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3ヶ月前ーー
マリー・スカーレットは馬車に揺られていた。
マリーと向かい合わせに座る人相の悪い男2人はマリーの目の前で
彼女の行く先について嘲笑いながら談笑している。
「王都にある花街の娼館に買い取ってもらうことになったぞ」
「マジすか! これだけのマヴですから相当な値打ちがついたでしょ」
「この商売をしてきた中で最高値だ」
「よっしゃあ。じゃあ今晩は弾みますね」
「ああ。期待しててくれ」
「だけどちょっとでいいから売る前にこの娘をつまみ食いしても良かったんじゃないですか」
「やめろよ。お前が手を出したら売り物になんなくなっちまう。どうしたらあんな残忍なことができるか理解ができねぇ」
王国中の貴族たちの令息、令嬢が通う王都の学園に通っていたマリー・スカーレットがどうして娼館に売られる身分になったのか?
話は1週間前に遡る。
「マルクス様が亡くなったってどういうことですか。お父様」
リオーラに恥をかかされた舞踏会の翌日、父から火急の知らせが届き、マリーは急ぎ実家のあるスカーレット領に戻って来た。
そして待っていたその知らせは婚約者マルクスの訃報だった。
「お父様、なにがあったのですか。教えてください」
マルクス・デュクトは王宮で騎士をしていた青年。
マルクスが王宮の庭で木剣を素振りしながら鍛錬に励んでいると突然、仲間である騎士たちに取り押さえられる。
マルクスには麻薬を使用しているという嫌疑がかけられていた。
仲間からの取調べを受けていたマルクスはそれを恥と感じて、一旦、その場から逃走。
マルクスは武器庫に飛び込んで、見つけた剣で自らの首を斬って自害した。
経緯を知ったマリーはその場にしゃがみ込むように泣き崩れる。
「聞いてくれマリー、此度のマルクスの件、彼の死だけでは幕引きにならない。
我が領内で麻薬の製造密売をしている組織が見つかり、領主である私の関与が疑われている。
領地も減封が命じられた。私も明日、王都で取り調べを受けることになった」
「お父様もですか?」
「だからどうしてもマリーには今日会って起きたかった」
これがマリーと父との最後の言葉となった。
マリーの父ハングベル・スカーレットは拷問を伴う厳しい尋問に身体が耐えきれず獄中死。
まもなくスカーレット家のお取りつぶしが宣告。領地は商人たちに買い荒らされ、
母は隣国の貴族に使用人として売られ、マリーはやってきた人相の悪い男2人組によって現在に至る。
すると、男たちの談笑を遮るように馬車が急停車する。
マリーが窓外を覗くと、別の馬車が道を塞ぐようにして止まっている。
そして金髪にキリッとした碧眼の青年が両手を大きく広げてこちらの停止を促している。
人相の悪い男たちは馬車を降りて、青年に詰め寄る。
「馬車の中にいる女を買いたい」
「なんだと?」
「彼女の買い手となっている娼館の倍は出そう」
「こちらの事情を知っているようだな。厄介なことに巻き込まれる前に売り払うのは賢い選択か」
「本当にいいんですか?」
「馬車の裏を見てみろ剣を持ってチラつかせている男たちがいる。アレは手練れだ」
「話が早く済んでよかった。交渉成立だ」
人相の悪い男2人組はマリーを馬車から降ろしてすぐ立ち去る。
マリーが呆気に取られていると青年が口を開く。
「俺はレニヤス商会のテイル・ロトワールだ。
どうしてお前の婚約者と父親が死んだか理由を知りたくないか」
マリーの瞳に光が戻る。
「何かご存じなのですか⁉︎ 教えてください」
マリーは両手をテイルの肩に乗せ顔を近づけながら迫る。
「待て落ち着け。今回の一件、黒幕はランタル家だ」
「ランタル⋯⋯リオーラさんの!」
「デュクト家とランタル家は貴族院議会の議員の座を巡って対立していた。
クリフ・ランタルは麻薬事件をでっち上げデュクト家を陥れた。そして後ろ盾になっていた
スカーレット家も巻き込んだ」
「そんなことのためにマルクス様とお父様は死んだのですか?」
「ああ。権力闘争とはそんなものだ。実にくだらない。
なぁ、マリー・スカーレット。復讐したいとは思わないか?」
「復讐⋯⋯ランタル家に?」
