第5話
あれから2週間が経った。
路銀はみるみるうちに減り、もう後がない。
そろそろ、冒険者でない、ほかの人生を探しても良い頃合いだ。
だが、ハイティは、思いつめていた。
――小さいころから冒険者を夢見ていたハイティ。
王都の学校で、バフ魔法の適正があることが判明した時は、うれしさに震えた。
「やった!これで、父さんみたいに冒険者になれるかもしれない!」
そう、ハイティは父親みたく、勇敢な戦士を目指していたのだ。
遠い記憶に思いを馳せる。
ちょうど冒険者として登録して間もないグレンたちと出会った時は、自分の運の良さに神の導きを感じたほどだ。
(これで、パーティー組みという難題も乗り越えられた!)
初心者がはじめて経験する挫折の多くは、パーティー組みである。
多くのパーティーは、それなりに経験を積んでいる。
はじめての冒険者を雇おうとするパーティーは、それほど多くないのだ。
確かにあれから1年弱の冒険経験を経たハイティではあったが、如何せん直接の戦闘経験が少なすぎた。
それが、今の彼の境遇を決定づけていた……
(もう、冒険者でいられないなら・・・)
(・・・こんな人生、やめても・・・いいかもなぁ。)
苦々しい感慨にふけりながら、空を見上げるハイティ。
目からは、自然と雫がこぼれ落ちていた。
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そこに突然、王都の鐘が響き渡る
ゴォォォォォン
ゴォォォォォン
何かの急変を知らせる鐘の音。
「どうしたんだろう?」
多くの街の人が顔を強張らせながら、逃げ去っていく。
声を掛け合っている。
「おい、南門から特級モンスターのキメラが侵入してきたみたいだぞ!早く逃げろ!」
「ホントか!?騎士団は何をしていたんだ?」
「なんでも、今日は王様の遠征が行われていて、門の警備が手薄だったらしい!」
南門といえば、ここから数十メートルも離れていない。
(やばい!俺も逃げなければ!)
ようやくことの重大さを知り、逃げようとするハイティ。
だがしかし、ハイティの目の前には、信じられない光景が広がっていた。
「ケエェェェイ!!」
特級魔物のキメラがすでにここまで来ていた。
キメラは、ずしんずしんと、大きな音をたてながら街を闊歩している。
「あっ!」
一人の少女が、逃げようとするも、石畳につまづき倒れこんでしまった。
「ケェェエェェ!」
少女に気づく魔物。
キメラに知性は無いが、獲物をかぎ分ける嗅覚が鋭い。
当然、少女の方へと歩みを進める。
(まずいぞ!このままだとあの女の子が!)
その瞬間、彼の足は動いていた。
もう先の未来が見えない彼には、迷う暇などなかった。
少女のもとへと走るハイティ。
「間に合えぇぇぇぇぇ!」
少女に覆いかぶさるハイティ。
そこに、キメラが牙を向ける。
「ケェェェェェイ!!」
キメラの牙がいま、まさに少女に覆いかぶさるハイティの首筋へと突き立てられようとする。
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(俺の人生も、ここで終いか・・・)
(ろくな人生じゃなかったかもな・・・)
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牙が首筋へと突き刺さるその刹那。
がきぃーーーーーーーーん!!
すさまじい音があたりへと響き渡る。
「・・・ん?」
顔を上げるハイティ。
そこには、牙が折れ、牙のあったはずの根元からプシューーーと血を吹き出し、倒れこんでいるキメラの姿があった。
(あれ、俺、いまキメラに食われそうになったはずだが?)
「おい、こっちだ!!」
そこに、ようやく騎士団が到着する。
「うわぁぁぁぁああん」
ハイティの胸元で、少女の鳴き声がこだまする。
これは後からわかったことだが、事態は、思ったよりハイティに味方しているようだった。
それは、S級スキル【不滅】の『鉄壁』によるものだったのだ。




