第9話
~一方その頃、グレンたち一向は
「いやー大樹の森なんて初めてだけど、今の俺らなら余裕だろ」
ラッティが言った。
「しかし、あの小僧を追い出して正解ですぜ、グレンの旦那。俺があいつの数十倍の活躍をみせますよ」
ゼクスが続ける。
「そろそろ魔物が現れてもいいころだ。みんな、気を引き締めていこう」
グレンが勇ましく言う。
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~それから1時間後
大樹の森の序盤、グレンたちは、かつてない違和感に襲われていた。
「おい、ラッティ!いつもの威勢はどうした!なぜベオウルフの一撃を避けないんだ!」
グレンの怒号が響く。
ラッティは腕から血を流し、信じられないという表情で自分の手を見ていた。
「避けようとしたさ!だけど、もう体が動かねぇ。どうしてだよ!いつもはかすり傷で済むはずなのに!・・・どうしてこんなに痛いんだよ!!!」
いつもなら、どれだけ無茶な突撃をしても「なぜか」無傷だった。
新加入の魔導士ゼクスが、焦燥に駆られながら支援魔法を放つ。
「 俺の強化魔法を受けろ!」
「ヨツク!」
「クタカ!」
魔導士ゼクスは、攻撃魔法主体の魔導士だが支援魔法も使えた。使えたのだが・・・
しかし、ラッティ・グレンはその効果の薄さに愕然とする。
(・・・なんだ、この頼りない魔法は)
(ハイティの「ヨツク」は、もっと・・・もっと身体の底から力が湧き上がってくるような感覚だったはずだ!)
「みんな、一旦退却だ!あの洞窟へ逃げるぞ!」
狼狽しながら叫ぶグレン。その姿は悲痛だった。
「みんな大丈夫か!?」
みんなに声をかけるグレン。
しかし、反応は芳しくない。
「私、毒に侵されてるみたい。体がいうことをきかないわ」
弱音を吐くキュイ。
「みんな疲れ切っているわ。今日は早く街に戻りましょう」
ナニエルは怯えきっている。
そう、彼らが誇っていたいつもの「実力」の正体。
それはハイティが「サクリファイス」で彼らのダメージと苦痛をすべて肩代わりし、「特級支援魔法」で限界を超えたバフをかけ続けていたからに他ならなかった。
「グレン、危ない!」
ラッティが叫ぶ。
キュイの悲鳴がこだまする。
ハイオークの群れが洞窟から湧き出てこようとしていた。
「もう限界だ。みんな街に戻ろう!動けるものは動けなくなっている者を背負い、なるべく音をたてずに逃げるぞ!」
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~一方、王都の闘技場。
静まり返る観客席のなか、ハイティは震える手で自分の身体を触っていた。
「死んで・・・ない。それどころか、全然痛くないぞ?」
玉座から立ち上がった国王が、雷鳴のような声で告げた。
「見たか! 攻撃を受けたのはハイティでありながら、滅んだのは魔物の方である! 彼の存在そのものが、この国を守る絶対の『守護者』なのだ!」
鳴り止まない喝采。
ハイティは、鑑定書に書かれていた言葉をようやく理解し始めていた。
「・・・俺の人生は、無駄じゃなかったんだ」
かつて自分を否定した者たちの言葉ではなく、今、目の前で自分を称賛する人々の熱気が、ハイティの凍てついた心を溶かしていった・・・




