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ナナツヨの泣かない死霊術師  作者: いちい
かいらい教皇と光の国
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浄化と勇者

 




 仮眠をとって、軽く食事をした後。

 まだ少し早いが、日が落ちてきたのでジークフェルの私室に向かうと、彼は何やらテーブルについてぼんやりしていた。


「ジークフェル?」


 部屋の扉を閉めて呼びかけても、ジークフェルは私に気付かない様子だ。どこか遠くを見ているような目をして、ただ椅子に座っている。

 表情が完全に抜けていて、まるで人形のようだ。


「……ジークフェル」


 もう一度呼びかけると、ジークフェルの目の焦点が合い、こちらを向く。


「ナミさんですか、早かったですね」

「……さっきのは?」

「未来を視ていました。明日は激戦になるようです」


 ジークフェルは疲れたように目を擦った。


「何が見えたの?」

「リーデティアの魔法で、僕が死ぬところです」


 自分の死を予知したというのに、いやに冷静に彼は言う。


「近くにいませんでしたから、おそらくナミさんも死んでいますね」

「私がいれば大丈夫なんじゃなかったの?」


 誤解があったようですね、と言い、ジークフェルは私に席を勧めた。

 座りながら、彼の説明を聞く。


「僕の【未来予知】が視るのは、確定した未来ではありません。未来は……そうですね。道のようなものなのですよ」

「道……?」

「行きたい未来へ至る道は、一本ではない。未来は確定せずに枝分かれしていて、その時が来るとき初めて固定される。そんな印象です。僕のギフトは、無数に分かれた道のうち、任意の条件に当てはまる未来の一部を視るだけです」


 よくわからないが、パソコンの検索みたいなものなのだろうか。

 私の疑問を見て取ったのか、ジークフェルがより噛み砕いた説明をしてくれる。


「ナミさんがいることが、僕の生存条件。ですが、僕が生き延びる未来には必ずナミさんがいるというだけで、ナミさんがいる未来で必ず僕が生きているわけではありません」

「……ジークフェルが生きてる未来には必ず私がいるけど、私がいる未来で必ずジークフェルが生きてるとは限らないってこと?」

「そうです」


 私が今ここにいる以上、後は私の頑張り次第ということか。

 それにしても、効果は限定されているが、使い方を間違えなければ反則的な能力だ。


「すごいギフトだよね」

「……強力な部類には入るでしょうが、欠点も多いです。負荷がかかるので一日一度しか使えませんし、その後の行動によって新たに未来が分岐することもありますから」


 ジークフェルはその負荷のためか、目を押さえながら言った。

 その時、部屋の扉が開いて書類を持ったクロードが入ってくる。


「失礼いたします、書類をお持ちしました」


 男だと知っていても、クロードは女にしか見えない。喉仏も、さりげなく上げられた司教服の襟で違和感なく隠れている。書類の束を机の上に置きながら、クロードはちらりと私を横目で見た。


「ジーク様、何を話しておられたのですか?」

「僕のギフトの話を」

「ギフト……まさか、詳しい効果を話されたのですか?」


 咎めるような口調のクロードに、ジークフェルは落ち着いて返す。


「僕が必要だと判断したまでですよ、クロード」


 クロードと呼ばれて、彼はバツの悪そうな表情になった。


「……ジーク様。ですが」

「僕のギフトなど、とうに知れ渡っています」

「ですが、一方だけがギフトを知っているというのもいかがなものかと思います。私のギフトもナミ様は知っていますし」

「…………」


 暗にギフトを教えろと言葉と目で訴えるクロードに、私は沈黙を返した。協力者とはいえ、この世界のニンゲンは信用できないから、なるべく手の内を明かしたくはない。まして、言おうにも自分のギフトの効果もよくわからないのだから。


「おい、冒険者が自分の能力を隠すのはよくあるっていってもな。お前まさか、聞くだけ聞いておいて自分は何も言わないつもりか?」


 ジークフェルのギフトは、本人が勝手に話し始めたことだ。私が訊いたわけではない。

 できれば話したくはないけれど……険悪になるのも避けたいところだ。私は自分の設定を利用することにした。


「私にも、よくわからない」


 実際は、名前と簡単な系統まではミィシィのおかげで知っているが。

 クロードの追求は止まらない。


「ナナツヨのニンゲンなら、生まれた時に教会でギフトの確認するだろ」

「私は、記憶がないから。衰弱してるところをカスターたちに助けられて、そのまま【潜水者の街】に入った」


 クロードはしまった、という顔をした。

 聞いてはいけないことを聞いたと思っているのだろう。カスターたちが考えてくれた設定は嘘くさくはあるが、Sランクギルドの威光はそれを信じさせるだけの信頼がある。

 ジークフェルは信じているのかいないのか、感情の見えない表情で提案する。


「ギフトを知らないのでしたら、今ここで判定できます。どうしますか?」

「今、ここで……? どうやって?」

「秩序真教の聖職者だけが使える、ギフトや適性を知るための神聖魔法があります」


 そういえば、テンペランティアの魔術顧問は私の適性を知っていた。あれもその手の魔法だかギフトだったのかもしれない。


「どのくらい詳しくわかるの?」

「ギフト名、効果、系統までは」


 できればギフトを知られたくはない。だが、『浄化』とかいうギフトの効果をきちんと判定してもらえるなら、それ以上の利益があるだろう。


「お願い」

「では、クロード」

「はい。『秩序の円環を廻すモノよ、我が祈りに応えよ。彼の者に与えられし恩恵を映せ』」


 論理魔法とはまた違う魔法陣が私の足元に浮かび上がって、すぐに消えた。

 詠唱を終えたクロードはしばらく私を見ていたが、やがて間抜けな声を出した。


「…………は?」

「どうしましたか?」

「ジーク様。こいつのギフト『浄化』なんですが」

「…………」


 ジークフェルはじっと私を見つめて、言った。


「ナミさん、あなたは勇者なのですか?」




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