4-2=2
高校に入学して早1か月――
早朝からドキドキが止まらない。なにしろ今日は、高校入って初の遠足にでかける日だから。
行き先は、学校からバリ近の箱根。
午前中はクラス全員で大涌谷や箱根関所跡なんかを見学し、昼食後は芦ノ湖の周りでハイキングをする。このハイキングが班行動だが、小学校の頃から班行動には嫌な想い出しかない俺は、楽しみが激減するところだ。(そもそも誰も俺と組みたがらなかったけど……くそっ)
だけど、今回は違う。班決めの際、
「みんな好きなように班になってって言うと本当に好きな人としか組まないから、今回は先生が五十音で班割しまーす」
担任の先生が強引に男女を五十音で班割した。
「ただ点呼しやすいだけだろ」というクラス大半からの抗議の声を丸無視し、先生が分けた班で、俺、香月はなんと神門臣と同じ班になった! 俺は突き上げてくる喜びにうち震えた。
ありがとう、ご先祖様! ありがとう、五十音順!
あの喜びと感動のおかげで今もドキドキが止まらない!!
今日こそ神門臣と話せる、もしかしたら仲良くなれるかもしれない。そう思うと、高校の校舎に停まった大型バスさえ輝いて見える。
「博美っ何ニヤついてんのよ。バスの席まで、博美と一緒なんて、本当信じらんない」
透子に睨まれた。
ああ、そうだった、透子の苗字(加藤)もカ行で同じ班だったんだ! 膨らんだ気持ちにいきなり氷水をぶっかけられたような気がした。
「透子、また博美くんに変なことされたのか。でも大丈夫。心配するな。今日は俺が一日側にいて護ってやるから」
落ち込む俺のことなんて構わずに甲斐がすかさず透子の側にすり寄る。
うっ、こいつ(甲斐)の苗字もカ行だった! くそっ!
大型バスにエンジンがかかり、いよいよ発車した。
バスの席も見事に班ごとで、俺の隣に甲斐、俺の前の席に神門臣そして、神門臣の隣に透子が座った。前の座席に神門臣がいて、手を伸ばせば届く位置にいるってことが(もちろん伸ばさないけど)、もう心臓がおかしくなりそうなほどさっきから鼓動している。
バスの中は騒がしいけど、自分のどきどきする心音の方がうるさく感じる。ああ、遠足が終わるまで、俺の心臓はもつんだろうか……その時、甲斐が肘をつついてきた。ビクッとして甲斐を見やると、内緒の話なのか、耳を貸せってジェスチャーをしている。
仕方なく耳を近づけると、小声で、
「博美くんってさ、透子と付き合ってんの?」
「まさか。あいつはただの幼馴染」
「じゃあ透子のこと好き……なわけないか。博美くんが好きなのは神門臣だもんな」
「うわっ、どうしてそれを」
「見てれば分かるし。だいたいクラス、いや学校の大半が神門臣のこと好きだから」
「本当か?」
甲斐が目を見開いた。
「むしろなんで知らないんだ? ほぼ毎日告白されているし、学校帰りには他校の生徒に待ち伏せされているって話あるし」
「待ち伏せ? ストーカーか」
「まあそんなもんだろ。ファンクラブがあるって話だし、昔モデルやってたって噂あるし、アイドルみたいなもんだから。まあ、神門臣がいずれアイドルとしてデビューしたとしても俺は驚かないね。それよりさ、ハイキングの時に俺を透子と2人きりにしてほしいんだ」
「え? どうして? グループ行動しないと先生に怒られるんじゃないか」
「そおなんだけどさ、どーしても透子に告白したいんだよ。ハイキング始まってすぐの一瞬だけだからさ、頼む」
甲斐の勢いに押されて頷いた。
そうか甲斐って、透子のこと本気で好きなんだ。
まあ、それなら協力するか。と思った瞬間、悟った。この2人を2人っきりにするってことは! 4-2=2。つまり、神門臣と俺も必然的に2人っきりになるってことじゃないか! 心臓が飛び跳ね、皮膚を破ってそのまま外にはじき出そうになった。




