第4話 「身勝手な自分」
「結局それは自己満足でしかなかったんですよ。」
そんな大杉の言葉が木村の心を揺らす。良いことをしていた自分・・しかしそれは身勝手な自分でもあった。
どの位そうしてつっ立っていたただろう・・いや実際には数分程度だろうが、妙に長く感じられた。
「僕は・・ワガママだったのか・・」
ついさっき言われた言葉が頭の中を駆け巡る。
たしかに長瀬を完璧に理解していなかったかもしれない。
だが自分なりに努力したつもりだった。
だがそれが坂井から見ればワガママ・・もう訳が分からなかった。
「どうしかしたんですか木村先生。」
突然声をかけられふと顔を上げると、そこには大杉が立っていた。
「なにかあったんですか。」
再び尋ねる大杉。
「いえ・・何でもないです・・・」
大杉の質問に答えず立ち去ろうとする。
「坂井先生のことですか。」
その言葉に思わず足を止める木村。大杉はやはりといった感じで頷いている。
「まあ立ち話もなんですからそこに座りませんか。」
「え・・ええ。」
大杉に促され椅子に座る。
「そ・・それで何故分かったんですか。」
木村が驚きながら大杉に尋ねる。
「まあ長年こうして仕事をしているといろいろな話を聞きましてね〜まあ坂井先生のこともそれで知ったんですがね。」
そう言うとぽつりぽつり喋りだした。
「これは坂井先生がここに来てすぐの話なんですがね、坂井先生も君と同じく第4外科に回されたんですよ。それで患者も若い女性だったんです。」
「それが・・何かまずかったんですか。」
「いえ、別にそれは良かったんです。問題はその後で・・坂井先生は必死になって尽しましたが結局それは自己満足でしかなかったんですよ。」
「自己満足?」
思わず口に出す木村。するとまた話を続けた。
「つまり患者のことを考えていなかったんですよ。患者はこうすれば喜ぶ、こうすれば安らぐ・・そんなの医者の自分勝手じゃないですか。それに坂井先生は気付いたんですよ。」
そこでしばし沈黙が流れる。
常識が通用しない・・・坂井の言っていたことがなんだか分かってきたようなきがした。
「じゃあ・・ここでどの位もつかっていうのはどういうことなんですか。」
「ああ、それは簡単ですよ。この第4外科でやっていけるかってことです。まあそれだけ厳い現場なんですよ。」
そこまで言うと立ち上がる大杉。
「木村先生。何も必死になるなとは言いません、がそれなりに考えないと後で自分が傷付くことになりますよ」
そう言うと大杉はその場を去って行った。
後に残された木村は、この先の事に不安を感じるのだった。