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ナナツヨの泣かない死霊術師  作者: いちい
かいらい教皇と光の国
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掴んだ希望

 





「そんなわけないでしょ」


 「勇者か」なんて寝惚けたことを尋ねるジークフェルに、私ははっきりと告げた。


「尋ね方が悪かったですか。あなたは神に会ったことはありますか?」

「ない」

「では、夢の中で神託を受けたことは? あるいは、聞こえないはずの声を聞いたといったような」

「……ない」


 そんなことがあったら、まず自分の頭を疑う。

 そんなこと、ありえない。

 ……私のいた世界では。

 だが、もしかして、この世界ではあることなのだろうか。


 以前、リディアに言われたことを思い出した。死んだニンゲンは確か────『魂は混沌に還り、記憶は秩序に消え、肉体は自然に溶ける』。

 私は教義的な意味だとばかり思っていたけれど、まさか。


「神は、いるの?」

「ナミさんの世界では、神はいなかったんですね」


 いる、の…………?

 呆然とする私の前で、ジークフェルは簡単なこの世界の説明をしてくれる。


「この世界のニンゲンは、生まれる時にギフトを魂に付属して持たされています。そして、秩序を管理する秩序の神はナナツヨを監視しており、世界を廻すため、必要に応じて祝福(ブレス)を与えます。自然の神は世界の管理を、混沌の神は死後を担当しています」


 それは私の理解の範疇を、軽々と超えていく。


「ですが、この世界のニンゲンでは解決できない問題が生じると、混沌の神の許可を得て、秩序の神が救世の勇者を異世界から召喚します。一番新しいものでは、千年前になります」

「金の国でも勇者を召喚してるみたいだけど。……それとは違うの?」

「救世の勇者と勇者は別物です。最大の違いは、【浄化】を持つかどうかです」


 浄化……。

 私のギフトは、そんなにすごい能力なのだろうか。

 それなら…………。


「この世界では、ギフト『浄化』は神が勇者に手渡すもの。勇者は世界を越える時に自らギフトを一つ獲得することができるので、二つ目のギフトとなります。ナミさんのように、神にも会わずにというのは例がありません。クロード、ギフトは【浄化】と何でしたか?」

「【浄化】だけです。他のギフトや祝福(ブレス)はありません」

「おかしいですね。イレギュラーなのでしょうか。……ナミさん、どうしましたか?」


 どうして、私は仲間を助けられなかったの?

 あの時、私がギフトを使えていたなら。みんなは死ななくて済んだのだろうか。

 もしそうなら、みんなを殺したのは魔女じゃなくて────私?


「……い、おい!」

「え?」


 肩を揺さぶられて、私は我に帰った。

 クロードが私の脇に移動して、心配そうに私を覗き込んでいる。


「おい、大丈夫かよ!?」

「…………?」


 緩慢にクロードに顔を向けると、彼は私の顔を見て何とも言えない微妙な表情をした。

 さりげなく、失礼なことを言われる。


「……やっぱりナミ様が救世の勇者っつうのはないな、うん」

「ですがクロード、ギフトはそう示しています。ナミさん、あなたがリーデティアを討伐する目的は、世界のためなのですか?」

「違う。……私はただ、死んだ仲間があんな風に利用されて、しかも別の誰かにまた殺されるのが嫌なだけ」

「では、世界のためではないと?」


 探るように念を押すジークフェルに、苛立ちが生まれてくる。

 誰が、この世界のためなんかに……。


「私はこの世界のためになんか動かない。勇者がいなければ成り立たないような世界なんて、いっそ滅びればいい」


 ジークフェルは、冷静に私の真意を見極めるように観察していた。

 ジークフェルの側に控えるクロードは息を飲み、その顔色は青い。


 世界に積極的に敵対するほどの意思はないので、勘違いを避けるために私の状況を説明しておく。


「……水の大精霊に勇者呼ばわりされて、『光の国で神の声を聞け』って言われたけど。多分、ギフトのせいで間違えられただけだと思う。私は魔女の手がかりを追いたいだけだから。今のところ、世界を積極的に滅ぼそうとかいう気持ちもないよ」

「魔女、ですか?」

「仲間の仇。……許さない」


 ジークフェルは、記憶を探るようにしながら口を開いた。


「ナナツヨでは千年前、救世の勇者が各国に現れた強力なモンスターを討伐したという伝説があります。それと前後して、魔女が各地を荒廃させたという伝承も。ゆえに魔女は自然発生する、モンスターの主であると言われています。今回の出来事と、似ていると思いませんか?」


 各国……七つの国に現れた、強力なモンスター。魔女に、勇者。

 確かに現象としては似ている。

 各地のモンスターが強力になったのも、魔女に会ってからだ。


「……魔女に会う方法は、わかる?」

「千年前の記録はどの国でも抜け落ちているので、記録にはありません。エルフや亜人の住む木の国や、研究機関の集まる闇の国あたりなら何かわかるかもしれませんが」


 やっと…………。

 やっと、手がかりをつかめた。

 魔女を、殺せるかもしれない。

 私の心にぽっかりと空いた穴を、暗い歓喜が満たしていく。


「魔女がモンスターの主というならば、七体のモンスターを討伐すれば出てくるのではないかと思います」


 ジークフェルはそう締めくくった。

 クロードはどういうわけか、立つのが精一杯というくらい具合が悪そうだ。視線が合うと、彼はびくりと肩を震わせた。


「…………っ」


 ますます青くなるクロード。どうしたのだろう。

 ジークフェルはなぜか私を一瞥してから、クロードをたしなめるように言う。


「落ち着いてください。大聖堂でも同じようなものではないですか。ナミさんほど露骨ではありませんが」

「……私の何が露骨なの?」

「ナミさん、殺気が漏れています」

「ああ」


 魔女の情報が入ったから、少し喜びのあまり漏れてしまったようだ。ゆっくりと心を落ち着かせる。

 クロードは私を見て、納得いなかそうに呟いた。


「これが、救世の勇者…………。コレが?」

「……だから違う」


 私には救世の勇者にも無印の勇者にもなった覚えはない。だが、このギフトを持っていれば魔女と会える可能性は高い。

 やっと手に入れた魔女の手がかりに喜びながら、私は真面目にジークフェルの護衛を続けた。


 なぜか一人も暗殺者は寄って来なかったが、これは嵐の前の静けさなのではないかと思う。ジークフェルの予知では、明日は激戦になるのだから。


 夜が明けるとジークフェルに夕方まで下がるよう言われ、私は退室した。





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