出会い
高校に入学して、好きなやつができた。
神門臣洋
それが彼女の名前。
俺、香月博美と下の名前が同じ。
最初、女子は“さん”づけ、男子は“君”づけで呼ぶ担任の先生に見事に間違われた。
「かんどのおみひろし君」
「神門臣洋。女です」
「かづきひろみさん」
「香月博美。男です」
それで教室中が笑い、和やかな雰囲気になった。けど、神門臣だけは、にこりともせず、一人クールに本を読んでいた。それがなんともたまらなく気になった。
まあ、正直気になったのはそれだけじゃない。
神門臣は、かわいい。
美しいストレートの黒髪、目がぱっちりとしてて、黒めがちなところが。でも陽に当たると黒々とした瞳が、焦げたキャラメルのような色を帯びるところが。通った鼻筋、そしてぽってりとした唇は肉感的で柔らかそうで、かじったら果汁が弾けそうなほど桃色なところが。
それに加えてスタイルがいい。
ブラウスに紺のブレザー、紺のプリーツスカートにブラウスという何の飾りけもない制服ですら、神門臣が着るとデザイナーズブランドに見える。細くて長い手足に細い腰、華奢な肩。そして、栄養のほとんどがそこに集中したかのような胸。
それから性格が……う~ん、ここが実はいまいちよくわからない。
物静かで必要最低限しか話さないから。悲しいけど、まったくわからない。多分クールなんだとは思う。あまり笑っているのを見たことないし、クラスの連中とも距離を置いている。浮ついてない。どちらかといえば固い感じがする。
まあ神門臣で柔らかそうなのは、胸と唇と人形作りだけ。
そおそお、人形作り! 神門臣の特徴と言えばこれ!!
一人黙々と休み時間に人形を作っている。
この手芸好きなとこが雰囲気のクールさと真逆すぎて、ギャップに萌える。だいたい、他の女子たちと違ってつるまず(トイレだって一緒に行かない!)、休み時間も、昼も1人でいる、そんなクールの粋を極めたような子が、女の子らしさの極め付け的な趣味をもっている。手芸好きだなんて、ほんとかわいくてたまらない。
そういうギャップってなんだか想像をかきたてる。あの、にこりともしないクールな表情も、彼氏の前では、甘えた顔になるのかなとか妄想してしまう。手製の服(ちょっと際どいやつ)を着て見せてくれたりして! 考えるだけで腹の底がうずく。
「博美、なに身悶えてんのよ?」
いきなり隣の席に座る加藤透子にペン先で小突かれた。加藤は同じ小学からの腐れ縁。顔はまあかわいいけど、性格は……。
「もう、そーゆーのやめてよね」
「な、何がだよ」
透子の頬が赤く染まった。
「想像の中でまで、変なことするの」
はあ? 想像の中でまでって、まるで現実でも変なことしてるみたいじゃないか! と心の中で抗議する。
「透子! また博美くんに変なことされたか」
前に座る甲斐桐矢がにやけながら振り返った。
「いっくら透子が可愛いからって、博美くん、白昼どおどお痴漢はないぜ」
はあ?
「幼馴染だからって、なあ透子。また博美くんから変なことされたら、すぐ俺を呼べよ。ぶん殴るから」
「ありがとう、甲斐くん」
透子が俺には見せない、可憐な表情でコクリとやった。甲斐が真っ赤になって、自らの腕をパンパンっと叩きながら、
「はは、任せろ」
と白い歯を覗かせている。
な、なんなんだ、この展開は? 俺は一言も言ってないってのに!!
ああ、きっと、世の中の冤罪はこうやってつくられてくんだろうな……
わちゃつく2人無視し、ちらりと神門臣を見やった。窓際の席で、一針一針丁寧に人形を縫っている。細くて白い指にゴッツい指ぬきをはめて。
こんな、馬鹿げた会話など耳に入っていないんだ。一人別世界にいるような尊さに俺は恍惚とした。ああ、いつか、あの神門臣の世界に俺も入れたら、どんなに、どんなにいいだろう……。
この時の俺は、その世界に入るなんて、みじんも思っていなかった。




