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ナナツヨの泣かない死霊術師  作者: いちい
きちがい暗殺者と木の国
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藪の中

 




 城に報告に戻ると、ヴァイスとリーファは帰還をとても喜んでくれた。同時にかなり忙しくもなったようだ。

 大元の原因は消えたものの、既に発生している強化モンスターがいなくなるわけではない。被害を受けた人や場所への補填も行う必要がある。

 また、彼らの支援したニンゲンである私が討伐に成功したことで、彼らの発言力も強まったらしい。

 エルヴィンによって先代女王は殺されてしまっていたけれど、これからはリーファが王位を継承し、徐々にだが外界とも関係をもっていくのだと吹っ切れたように笑っていた。


 緑色の魔晶石は、リーファに託してきた。

 彼女の作るエルフの新たな未来。そこに今はエルヴィンはいないけれど、彼の心は彼女が一番理解できると思ったからだ。今はわからなくても、いつかきっと。


 帰りは護衛に兵士をつけてもらい、快適に森を抜けることができた。

 なぜか精霊樹の塔を出てから、ユーグは姿を消した。表舞台に立つ意思はない、という意味なのだとばかり思っていたが、それは森の外で待機していたギルドの職員に連れられギルドに寄ったことにより、覆された。


 護衛と入れ替わりに慌てた様子の職員に連れて行かれたのは、ギルドの2階にある奥まった部屋だった。

 執務机に座りながら、苛ついた様子で彼は書類片手に頬杖をついていた。


「よく来たね」


 まったく歓迎していない声色で、木の国のギルドマスターであるエリクは半眼になって私を見た。


「ああいうことされると、困る」

「ああいうこと?」

「仲介。すっぽかした」

「…………は?」


 仲介。エリクに頼んだ仲介といえば、暗殺者ギルドのユーグとの繋ぎのことだろう。


「そんなはずない。合流は成功した」


 私の言葉に、エリクの目が鋭くなる。


「どんなやつ?」

「金髪碧眼のエルフ。若い男。名前はユーグ。弓と双剣使い」

「一般的なエルフの特徴。当てはまる者、多い。他には?」

「かなり強力な幻覚を見せる魔法を使った」


 光属性だと思うけれど、魔法陣が複雑すぎて断言するには至らない。もしかしたらギフトかもしれない。


「高精度で、触れない限り幻か見分けがつかなかった」

「僕の手配した人間は別。幻覚を実用レベルで使うニンゲンなんて、聞いたことがない」

「…………」


 それなら彼は誰だったというんだろう。

 彼との出会いからいなくなるまでを思い返す。すると、確かに不自然な点があった。最初に森を抜ける時以外、私は彼に一度も触れていないのだ。

 彼は触られない限りは見た目を偽れるニンゲンだ。最初から幻を纏っていたなら、私は彼の姿を一切知らない。そう考えるのが自然だろう。

 体格や声から若い男だというのは正しいとは思うけれど、魔法があるこの世界ではそれすらも曖昧だ。

 場に満ちる沈黙。


 エリクは少年にしか見えないその顔に、神妙な空気を漂わせた。


「ナミ。誰かに探られているのかもしれない。気をつけるべき」

「そう、だね……」


 私を探ろうとするのであれば、確実に勇者関連の筋だろう。

 頷きながら私の頭を、精霊樹の塔を出てから姿を現した木の大精霊の言葉がよぎる。

 パトリシアと名乗った生真面目そうな少女の容姿の精霊は言った。クレメンスを信じるな、と。


『彼の神は世界を守ることしか考えていらっしゃらない。勇者様、どうか彼の方にお気をつけを。願わくば、千年前の悲劇が繰り返されませぬよう』

『千年前、一体何が起きたの?』

『それは闇の国でお調べください。わたくしには公平に語る言葉がないのです。わたくしどもめもまた、当事者でありましたゆえ』


 ユーグは暗殺者ギルドの構成員として演技をしていたけれど、一貫して彼自身の言葉に嘘はなかったと思う。

 少なくとも、私を騙すようにしてみんなの成れの果てを殺させているクレメンスとは違う。


 何かを考えるような素振りを見せながら、エリクが問う。


「次、どの国? 火……闇?」

「闇の国に行く」


 千年前の勇者の経緯を調べるには、それが一番だ。

 しかし彼は反対した。


「やめたほうがいい。闇の国のギルド、連絡が取れない。調査中」

「でも」


 彼はらしくない強い語調で割り込む。


「火の国のギルドを通して連絡できる。…………僕の提案で暗殺者ギルドを紹介しなければ、変なの(ユーグ)には捕まらなかった。これ以上何かあったら、イヴァンに殺される」


 ぼそりと付け加えられた言葉に、真意が見えたような気がした。彼の中で水の国のギルドマスターは一体どんなニンゲンになっているんだろう。


「提案は有り難い。でも、気にしすぎだと思う」

「イヴァンはそんなことしない?」

「……そうは見えない」


 肯定する私を、エリクは鼻で笑った。


「イヴァン、甘くない。お気に入りは少ない。でも、その分目をかけて育てるタイプ。それに────」


 エリクは机に一時置いていた書類を手に取った。


「数少ない有望な冒険者を死地に送り込むのはダメ。闇の国に送った者は、誰一人帰ってきていない」



忙しさはだんだん緩和されつつあるので、とりあえず一話。

なんだかブランクのせいか、文章が変な感じがします。う〜ん。

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