続く洞窟の途中に、隠し通路があります。そこからずっと登っていき、火山の火口近くに出ることができます」


 そこが火龍の巣だ、と彼女は告げた。


「マレット、こういう事情。火龍の心炉のある洞窟に行く。許可してくれるでしょ」

「そこは『許可してくれる?』て言うことやないのかい。まあ、ええけど。元々あそこは冒険者にやたら荒らされたり、一般人が入って怪我せんように職人の親方衆で見張っとっただけやし」


 マレットはハンマーをベルトで吊るし、立ち上がった。


「ほな案内したる。ついて来」

「あなたも来るの?」

「ウチはそこまで強ないから、入り口までやけどな。あとはそこの嬢ちゃんがするやろ」


 火龍の心炉の入り口には、マレットの代わりだろう、若い男性が立っていた。武器として剣を下げているが、どうにも頼りなさそうだ。


「あ、マレットさん」

「んん、ナットの坊主やん。アンタとこのジジイはどうしたん?」


 マレットが右手を挙げてひらひらさせると、ナットは慌てて小走りに彼女に駆け寄った。


「親方は別の用事が入ったんで、僕が代わりを。その……彼女たちは?」

「ん? ウチの客やけど、どうかしたん?」


 ナットはマレットの近くにいる私たちを見ると、困惑しきった様子で声をかける。


「琥珀、だよね……? いったいどこに行っていたんだい? 心配していたよ」

「知り合い?」


 私の疑問に、琥珀が頷く。


「私の前のご主人様です」


 この頼りなさそうな男性が……。気弱そうな見た目をしていながら、男二人に嬲らせて荒野に放置させるとは、中々やる。やはりヒトは見かけによらない。


「私は新しいご主人様を見つけました。今はその方にお仕えしています」

「えっ!? それじゃあ、そこの方が?」

「はい。新しいご主人様は高位ランクの冒険者をなさっている、とても素晴らしい方です」


 私を話題にしないでほしい。傍観者のまま、面倒そうな臭いの漂う会話を眺めていたかったのに……。

 鬱陶しい。しかも女々しい視線をナットに向けられ、私は渋々名乗ることにした。


「……【潜水者の街】のナミ。私は琥珀のご主人様とやらになった覚えはない。主人だったっていうなら、いつでも引き取りに来て良いよ」

「なっ、こんな……本当にこんなヒトに……?」


 私のあんまりな言い草に、ナットは言葉もないようだ。そのまま永遠に黙っていてほしい。いや、別に話してもいいが、面倒なことは当人同士でやっていればいい。


「なんやけったいなことになっとるなぁ……」


 マレットが呑気な感想を漏らした。


「ご主人様、洞窟へ参りましょう。道はご案内できます」

「了解」


 私は暗い口をぽっかりと開ける洞窟の中へ消えていく、メイド服の少女を追った。




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