序章1 楽園の始まり
ご興味あればポイント、評価、ブックマークをよろしくお願いいたします。
2025年。
世界各地で突如、異世界へ通じる入り口が発見された。
それまで映画やアニメの創作物でしかなかった、我々の住む世界とは別の世界が存在するという事実。そして、いつでもだれでもこの世界に自由に行き来できるという事実。
この人類史に残る大発見は、様々な意味で多くの人々に衝撃を与えた。
各国政府合同の先遣隊による調査の結果、そこには、我々と同じ人類が存在し、現実の地球とほぼ同じ環境があるということが分かった。
人類最後のフロンティアといわれたアフリカ大陸が開発されつくし、人口の爆発と世界的不況、高度に監視社会化されSNSなども個人のプライバシーが即丸裸にされてしまい、社会全体が言いようのない閉塞感に苛まれ、宇宙開発もかつての想像程うまく進まず、人間が人間らしく生きられなくなった、自由が有名無実化した時代。
そのような中、事実上まっさらに近い未開の地の発見は、人類全体にかつてのゴールドラッシュや、西部開拓時代、または大航海時代を彷彿とさせる熱狂をもたらした。
地球と同じ環境で、当然酸素があり、人類の永続的な居住に適している。
資源はほぼ未開発である。
土壌汚染などはほぼなく、環境の保全は完ぺきに近い。
それらは、人々の心に、かつて我々の祖先が当たり前のように持っていたはずの感情を呼び起こした。
すなわち、希望という、忘れ去られて等しかった喜びを。
かつて味わったことのない、でも、ありもしないはずの遠い昔にあった美酒を再び味わったような、永遠を感じさせるような熱気に全世界の人々は果てしなく酔った。
人生をやり直したい者、一攫千金を夢見る者、ありとあらゆる人種がこの異世界へ無限の希望を持って殺到した。
それだけではない。この異世界に行って帰ってきた者たちは、なにがしかずば抜けた能力を身に付けて返ってくると評判になった。
人並外れた集中力を会得して常人では考えられないハイレベルなビジネススキルを発揮し、現実世界で成功を収める者。オリンピック選手並みの肉体を得て、疲れ知らずの体力と筋力を持つに至った者。誰に対しても気配りができて、何も言わなくても相手の心情を察し、調整することができる、ずば抜けたコミュニケーションスキルを持つに至った者。
異世界はただ資源が未開発というだけでなく、現実世界では考えられない超人的能力を身に付けられる何かがある。
この実態が明らかになり始めると、日本企業を含めたグローバル企業もこぞってビジネスチャンスを見出し、これからの時代に必要なハイスペック人材の格好の養成の場として、こぞってこの異世界に新人向けの研修所を設けた。
だが、人々は、歓喜の声の中にかき消される、ある重大な点を見落としていた。
いつ頃からか、異世界帰りの人はみな、ある分野にはずば抜けたスキルを身に付けながら、何か人として違和感をもって帰ってくるという、奇妙な噂がまことしやかに流れるようになっていった。
異世界の発見は、本当に希望をもたらすものなのか?
華やかな情報ばかりに踊らされて、何か肝心なことを忘れてはいないのか?
世間で使われている、我々がよい意味、肯定的にとらえる、あるいは否定的にとらえる言葉・単語などは、本当にその文字通りの意味で使われているのか?
これは、幾重にも重ねられた偽善と欲望の世界で、己のアイデンティティを守り抜こうとする者の物語である。




