無関心
あの手紙にはこう書いてあったのだ。
『君は僕に似ているから』
『自分の生活、場所、人間関係という自分を形成するもの以外を見てもどうにもならないし、どうしようともしない』
『ただそれを素通りする』
『君と僕はそんな人間だ』
「……結局『僕の平和な世界』のみが僕のすべて、ってことか」
だから少年Bが現れるまでは、僕が犯人扱いされて『僕の世界』が崩れるのを恐れたが、犯人が登場した今、もうこんな事件はどうでもいいのだ。もう興味もわかないのがその証拠だ。それならここに来た目的を行って何が悪い。
「そうだ!」
そこまで考えて、思いついた。そういえば一つだけ聞かなくてはいけないことがあった。
「おい、犯人君。一つだけ聞いてもいいか?」
さすがに本人に少年Bと言うわけにはいかないので、そこは適当に変更する。
「いいですけど、先に僕の話を聞いてください」
少年Bからはそんな答えが返ってきた。僕は本に目を落としたまま、いいよー。と返事をした。僕はページをめくる。
それから五分ほど少年Bは今回の事件について語った。ちなみに僕は十ページほどページが進んだ。
少年Bの話を要約すると、どうやら彼は少年Aから嫌がらせを受けていたらしい。だから屋上に呼び、堂々と嫌がらせを止めるように宣言した。すると、少年Aは少年Bに襲い掛かり、いろいろあってああなったそうだ。
あのナイフも彼のです。と少年Bは追加した。
「以上のことを踏まえて、僕は被害者・加害者どっちだと思います?」
そして最後に少年Bはそんなことを聞いてきた。
「争いなんて、傷を多く負わしたほうが加害者で、傷を多く負ったほうが被害者だろ」
今回は、命を失ったAが被害者で、奪ったBが加害者だ。(面倒だから少年を省略する)
そう伝えると、
「そうですか……。本格的にどうしましょうかね。学校のインタビューで『あんなことする子じゃなかった』とか言われるのかな」
「どんな心配してんだよ!」
思わず顔をあげてしまった。顔をあげたついでに、一旦本を閉じる。
「話を聞いたから僕が質問するぞ」
「ええ、いいですよ。約束ですから」
僕は立ちあがり、少年Bに視線を合わせる。
「『鍵』を持っているのは、あいつと、お前どっちだ?」
僕はあいつでAを、お前でBを指さす。
「……僕ですけど」
そう言ってBは制服のポケットから『鍵』を取り出す。いま気付いたが返り血は手のひらに最も付着していたらしく、『鍵』は血に染まって赤くなった。
僕はハンカチを取り出し、Bの手のひらの上の鍵を掴んで、ハンカチで包み、ポケットにしまった。
「これは貰っておくぞ。どうせ、もうお前は使う機会なんてないだろうし。卒業する時に後輩に渡す『ルール』も守れないだろうしな」
僕が先輩からこれを受け取ったように僕たちはこれを後輩に託すのだ。これは手紙にあったルールであり、個人的にもそうしたいという願望だ。
Bは僕の一連の行動を見ても何も言わなかった。
「自首してもここには扉が開いたままだったから入れたってことにしてくれ」
それでも屋上は一時的に閉鎖と監視がつくだろうが、『鍵』が出回ってるなんて知られたら鍵どころか扉ごと変えられかねない。
「自首……したほうがいいんですかね?」
「そんなことを僕に決めさせるな」
自分のことは自分で決めなさい。
僕はそう言って、屋上の出口に向かう。その時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。屋上の時間は終わりだ。
「じゃあねー」
僕は振り返り、にこやかに手を振ってから屋上を後にした。彼の表情は、距離を置くと読み取れないくらいぼやけていた。
僕は視力が落ちたかな、と適当に思った。
屋上への扉の鍵をあけっぱなしにしたまま教室に戻り、荷物を回収して自転車小屋に向かい、自転車を回収。そのままいつものように学校外の田舎道に自転車を走らせ始める。
少し進んだ時、学校の方角から悲鳴が聞こえた……気がした。