勇者不在の魔王オンリーパーティー 次はどこへ行く?
新作の短編です!
パイロット版として投稿することをご了承ください
※本作品はAI不使用です
ここは、前人未到の域。その中でもこの居城に至っては——。
「俺の意見はご破算とでも、言うのか?」
「しかし主上、恐れながら申し上げます。それはあまりにも危険すぎませんか?」
それは忠心ならではの諫言なのだろうが、俺はもう決めてしまった。
俺自身が冒険者ギルドで登録をし、どれかのパーティーに潜り込もうというわけで。
それでなぜ忠臣からそこまで言われるのかといえば。
俺自身がこの領域の主だからであり、有り体に表せばこの世界における魔王だからだ。
「俺は幸いにも討伐対象に入っていないので問題ない。庶民らしく、人間らしく振舞う練習もしていたんだからな」
「それはそれで心配なのですが……主上がお決めになられたことであれば仕方ありません」
心配されること自体は別に苦痛でないが、あまりにも度が過ぎると過保護ではないのか?その辺どうなっているんだ……?
こいつ……。
「それではお気をつけて」
「……あぁ。勿論定期的に城へ戻るからな」
転移魔法で人間の領域にたどり着く。到着地は丁度ギルドの建造物前、つまりは入口である。
服装もいつものものではよろしくない。なので簡易なつくりの服、顔がちらりと見える程度のフードを被る。それは俺が討伐対象ではないとはいえ、そこそこの数の人間達に顔が割れているからだ。
「パーティーの仲間を募集しているのだが……」
「はい、勿論受け付けております。お一人ですね?」
「……あぁ」
転移魔法で人間の領域に入る。
人だかりの山をかき分け建物内に入り、受付係に声をかけた。声はいつも通り……でなくトーンをかなり抑えて威厳とか隠してそれっぽくする。
募集要項の記入用紙を渡されたのでプロフィールを記入していく。成程……まずは名前、名前——。
どう考えても本名で書いたら絶対にアウトだろうな。それなりに有名人だという自覚はあるし。
もし何かの手違いで討伐対象と見なされてもおかしくはない。むしろどうして己が討伐対象のリストに入っていないのか不思議でたまらない。
全くの偽名というのも問題なのでヴァエとだけ記載。
それからパーティーの希望人数、路銀に余裕があるかどうかなどを記入し、渡すと。
「あなた……えーとヴァエさん、達筆なんですね。誤字も見受けられないしよほどいい教育を受けてきたんですか?」
「……出自は悪くない。自分の名前くらいは書けるように言われてきただけだ」
「それだけではなく識字率が高いんですね。旅先で看板の文字が読めない冒険者の方もいますしこういう人がいてくれると助かるんですよ」
「……そうだな」
受付係にかなり褒められた。これを考察するに碌な教育を受けられないまま育ち、そのまま金銭稼ぎに冒険者となってしまった者達が多いのだろう。人間は相変わらず貧困者の層が厚い。
「おーおー冒険者ギルドは今日も大繁盛ってか? 景気がいいな! 受付係よ、私はラグナルという名だ、よろしくな!」
ラグナルというこの男……いやその無駄にデカイ声、ガタイのいい背丈……俺と同業者じゃないか?本当に何故今ここにいる。
声をかけてやりたいがそうするとこちらにもバレてしまう。
しかも本名で堂々と冒険者登録するやつがいるか!
赤髪と金と黒のヘテロクロミア。
俺よりも長身で、背丈も頭半分くらいの身長差がある。
こいつはガタイもいいが、とにかく声もデカい。
居城のバルコニーで民に向かって演説をする時ですら、拡声魔法がいらないくらいには。むしろ使ってしまえば鼓膜が破れるほど。断じて回復魔法で治せるからいいなんて話ではないのだ。
見た目通りの豪放磊落を絵に描いたような振る舞いで、民と貴族の区別が曖昧。
俺にとって、信頼できるはずの腹心の配下より何でも話せる友人だと勝手に見なしている。
ラグナルは友人が多いタイプだから、俺は数あるひとりなんだろうが。
「そこのヴァエ! 初めて会った気がしないな!」
お前こそなぜここに?
