第1話
俺は、ハイティ=ムクール。しがない支援術師だ。
今、俺は窮地に立たされている。
パーティーメンバーから無能扱いされているんだ。
いや、実際に「無能扱いされている」わけではない。「無能扱いされている空気感を出されている」これが実態だ。
しかし、どういう言い方をしようが、俺が窮地なことに変わりはない。
確かに、俺は自分の能力に自信がない。
俺は、パーティーで「バフ」を担当する。
戦闘ごとに毎度毎度、味方を強化するバフをつける。
パーティーを組んだ最初のころは、みんなに結構感謝された。
やれ、
「ハイティがいてくれたおかげで、みんな普段以上の力を出せたぜ!」
「ハイティがいなかったら、今頃骨折れてたわ・・・」
縁の下の力持ちだったのだ。しかし!それだけでは芸がない・・・。
・・・そう、縁の下の力持ちは、目立たない。
目立たない者は、次第に扱いが雑になっていくのが世の常なのだ・・・。
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冒険日誌~321日目~
俺は今日も、仲間とともにベオウルフ狩りをしに行った。
味方からは相変わらず腫れ物に触れるような扱いを受けている。
今日は、巷では‘バレンティンデイ’という催しが行われているようだ。
聞くところによると、日ごろお世話になっている男女間、もしくは、恋愛関係を視野に入れている男女間で、
女が男に、日用品や、ちょっとした小料理をふるまうという即興的な催しらしい。
仲間のグレン(男)が、キュイ(女)から、甘菓子をもらっていた。
ラッティ(男)も、ナニエル(女)から、辛子ぴぃなっつというものをもらっていた。
パーティーは俺を含めて5人。
俺は誰からも、何ももらっていない。
そう、見事にハブられている感じなのだ。
それはいい、それはいいんだ。
(ホントはよくないけど・・・)
今日の狩りは、まぁまぁの成果だった。
ベオウルフは全部で20体倒した。
途中、ゴブリンやスライムも数十体倒したから、合計で4、50体か。
もちろん、俺は働いた。
戦闘ごとに、
筋力強化系の魔法「ヨツク」、防御力強化系の魔法「クタカ」、
魔法強化系「ホマウ」、ちゃんとセットで全員にかけた。
戦闘は無事に終わった。
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~その日の夜、パーティーでキャンプの火を囲みながら
グレンがキュイからもらった甘菓子を頬張り、景気のいい声を出す。
「今日のベオウルフどもは、弱かったな!俺なんか、かすり傷ひとつ負わなかったぜ!」
キュイも微笑みながら言う
「グレン、結構レベル上がったもの。こんな戦闘じゃ、もう満足できないんじゃない?」
ラッティはこうも言う。
「それじゃ、お次はハイオークと行きますか!」
ハイティは思う。
(こいつ、調子こいてやがる・・・)
「そんなのと戦えるなら、もう戦ってるでしょ!このばか!」
ナニエルがちゃんと突っ込みを入れた。
「ハイティ、お前も食うか? 辛子ぴぃなっつ」
ラッティが、ナニエルから贈られた袋を差し出してきた。
その顔には、哀れみのような、あるいは「何もしなかった奴に分けてやる」という施しのような、ちょっとした侮蔑の色が混じっていた・・・気がする。
「……いや、いい。腹は減ってないんだ」
ハイティは、施しを固辞した。
(この感じだ・・・いつもこの空気になる・・・)
ハイティは、魔力消費で疲弊していた。
魔力を消費すると、精神力が削られる。それは誰でも知っているはずの事実。
しかし、ハイティのそれは、魔力消費だけでは説明のつかない傷が含まれていた。
身体のあちこちが、ボロボロになっているのだ。
目に見える傷を負っていない4人にはわからないかもしれないが、ハイティは、いつも戦闘を終えるといつもボロボロだったのだ。
日誌を書き留める、ペンの進みが止まる。
キュイとナニエルが、何やら小声で話している。
「ねぇ、明日からの大樹の森の遠征だけど・・・もっと、火力のある魔法術師入れた方がいいんじゃない?」
「・・・シッ!聞こえるわよ!・・・でも、確かにそうね。彼のバフだけじゃ、そろそろこのパーティーもやっていけない感じよね」
焚き火の爆ぜる音が、今の俺の心音によく似ていた。
バレンティンデイ。
俺が欲しかったのは、甘菓子でも辛子ぴぃなっつでもない。
「お疲れさま。あんたのおかげで助かったよ」という、たった一言だった・・・。
果たして、今度の遠征には、このパーティーに連れて行って貰えるのだろうか。
そう不安を抱えながら、日誌を閉じるハイティであった。




