キツネと魔女
あるところに、たいそういたずら好きなキツネがいた。
毎日毎日飽きもせず、毎日毎日だれかれ構わず、キツネはいたずらをくり返していた。
そんな怖いもの知らずのキツネは、あるとき魔女にいたずらをしてやろうとたくらんだ。
魔女の留守を見計らって家に忍び込むと、キツネは魔女の大事な品々を壊してまわった。
しかし生憎のこと、なんといたずらの途中で魔女が帰ってきてしまった。
「悪ふざけが過ぎたな、この薄汚いキツネめ」
魔女はキツネを捕まえると、両手両足を縛りあげた。
「さて、どうやって殺してやろうか。そうだ火あぶりにするのがいい」
するとキツネは言った。
「いやいや、やめておいたほうがいい。キツネは火の化身だぞ。そんなことをすれば火の神の怒りを買う」
「ふむ、それもそうだ」
魔女は考えた。
「そうだ、ならばナイフで心臓を一突きにしてやろう」
するとキツネは言った。
「いやいや、やめておいたほうがいい。キツネの心臓は非常に小さい。とてもじゃないが一突きになんてできないさ」
「ふむ、それもそうだ」
またまた魔女は考えた。
「そうだ、ならば毒薬を作って飲ませよう。いくらキツネでも毒を飲めば死んでしまう」
するとキツネはうなだれた。
「ううむ、確かにそれならば俺はひとたまりもないだろう」
魔女はさっそく毒薬作りの準備に取りかかった。
「お前にはあえて弱い毒薬を飲ませてやろう。じわじわと苦しんで死んでいくがいいさ」
魔女は愉快そうに笑って言った。
するとキツネは驚いた顔をした。
「おいおい、まさかそんな毒でキツネが死ぬと思っているのか。キツネは虫も食えば、死肉も漁る。そんな毒薬俺にとっちゃただの飲み物だ」
「ふむ、それもそうだ」
魔女は弱い毒薬ではなく、強力な毒薬を作った。
「さあ完成したぞ。これを飲むんだ」
魔女はキツネの顔に毒薬を近づけた。
するとキツネは呆れた表情をした。
「やれやれ、この手足を縛られた格好でどう飲めというんだ。無理やり飲まされれば、むせてお前の顔に吹きかけてしまうぞ」
「ふむ、それもそうだ」
魔女はキツネの拘束を解いてやった。
「さあ、今度こそ飲んでもらうぞ。そしてお前は死ぬんだ」
魔女はキツネに毒薬を手渡した。
するとキツネは渋い顔つきになった。
「まてまて、これは本当に強力な毒薬なのか。もしかしたら間違えて作っているかもしれない。ちゃんと自分で飲んで確かめたほうがいいぞ」
「ふむ、それもそうだ」
魔女はキツネから毒薬を受け取ると、ぐいと一口飲んだ。
「うむ、確かに強力な毒薬だ。さあ、次はお前の番だ」
キツネは腹の中でほくそ笑んだ。
(まったく、こうも騙されるとは馬鹿な魔女だ。お前が飲んで死なないなら、俺だって死ぬはずがないだろう)
キツネは勝ち誇ったように毒薬を飲むと、その場に倒れこみ苦しみだした。
「これはいったい、どういうことだ」
もがき苦しむキツネを見ながら、魔女は静かに言った。
「まったく、私を罠にはめようとは馬鹿なキツネだ。魔女がキツネ用の毒で死ぬはずがないだろう」