「視察だ!」
《視察、か。本当にそうなんだろうな》。
《仕方ないじゃないか!》。
魔法通話で話しかける。この方式でも聞こえる声が無駄にデカい。
俺は油断していた。話せる同僚がいるというだけでまさか——。
「ふーん。初めて来たけどギルドってこんな感じなのね。何だかワクワクしてきた! これが初依頼を受けて出発する冒険者の気分なのね」
フードすら被らず、明らかに縫製の良い高価そうなローブに身を包んで声を出した彼女が、いた。
ギルド内ではまず見かけない華やかな外見とそのよく響く歌姫のような声音に、誰もが注目する。
ここで即座に反応せず、駆け寄らなかった自分を褒めたい。
アーヴァ・ナイトノアス……よりによってどうしてお前までここにいるというんだ?
……ちっ。俺は舌打ちをそっとする。魔法で魔力の波動を隠蔽している彼女の存在に気付くのが遅れたら大惨事になっていたところだ。
——会合は先月終えたばかりだし、次回開催はまだまだ先の話じゃなかったか?
背中に流れる黄金の長髪。赤紫・黄金のヘテロクロミア。
透き通りすぎて青白さすら感じさせる、深窓の令嬢の如き白磁の肌ツヤ。
誰もが振り返る、人間はおろか同胞ですらここまでの美貌はいないと断言できるほどの美女。
……なのだが、性格は気分屋の一面があるどころではない。
彼女に比べたら猫ちゃんの方が生真面目で決まった生活を送っているように見えるほど。
アーヴァは女傑とも名高い魔王で、他の人間の君主とも全く見劣りのしない徹底した政に関する機敏さは随一。ただし気紛れでさえなければ、民はもう少し酷な生活を強いられていたはずだと記憶している。
気紛れだからこそ助かっているのだ。
とは云うものの自領内の貴族すら歯牙にかけないその奔放っぷりは凄まじく有名で、女王に相応しい気品と見目麗しさ、恐ろしささえ感じる気分屋のきらいはむしろ民に人気を博している。
正直に言ってしまえばアーヴァにはカリスマ性というものが備わっているのだ。
「あっれー、そこにいるのは私の知り合いにしか見えないんだけど?」
「……おいアーヴァ、何故お前がそこに?」
「それを訊きたいのは私もよ、ゼファ……ヴァエにラグナル。ほーんと、どうしてこうも集まるのかしらねー? あっじゃあどこかの店を貸し切って臨時の御前会合でもする?」
御前会合……主に誰かの思い付き、ではなく発案で催されるそれは先述の通りとっくに先月終えている。今更開催するなら……俺かアーヴァが主催者および議長となる。
よりによって格式高い御前会合を、その辺の庶民が入るような店を貸し切って開催しよう、だと?
これが彼女の予測不可能な気紛れだ。
自領の高級なレストランならまだギリギリ分かるが、ここは人間の領域だ。その発想からしてあり得ない。
——ところでこの世界における魔王には始祖がおり、言ってしまえば現段階で在位しているのはその始まりの子孫である。
勿論歴史書にも残っているし肖像画もある。俺の先代にあたる父上もギリギリ顔を合わせている存在。
ヴァルシゼン……俺達の始まり。初めに種族統一を成し遂げた偉大なる、ある意味での大英雄。
その血を受け継いだ証拠は2つある。ひとつは森羅万象すら容易に書き換え支配するほどの絶大な魔力……それから左右で異なる双眸の色を有するヘテロクロミア。
始祖ヴァルシゼンの血をより濃く引いているのは誰かで頻繁に論争が起きているが、俺が見るにアーヴァだと信じている。論争の当事者である俺が口出すわけにはいかないので内に潜めているが。
「ねえ。私思いついたんだけど、このパーティーで普通に討伐とかやってみない?」
「いいな、アーヴァよ。私も挑戦してみたかったところだ!」
「……討伐だと? アーヴァの心は痛まないのか?」
可能な限り真剣な眼差しで問うてみる。
「えっ、私は別に構わないわよ? だって載ってるのは低級モンスターじゃない。こんなので心が痛むとかそうじゃないを論じるって本当に……いや何でもないわ」
「言いたいことがあるならはっきり言え。俺は聞いてやる」
「何よそれ。そこまでされたら話す気消えちゃったもーん。ま、無難にBランク討伐とかやってみる?」
アーヴァはころっと機嫌を取りなおすと、募集ボードに貼られた依頼から本当に適当で選んでみたらしいものを俺たちに見せる。どこまでも本当に気紛れな奴だ。
真面目に付き合うのがバカらしくなる。
だが、嫌いではない。聡明ではあるし話もそこそこ通じる。
