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第2話 「患者との対面」

初めての患者を受け持つことになった新米医師木村。だがそれは彼の予想とは違い厳しいものだった。彼女の言葉は・・がんを鮮明に浮き出させていた。

「どうです長瀬さん、気分はどうですか?」

坂井が気遣うように語りかける。

「ええ・・・別に普通です・・」

それだけ言うとまた顔を横に向け外を眺める。

「今日はですね、新しい先生を紹介しにきました。それじゃ木村先生。」

坂井が自己紹介するよう促す。

「はい、え〜と長瀬さんの担当をすることになりました木村英介です。新米ですが何かあれば気軽に言ってくださいね。」

明るく話しかけたつもりだったが、ずっと外を眺めているだけで何の反応も示さなかった。

「それでは長瀬さん、また来ますから。それじゃ行こうか木村先生。」

「えっ・・あっはい。」

ハッと我に返り返事をすると坂井と共に部屋を出て行く。

「何か言いたそうだな。」

廊下を歩きながら浮かない顔をしていることに気付いたのか、話しかける。

「えっと・・ええ。何であんなに元気がなかったのかなって。」

「そりゃガンだなんて言われたら誰だって元気ないだろう?」

「それはそうですけど・・・」

あまり納得出来ない木村。すると坂井が口を開いた。

「まあ彼女の場合・・仕事上の問題もあるな。」

そう言うと自分の机の上に置いてある書類を木村に手渡す。

「長瀬 瞳 27歳 独身 3ヶ月前肺がんでうちに運ばれてきた。

 それで彼女は・・新聞記者だ。」

「新聞記者?」

書類から顔を上げ坂井の顔を見る。

「そうだ新聞記者だ。」

「でも新聞記者だから何なんですか?」

「つまり・・それだけ世の中を知ってるってことだ。

 がん治療のこともな。聞いてみれば以前にがんについて特集をしたらしい。

 それでいろいろ知ったそうだ。」

コップにコーヒーを入れながら言う坂井。

「だからって言ったって治らないって決まったわかじゃないでしょ。」

「もちろんそうだが・・死亡率NO.1だと知ってたらそう思うのも無理はないだろ。」

そう言うとコーヒーをすする。

「まあ君もそのうち分かるさ。この第4外科がどれだけ地獄かってことがね。」

その言葉に思わず身震いする。

「あっと・・ちょっと長瀬さんのところに行ってきます。」

そう言うと坂井の返事を聞く前に部屋を出て行く。

「さて・・・木村君・・・ここでどのくらい持つか見せてもらうよ。」

慌てて行く木村の背中を窓越しに見つめながら言う坂井だった。


「長瀬さん、長瀬さん。」

声をかけながら近寄ると相変わらず外を眺めていた。

「すいません、少し話しませんか?こうしてても暇でしょう。」

そう言いながらベッドの脇に置いてあるイスに座る。

「長瀬さん新聞記者やってるんですよね。」

そう尋ねてみると返事はせずただ首を一回縦にゆっくり振った。

「そこで知ったんですか、がんのこと。」

そこでしばらく間が空いたが初めて長瀬が口を開いた。

「ねえ先生・・・死んだらどうなるんでしょうね・・」

「えっ!?・・・」

突然の質問に戸惑う木村。

「私・・自分でなんとなく分かるんです・・もう無理だって・・」

「そっ・・そんなことないですよ。まだ検査の結果も出てないじゃないですか。」

「いいんです・・医者はいっつもそう・・治らない可能性のほうが高いのに

 無理に勇気づける・・私が取材した患者もそうでした。」

天井を見つめながらしゃべり続ける。

「その患者も・・取材の2ヶ月に死にました・・その次の患者もです・・・・

 それでまさか自分がなるなんて・・皮肉ですね。」

かすかに口元に笑みを見せる長瀬。だがそれは悲し気でもあった。

「でもそのわずかな希望でも持ち続ければ・・・」

「やめてください!」

木村の言葉が気にさわったのか怒鳴る長瀬。

「希望?・・そんなものにしがみついて・・それで助からなかった人が

 どれだけ残酷の思いをするか知ってるんですか?

 私はそんな思いしたくありません。先生も結局・・他人でしかないし・・・

 第一何も分かってないんですね。」

そう言うとまた外を眺める長瀬だった。


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