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第3話 「通用しない常識」

患者の事で悩む木村・・思わず坂井に相談する・・だがかえってきた答えは予想に反して厳しいものだった・・・


辺りは暗くなり始め、電灯がつき出してきた。そんな薄暗い路地を木村は歩いていた。あの長瀬の言葉が頭から離れない。

『ねえ先生・・・死んだらどうなるんでしょうね・・』

『医者はいっつもそう・・』

『どれだけ残酷な思いをするか知ってるんですか』

『第一何も分かっていないんですね』

そんな言葉が頭の中を駆け巡る。

(何だっていうんだ・・・僕のやってることは間違ってるのか・・・希望を持つことはそんなに悪いのか・・・)

自分に問いただすように考える木村。だがその答えは見つからない。

今まで病気の患者とは何度か接したことはあったがこんなことは初めてだ。

第一生きたいと思わない患者など見たことが無い。

そこからして木村には想像できないことだった。

その夜、木村は寝床についてもなかなか眠れずにいた。

これからのことを考えるとどうも荷が重く、目を閉じても彼女の声がやはり頭から離れない。その夜、結局一睡も出来なかった。

しかし仕事を休む訳にはいかない。何より彼女に会いもっと話をしたかった。

「どうしたんだい木村君。随分と顔色が悪そうだが・・・」

坂井が木村の顔をまじまじと見つめながら言う。

「えっと・・ちょっと昨日良く眠れなくて・・・・」

「ほう・・・長瀬さんのことか。」

その言葉に体を硬直させる。

「ど・・どうしてそれを・・」

「大体分かるさ、今までいろいろな人を見てきたからね・・・一体どうした。」

もうこの頭の中のもやもやを無くせるなら誰に話しても良かった。昨日のことを吐き出すようにしゃべる。

「・・・てなことです。」

大体話し終えると大きく深呼吸する。一方の坂井は大体理解したのか頭を縦に何回も振っていた。

「なるほどね〜まあたしかに君がそう思うのも無理はないかもな。」

「そうですよね、あんなこと言われたらどう処置すればいいのか・・・」

そこで坂井は一息入れると思いもよらぬ言葉を口にした。

「でもそれは君のワガママじゃないか?」

「えっ・・・・」

思わず思考が停止する。何を言われたか最初は良く分からなかったが、やがてそれが自分の意見と違うということが理解できた。

「ワガママ・・ですか?」

「そうだ、君はがんという病気を知ってそんなことを言ったのか?」

「それは・・・ある程度は知ってます。」

少し口ごもりながらも答える木村。

「がんは人間の性格と同じく、人それぞれ違う。まあ極端に言えばがんにも個性があるということだ。そのため一人一人医師が良く診察してこれからの治療などを決めていく。

逆を言えば医者が患者を良く理解してあなかったら、満足な治療ができないということだ。」

その言葉で坂井の言いたいことを木村は理解した。

「つまり先生は・・僕が・・長瀬さんのことを・・理解してないと・・」

「そういう事だ。木村君、ここで普通のやり方は通用しないよ。」

そう言うと木村の肩を軽く叩き、部屋を出ていった。

後に残された木村は、呆然と立ち尽くしていた。後に残された木村は、呆然と立ち尽くしていた。

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