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優良はほこりをはたきながら降りてきた。
圭「なんでこんなことしてるんですか」
優良「すいません…。統一さんがどうしても見てこいと…」
圭「ああ、統一が…」
これも統一が心配してのことだろうと圭は考える。
優良「…すいません、何か余計なお世話で」
圭「え、何でですか?」
優良「え…?」
圭「嬉しいですよ、俺は。それに、一人で少し心細かったし」
そう笑顔で圭は言う。
元々一人で行くつもりなど圭には毛頭なかったのだ。
顔が強張っていたとは言え、やはりいつもの圭なのには変わりはなかった。
優良「そ、そうですか」
優良はそんな圭にすこし顔が赤くなる。
つい、照れてしまう。
ホッとした、というのもあるが、自分の存在を嬉しいと、こうして、まじまじ言われると圭に惚れてしまいそうだった。
圭「どうかしました?」
優良が自分をずっと見ていることに気づいた圭は不思議そうな顔で言う。
優良「な、なんでもないですっ!ささ、先へ行きましょう」
圭「は、はあ」
ガチャ!と優良は勢いよく扉をあける。
優良「ささ!」
「Who are you!!」
圭「あ」
あっけなかった。
外国人の黒人の男に圭は拳銃を頭に突きつけられた。
圭「ググ…(頭に拳銃が…)」
優良「あわわわわ!ちゃんと確認しておけばよかった」
まさに油断大敵。
そして、絶体絶命である。
圭「やばい…。こういうときこそ英語を…」
優良「えっ!喋れるんですか?」
圭「一応、高校生だぞ!ま、任せとけ」
拳銃を頭に押さえつけられたまま圭は話す。
圭「ナ、ナイストゥー、ミーテュー」
黒人「Ah?」
圭「…」
黒人「…」
支配する沈黙、流れる時間。
だが、黒人の沈黙も時間の問題だった。
黒人「I do not really understand!Sloppy, I'll kill you!」
圭「な、何か切れてる…」
優良「高校生…」
優良はひどい語彙力に圭をジト目で睨み付ける。
圭「し、しょうがないだろ!次の言葉が何も浮かんでこなかったんだよっ!」
黒人「Fuck you!」
黒人の男は圭の頭に突き付けた拳銃の引き金をひこうとした。
圭「ちょ、ちょっと待って。な、仲良くしましょうよォォォオオオオ!」
と叫んだ瞬間。
「Don't stop!」
ピクッ!と誰かの声で黒人の男の動きが止まった。
「大丈夫?君たち」
奥から黒人の男の動きをとめた人物が歩いてきた。
よく見ると相手は小さな子供だった。
まだ小学生くらいだろうか。
圭「君は…?」
ジオン「僕の名前は督川ジオン」
圭「督川…」
優良「ジオン…」
圭「督川…」
「アアー!!」とジオンの指をさしながら圭と優良は叫ぶ。
まぎれもなくそこにいたのは督川ホールディングスの御曹司、督川ジオンだった。
ジオン「人にいきなり指をさすなんて、心外だなあ」
ジオンは圭の目をずっと見ている。
圭「き、きみが徳川家末裔の…」
圭は渋々だった。
さっきの怒りは冷めていた。
あまりにも目の前にいる少年が毅然としていたからだろう。
ジオン「うん、そうだよ」
目の前にいるのは督川ジオン。
圭が先ほどまで怒りを抱いていた相手だ。
だが、まだ相手は小さい。
圭は言葉を選んで話そうとする。
ジオン「君たちはこう言いたいんだろう?『なぜ西軍と組んでまで督川は自分たちと話をしようとしないのか』」
圭「い、いま俺の話そうとしたことがそのまま…!?」
優良「えっ!?それって…」
(魔法でも使ってるのか…!?)