「そうだ」
「テイル様、復讐のために私はなにをすればよろしいのですか?」
テイルは目を見開き顔をグッとマリーに寄せる。
「手はじめにランタル家の子を孕れ」
「テイル様、それって⋯⋯」
「安心しろ。偽り妊娠だ」
***
「レニヤス商会のテイル・ロトワールと申します」
クリフとマリーは応接間のテーブルを挟んでテイルと向かい合う。
テイルの張り付いたような笑顔にクリフ・ランタルは猜疑心に支配される。
「そのような顔して迫って来た商人にロクな奴はいなかった」
「まぁまぁお話だけでも」
「マリーの手前だ。話だけ聞こう」
「土地を買いませんか?」
「土地だと?」
テイルはテーブルの上に地図を広げる。
「ここはランタル領と王都との境の森林か」
「おっしゃる通り」
「こんな畑もできないような奥深い森林を買って何の得になるというんだ」
「街道ーーをお造りになりませんか?」
クリフの眉がピクンと動く。
「もうお気づきになられましたか。そうです。王都とランタル領を最短距離で結ぶ街道ができるのです」
「街道ができれば王都との交易が盛んになりランタル領の経済は潤う」
「ご名答にございます」
「どうしてこれほどの土地を商人が持っている。王都と接した土地なら王国が直接管理しているか。
官職が与えられた貴族が所有しているものだぞ」
「最近、次期当主だったご令息が自害されてお取りつぶしになった貴族おりまして、
資金繰りに困り、我が商会を頼ってきて手放されたため、預かることとなりました」
「いくらだ。このようなところ本来なら戦を仕掛けてもほしい土地だ。いくら必要なんだ」
「いいえ。我々もこのような土地をいつまでも所有しているのは分不相応。金貨30枚で手を打ちます」
「この土地なら金貨500枚は要求するはずだ。いったいなぜだ」
「これから開拓にお金がかかると思いますのでランタル様の負担を減らそうというご提案です」
「ならば断る。話ができ過ぎている。帰ってくれ」
「あらら見抜かれましたか。あの森林は魔物が住んでいて討伐が厄介なのですよね。
ですがランタル領の立地だったらその出費を遥かに上回る収入が入ってくる。
我々にはゴミみたいな土地ですがランタル領だからこそ原石になりうるいかがですか」
「断る帰ってくれ」
「左様ですか⋯⋯」
テイルの口車を断ち切るタイミングでセバスが入ってくる。
「旦那様、聖女様から急なお呼び出しです」
「なんだと!」
「どうやら奥様がマリー様の件で駆け込まれたようです」
「もうこれ以上話すことはない」
と、クリフは慌てた様子で部屋を出ていく。
その姿を見てマリーとテイルは顔を見合わせてニヤリと笑う。
***
クリフは馬車で王都近郊にある聖女のいる教会にやってきた。
50代となる聖女は王政府を脅かすほどの権威を持ち、ほとんどの貴族が頭が上がらない存在。
「ティーナが私のところに来たよ。今度の貴族院議会の議員にあんたを推す件ね。やめるわ」
「聖女様、考え直していただけませんか」
「あんたねぇ。娘と同じ歳の子に淫行をはたらいたって人間を推したなんてことになったらマーリック聖教の名が地に堕ちるのよ」
「ですが、私が議員になれば聖女派は過半数を握れます」
「諦めな。あんた、王都中で“ロリ伯”って名前で有名になっているから」
「ろ、ロリ⋯⋯」
クリフは衝撃的な事実を告げられ逃げるように王都をあとにした。
クリフにとって名誉を挽回するチャンスはひとつしか残されていない。
クリフは再び屋敷にテイル・ロトワールを招いた。
「お買い上げありがとうございます」
この日からクリフ・ランタルの開拓記がはじまった。
領内の冒険者ギルドには破格の報酬で依頼が貼り出され大勢の冒険者たちが集まった。
「なんだいロリ伯様はなにをはじめようってんだい」
「なんでも魔物が出る森の開拓だってよ」
「たしかAランク以上の魔物が住んでいるって噂だぜ」
「こりゃ、別のギルドからもSランク冒険者呼ぶか」
「知り合いに声かけてみるぜ」
ロリ伯ことクリフ・ランタル伯爵はこの開拓に資財の半分以上を注ぎ込むことになるのだが、それはまた別の話。
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