「なるほど、Bランクとは初心者から中級者向け討伐ということか! 分かりやすくていいな」
ギルドにいる者なら周知の事実であろうそれをわざわざデカい声で話すのは数あるギルドの中でもラグナルくらいだな。
本当の初心者はCランク討伐に挑戦して冒険者デビューとなる。
武器のランク、魔力量、路銀の懐具合、実績などを考慮されて冒険者に斡旋される、或いは自ら申し込める依頼のランクが異なってくる。
初心者パーティーがいきなりAランク討伐なんて出来ないのと同じだ。
「……二人はもう冒険者登録を済ませたのか?」
「あぁ、勿論だ! 路銀も余裕があると書いてきた!」
「もっちろん! こういう書類を提出する側になるのって新鮮よねー。これも楽しみの一つかしら」
2人の会話を聞き流しつつBランク討伐の内容を眺める。
その対象は……ラージウルフか。
並の人間よりがっちりとした体躯、鋭い牙と爪、そして竣敏さがを兼ね備えたモンスター。食料などの荷物を載せ運んでいた馬車が襲われた、なんて報せも入ってくる程には。
俺達が特別強いだけで、アーヴァから低級モンスターと認定されただけ。ラージウルフは割とどこにでもいて、か弱い人間にとっては結構な脅威だと聞いたことがある。
……転移魔法をあまりにも乱発すると他者に怪しまれるとアーヴァに指摘され、仕方なく路銀を用いて目的地へ移動する。
そこそこ乗り心地の良い馬車を降り、件のモンスターの主な生息地である森に着いたが。
「いないな」
「うむ、おらんな。これでは報酬がもらえないではないか!」
ラグナルはすっかりと冒険者気分に染まり切っている。もはやフリではないようだ。大声を出して話さないだけ幾分かマシではある。
ラージウルフの気配が全くと言っていいほどない。これは時間帯の問題か?森の中を探索して狩るという手もあるが。
広範囲の探知魔法を発動させるも、気配がない結果は同じだった。
「あなた達自分のこと全くわかってないのね。低級モンスターの巣の近くに魔王、しかも三人も現れたら恐れをなして逃げるに決まってるじゃない。低級とはいえ獣なんだから感覚舐めすぎだっての」
「そういう視点があるのか……俺達を脅威と見なして脱走したのか?」
アーヴァはこの状況を俺以上に冷静に見て分析している。これならこのパーティーのリーダーの座を譲ってもいい。
「そうなるな! いやはや冒険者も楽ではないな……それではどうしたものか、何か食べ物でおびき寄せて狩るというのはどうだ?」
「ラグナル、あなた食べ物を持ってるの? そんな風には見えないけど」
「ここにあるさ、アーヴァ。干しパンを買っておいたからな」
ずい、と出されたのはまごうことなき干しパンだった。このような安物、一体いつどこで買ったのやら。干しパンの似合う同僚など見たくなかったが、ラグナルならまあいいかとなってしまう。
ここでひとつの問題が生じた。夜を待つまでここに留まるべきか否か、である。食料を取らなくとも構わないが、士気に関わるのは大いなる事実。
「俺は討伐後に夕飯でもいいぞ! なんせ干しパンを大量に買っておいたからな」
「そりゃ優秀でいいこと。私は別にどちらでも構わないわ。この件についてヴァエは?」
「……俺はラグナルと同意見だ。空腹くらい我慢できる」
冷徹に主張したつもりだったが、二人の反応は厳しいものだった。目が笑っていない。
「我慢、な? ヴァエが我慢なんて概念を覚えるとはな。だが、そう長時間耐えられるとは思えんぞ!」
「我慢、ねぇ。ヴァエ、本当は水分補給もしたいんじゃない? ギルド周辺でなんも用意しなかったのは流石に甘すぎ」
「それは……本当にすまない。後ほど返すからくれるだろうか?」
「貸し、一つ……なーんてね。水筒を多めに用意したからあげるわ!」
「相変わらず水くさいヴァエだな! ほら干しパンだ。これもそこそこ美味しいぞ」
アーヴァからは満タンになっている新鮮な中身の水筒、ラグナルからは干しパン二切れ分を貰う。
「俺から返せるものは……夜の討伐における戦果のみだな」
この場に留まることを選択し、干しパンをかじり水筒から水を飲む。今まで取った食事の中で最も簡素なものだ。周りに使用人もいない森の中だが、知り合いと食すのは案外悪くない。
……日が落ち、夜になった。
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