と圭は驚く。
ジオン「そうだよ」
圭「うわっ!人の心を…!!」
ジオンは圭の思っていたことに答える。
ジオン「今のは読心術さ」
優良「そんな小さい子が読心術なんて…。もしかして、魔術…」
ジオン「そう。"魔術"の読心術だよ」
圭「ま、魔術!?」
圭はもう何が何だか分からなくなってきた。
犬から人間になった者。
第二の関ヶ原。
今度は魔術である。
ジオン「魔術は外国の魔術の先生に教えてもらったんだよ」
優良「魔術、武術、もしかして…」
圭「…?」
圭は頭が混乱してもうどうでもよくなってきた。
これ以上優良から自分とはかけ離れた発言は聞きたくはない。
ジオン「気づいたかい?」
優良「や、闇、君は闇の…」
圭「闇?」
闇。
統一は督川は闇との関係があると言っていた。
ジオンは口を開く。
ジオン「そう。僕は闇の後継者…」
圭「闇の後継者!?」
優良「闇の後継者は子供のころから武術から魔術、全てを教え込まれ、闇の頂点に立つ後継者その人のことです。まさか、魔術が本当に存在していたなんて…」
圭は想像ができない。
武術と魔術。
ただでさえ、統一や冷夏などは武術一筋なのだが、この少年は違う。
全てを兼ね備えている。
力も精神も技術も何もかも全て。
ゆえにジオンは圭から目を逸らさない。
逸らす理由がないから。
ただ、それだけだ。
だが、並の者にはそれは困難だろう。
圭はそう思うと目の前の少年が恐ろしくなる。
圭「ゆ、優良さんは知らなかったの?」
圭はつい目を逸らして優良の方を向く。
優良「流石に魔術は…。空想的なものですから…」
しかし、闇の後継者、そこまでの人物だということはこの子供が全ての元凶の後継者かもしれない、と圭は思う。
その考えにジオンは口を開いた。
ジオン「そうだよ。僕が君のいう元凶の全ての後継者さ。ましてや関ヶ原は僕が仕組んでいる…。とでも思ってて欲しいね」
「…!?」
二人は驚くしかない。
ジオンは『関ヶ原は僕が仕組んでいる』と言った。
(まさか、この子が?)
と圭は思う。
いくらなんでも相手は子供。
そんな考えは持つわけがないと勝手に圭は考える。
圭は聞いた。
圭「何でこんなことするんだ?」
ジオン「何でって、それは今が楽しくないからだよ。時間に縛られ、税金に苦しみ、体力を犠牲にして、死んでゆく…。そんな世界はつまらないだろう?だから、好きなように壊す。僕の好きなように、闇に葬る…。イヒヒッ!そっちの方がずっと楽しいよ!ずっとねェ」
圭「…」
目の前の子供は蔓延の笑み。
これは以上だ。
この世には厨二病というものが存在するが、この子供は厨二病を通り越している。
あまりの冷酷さに圭は圧倒される。
何があってこんな子になったのか、と思うばかりであった。
さらにジオンは信じられないことを口にする。
ジオン「そういえば、君は本田忠雄の息子だよね」
圭「忠雄…?」
圭は自分がおかしくなったと思う。
忠雄。
自分には心当りなどない。
だが、聞いたことはあるような気がする。
圭「う…」
優良「け、圭さん!!」
圭はうずくまる。
頭が痛い、というよりいろんなものが混同していてそれに苦しんでいた。
優良「大丈夫ですか?」
優良は圭に駆け寄る。
ジオン「ああ、そう言えば社長が言っていたな。これは禁句だって」
優良「ジオンくん!!」
優良はジオンを睨み付ける。
だが、ジオンは目を逸らさない。
逸らす理由がない。
圭「くっ…」
ジオン「ああ、そういえばこんなものもあったね。もう、用済みだけど」
苦しんでいる圭。
それを見てジオンは一本の刃が斧のように太い槍を隣にいる人に持ってこさせた。
優良「こ、これは…」
圭は落ち着く。
自分が統合された様な気分である。
だが、優良の言葉に頭をおさえながら圭はついついジオンの方を見る。
圭「!?」
先が太く、まるで斧のように厚い。
これは父、忠雄が持っていた、先祖代々の槍。
忠勝のとは異なるが、文句のない名槍の名を受け継ぐ権利はあるだろう。
圭「とんぼ…ぎり…」
優良「圭さん?」
ジオン「おや?」
ジオンは意外そうな顔をする。
圭「なぜ、なぜお前が父さんの槍を持っているんだ!!」
いつの間にか圭は忠雄を父と言っていた。
ジオン「だからもういらないから。じゃあ僕はちょっとした会議があるから」
そう言ってジオンは蜻蛉切を置いたまま、奥へ戻っていく。
圭「待て!ジオン!」
圭は追おうも黒人に腕を固められて動けない。
圭は自分の父親の槍が『いらない』と言われたことに深く傷ついたが、何より、ジオンがこの槍を持っていたことが一番ショックだった。
"忠雄が父かはよく分からない。
だが、忠雄は父だ。
自分の尊敬していた。
父親なのだ"
頭が混同する中、圭はそんな考えを巡らせていた。




