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AとB

「…………」


 ギー、バタン(←元通りに扉が閉まる音)、

……(←沈黙)、ギー(←再び扉を開く音)、チラ(←扉から屋上を再び見る擬音)、ギー、バタン(←扉が閉まる音)。

 ……状況を確認しよう。

屋上に死体があった。

正確には扉から約三メートル離れたところに仰向けに倒れていた。学校の制服だったので、この学校の生徒だろう。そして喉に何か、安そうなナイフっぽいのが刺さっていた。

……あれ? 大事件だ!

しかも僕、第一発見者ってやつじゃん!

ん? 以上のことを踏まえて改めて状況確認したらどうなるんだ?

今の僕を客観的にみると、閉じられている屋上への扉の鍵をもっていて平然と屋上に入り浸っていた第一発見者の少年(僕)、ということになる。


「うわぁ、超あやしい」


 完全に僕が怪しかった。このままでは犯人にされてしまう! そうだ隠ぺい工作をしよう!

 ……まぁ、冗談はさておき、


「困ったな」


 さすがにこのままここにいるわけにもいかないが、誰かに言うとなると僕がここにいる理由も説明しないといけなくなる。


 よし一回ポジティブに考えてみよう。

これは大事件などではないのだ!

 屋上で少年が死んでいた、というといかにも物語において重要かつ、大事件っぽいがこう言い換えたらどうだろう。

屋上でモブキャラAが物語から退場していた。

おおー、まったく大事件に聞こえない。

よしいまから彼を少年Aと名付けよう!

素晴らしきかなモブキャラA! 愛してるぜ少年A!



……現実逃避も甚だしかった。

とりあえず、というには大事すぎるけれど、

とりあえず考えをまとめるために三度扉を開いた。


 少年Bがあらわれた!


(ぎゃああああああああああああああああ)


 声を殺して悲鳴を上げる。

 少年Bはこっちを見ている!

 少年Bは返り血を浴びている!

 とっさに某有名RPG風に言ってしまった。

 一回深呼吸をして息を整える。


「……」


 少年B(仮)は、その間落ち着かない様子でそわそわとこっちを見たり、視線をそらしたりしていた。


「えっと、犯人の方ですかね?」


 なんか自然と丁寧語が出てきた。

 まぁ、当然ながら少年Bもうこれでいいやは、少年A(死亡)とは別人である。少年Aは変わらずさっきの場所にいる。


「まぁ、不可抗力でしたけどそういうことになりますかね……一応」


 少年Bは意外とあっさりと丁寧な口調で口を開き、そのうえこれまたあっさり犯行を認め、苦笑いまで追加した。

 改めてみると少年Bは端正な顔立ちをしていた。その顔に点々と血が付いているのだ。……はっきりいって結構怖い。


「いや、ことが起こった後に誰かが階段を上ってきた音がしたので扉の開いたときの死角に隠れてたんですけど」


「扉の後ろ!?」


「えぇ、扉を挟んであなたが、扉を開いたり閉じたりする不審な行動を見ながら、どうしようかなーって考えてました」


 うわー、恥ずかしい。膝を抱えて座り込みたい。でも一旦気持ちを切り替える。


「……考えたって、自首とか?」


「まぁ、自首とか……自殺しようかな、とかTウイルスで蘇ったりしないかなとか」


「Tウイルス!?」


「それかクルピン・ウィルス」


「そっちは知名度が低いよ!」


 僕は分かるけども! DVD持ってるから。

 大体そうなったらまず僕が犠牲になるし。ゾンビもダーク・シーカーも僕は嫌だ!

 ……そもそもあれって死者が蘇るものだっけ?


「まぁ、どうでもいいか」


 僕は少年Bの横を通り、少年Aを超え、さすがに死体の近くは嫌だったので十メートルほど離れた壁際(正確には段差際)に腰かけて、本を開いた。


「何してるんですか?」


 僕の後ろを普通についてきた少年Bはそんな質問をしてきた。


「? 本を読もうとしているんだけど、それが何?」


 意味が分からない質問に当たり前の回答を返す。


「いや、あの、状況わかってます?」


 答えてやったのに、また質問をしてくる少年B。とりあえず本に目を落として文字を頭に刷り込みながら、適当に答える。


「学校の屋上で事件発生。犯人発見。これから犯人がどうにかして事件が終結する予定なんだろ」


 だったら僕になんの関係があるんだ? と僕は最後に付け加えた。

 少年Bが沈黙した。僕はページをめくる。


「あなたは珍しい人ですね」


「そうかな? 僕は自分では普通だと思うけれど」


 でもそういえば、


「僕にここの『鍵』をくれた名もしらぬ先輩は僕のことを『自分のみの人間』って表現していたな」


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