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ナナツヨの泣かない死霊術師  作者: いちい
泣けない死霊術師と違う世界
2/98

召喚2

 



 ついに目的地……少年の父のいる場所に辿り着いたのか。


 少年は見なりや口調からして王子だろう。

 とすると、少年の父親は国王。失礼をしなければ良いのだけれど。


 私がそわそわしていると、少年は正面にある不必要なほど大きな扉の両脇で控える2人の衛兵に、顎をしゃくった。


 衛兵は軽鎧、というのだろうか、簡易な鎧を身につけている。

 2人の衛兵が合図を受けて、重そうな扉を両側から開いていく。


 少年は扉をくぐり、中へと入っていった。


 私も後に続こうとするが、衛兵のうちの一人が私を見ていることに気がついた。

 目が合う。


 彼は、彼の相棒にも聞こえないほど小さな声で、

「お逃げ下さい」

 と言った。


 聞き間違いかもしれない。

 そう思うには、彼の目は真剣すぎた。


 私が足を止めると少年が私のところまでとって返して、制服のすそを引っ張って急かす。


 彼はもう目を伏せてしまっていて、私には問い返すことはできなかった。


 高揚してい心に影が差す。


 とにかくまずは国王に話を聞かなくては判断できない。けれど、謁見を前に、あの衛兵の瞳にあった哀れむような光は、私に一抹の不安を抱かせた。


 謁見の間は広さのわりに、ほとんど人がいなかった。これなら私が召喚されたあの部屋の方が人が多い。

 磨き上げられた白い石の床も、数人の影を映すばかりだ。


 背後で扉が軋む音がする。

 扉が衛兵の手で閉ざされたようだ。


 正面の奥、一段高くなったところに玉座があって、国王らしき人物が座っている。玉座は金色の華美なもので、細工もあいまってどこか安っぽく見えた。


 段差のすぐ下には、白いローブを着ている老人と、こちらは対照的に、優美な鎧姿の、精悍な若い青年が立っている。

 玉座を中心に、彼らは線対称の位置に陣取っていた。


 厳かな雰囲気に、唾を飲む。


 ここまではゲーム感覚で、非現実的な状況に酔って、場に流されていた。けれど、この緊張感は、明らかに現実だ。


 少年は、年齢に不相応な優雅な仕草で跪く。


「ちちうえ。せんこくしょうかんにせいこういたしました、ゆうしゃをつれてまいりました」


 国王は、頷く。


「うむ。さて、勇者殿よ、よくぞ参った。

 我こそが、偉大なるテンペランティアの国王である」


 王様にそう言ったけれど、私はどう返せば良いのか分からない。

 まさか無反応というのはないだろう。

 けれど、礼儀作法なんて分からないし、まさか現代日本に『王族との正しい接し方』なんてハウツー本があるわけもない。ましてあったとしても、読んだことがあるはずがない。


 困っている私に、王様が言う。


「楽にせよ。異世界の住人たるおぬしに、煩いことなど言わぬ」

「あ、ありがとうございます」

「して勇者よ、おぬしには、魔を払ってもらいたいのじゃ」

「魔……?」


 さっそくのファンタジーなワードに胸が躍る。

 控えていた白いローブの老人が、王に目配せして後をつぐ。


「つまり、魔物退治ということですじゃ。勇者の世界には、魔物はおらなんだですかいのう?」

「いません」

「ふむ」


 国王が唸り、私をじろじろと眺めた。露骨な値踏みに少し気分が悪くなる。


「水場に水龍竜が棲みつき、民は苦しんでおる。その竜を倒し、国を救ってくれ」

「その前に、私は元の世界に帰れるんですか?」


 これだけは訊いておかないといけないだろう。確かに元の世界はつまらなかったけれど、私には家族や友達がいる。未練がないわけではないのだ。


 ……それに、この質問はテンプレだし、ね。


 国王は重々しく頷く。


「おぬしが災厄をうち払えば、あるいは」

「……え?」


 ──『あるいは』?


 聞き間違いじゃ……ない、の?


 ──間抜けな話だけれど、否定されたときのことなんて考えていなかった。

 冷静に考えればそうなのだ。物語でも、必ずしも帰れるとは限らなかったじゃないか。


 無情な国王の声が、まるで他人事のように耳に入り込む。


「この世界の人間は、みな『ギフト』と呼ばれる能力を持っておる。ほとんどが他愛もないものだが、異世界から召喚された人間は、総じて優秀な能力を授かりやすい」


 ひどい顔をしているだろうと、自分でも思う。

 何が起きているのか、理解できない。思考が鈍く、まともに働いてくれない。いっそ、わめいて取り乱せたらよかったかもしれない。

 けれど、まだ混乱から抜け出せない私には、ただ突っ立っていることしかできなかった。


「魔術顧問よ、その娘の才はどうだ?」

「さあて、魔力こそ強いようですがのう。……論理魔法、精霊魔法、神聖魔法。いずれもたいした才能はなさそうですじゃ」


 国王のため息が聞こえる。私が(すが)るような目を向けると、王はそれを黙殺して、若い男を一瞥した。

 一瞬の後、左腕に激痛が走る。


「……っ、きゃあああああ!」


 頭を占めるのは、熱い、そして、痛い、という感覚。経験したことのない痛みに、頭が埋め尽くされていく。


 急激に、ぬるま湯のような幻想につかっていた思考が、現実に追いつく。


 なんでこんなことを……?


 左腕を押さえていた手を見る。べったりと、赤い液体がぬるついていた。


「あ……う……」


 入り口で衛兵が耳打ちしたのは、このこと?


 裏切り。

 その言葉が頭を過った。けれど、そう、それはおかしな話なのだ。

 最初から、ここに私の味方なんて一人もいなかったんだから。


「あー、武術も見ての通りです。才能ナシ」

「うむ」


 床に倒れこんだ私が見上げると、玉座に座った王は、私をゴミでも見るかのような目で見下ろした。


 国王が、指を鳴らす。


 すると、私たちの入ってきた扉が開いて、騎士たちがなだれ込み、私を取り囲んだ。


「ソレはハズレだ。役に立たん。檻に閉じ込めて、水竜の餌にでもしておけ。多少は時間が稼げるだろう。もし水竜がまだ暴れるようなら、また平民の娘でも与えておけ」


 今日の夕食がまずかったからコックを呼べ、というような口調だった。


 私は、はっ、と敬礼した騎士たちに、即座に捕らえられた。両腕を後ろに回して拘束される。


 国王は足を組んで、肘掛けに肘を乗せ頬杖をつきながら、傲然と目を細める。


「やれやれ、ようやくあの泉の水が手に入ると思ったのだが。いくら平民を犠牲にしようとも、妃や娘の願いは叶えてやりたいというに」


 こんなはずないよ。

 だって。私は必要とされてよばれて。


 ────ソレはハズレだ。役に立たん。


 首筋に衝撃を感じ、意識が闇に呑まれていく。

 薄れゆく意識で最後に認識したのは、

「つかえないな。これじゃあちちうえにほめてもらえないじゃないか」

 という、子供の声だった。




冒頭が唐突すぎる気がしたので、改稿しました。その関係で、「召喚」は大幅に修正されています。



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