……
……突然だと自分でも思うけれど、僕は一つ『鍵』を持っている。別にどこにでもある五百円で複製できそうな、特別でも何でもなく、あまりにも普通すぎて逆に困ってしまうような『鍵』だ。
でもその入手方法はちょっと特別だったりする。
以下、回想。
去年の卒業式。一つ上の先輩に知り合いがいなかった僕は、惰性と時間つぶしというかなり褒められたものではない理由で在校生は自由参加という気楽さ満載の市民ホールで行われる卒業式に参加した。
……そして爆睡してしまった。
眼が覚めるともう卒業生の退場が終了しているという始末だった。
「やっちゃったな、これ。……まぁしょうがないか」
薄暗かったしねー、と心で付け加える。とりあえず外に出るかー、と席から立とうとしたそのとき右手に違和感を感じた。
「ん? なんだこれ」
そこには封筒が握らされていた。それをつまんで見てみると、封筒にはこう書かれていた。
「『親愛なる後輩くんへ』か、……人違いじゃないのこれ?」
少なくても僕は『親愛なる先輩さん』にまったく心当たりがない。だから高確率でその可能性は当たっている気がする……。
悩んでも仕方がないためとりあえず封筒を開いてみる。逆さにして振ると、中から二枚の便箋と、そして『鍵』が出てきた。
『親愛なる××君へ
君にその鍵をあげよう。突然で意味不明だろうが、とりあえず二枚目にあるルールだけは厳守して使用してくれたまえ。君に渡す理由は……』
ちなみに××は、僕の姓が入っていたため人違いという線はなくなった。最後まで読み切って、そこに書いてある理由に僕は納得した(なぜか偉そうな文章だったことには納得はしていない)。そして手紙はこう締めくくられていた。
『君がこれを適当に、有意義に、満足に使うことを願う』
僕はそれから普通に駐輪場に止めてあった自転車を回収し、帰路に就いた。
そして次の日。僕は学校の屋上に向かってみた。漫画やドラマの舞台によく屋上は使用されるけれど、基本的に屋上というのは立ち入り禁止になっていて、僕の学校も例外ではない。というか屋上に向かう階段の段階でばかでかい防火扉によって通路が塞がれている。しかし、人が通るためにその一部が切り取られ、それが小さなドアとなっていて、そこにドアノブと『鍵穴』がある。
もらった鍵をさしてみた。鍵は何の違和感もなく回り、ドアがあっさりと開く。その奥の階段をカツカツと登ると、もう一つ扉があった。それは内側からならロックをひねって開くだけの鍵すら必要としない代物だった。僕はそのロックを解除し、躊躇いもなく扉を開けた。
そこは屋上だった。
「というかそれ以上の表現が無理だろ」
うん、まぁ予想してなかったわけではないが屋上だからと言って、何かがあるということもなく、というか何もない。
人が来ないからなのだろうが、屋上と虚空との境目にも学校の机と同じくらいの段差があるだけで、柵すらなかった。
「こんなところをもらってもなー」
それでもせっかく名も知らぬ先輩から継承されたのだから、何かに使わないと申し訳がない。
「さて、どうしようか」