2022年5月16日
やらかした。完全にしくじった。
結果から言うと模試は全然ダメだった。具体的には、お腹が痛くて仕方なかったのだ。
試験中様々なことが頭を巡ったが、何よりも避けたいと思ったのは腹痛の申告が正当化のための嘘だと思われることだった。いろんな人に、お腹が痛かったってことにして自分の成績が芳しくないことを正当化しようとしているだろ、と言われるかもしれないのが怖いのだ。本当にお腹が痛かったのに。なんて、被害妄想も甚だしいか。でも、都合よく模試の日にお腹が痛くなるだろうか…。
そもそも受験地が遠すぎたし、不便すぎる場所にあったし、なかもそんなに綺麗じゃなくて過ごしづらかったし。何を言いたいのかもわからない言い訳が次々と浮かんできて鬱になる。
しかし、一番怖かったのは、周囲の期待に反して、自分が無能だということが露呈することへの恐怖だったのだろう。腹痛でそれどころではなくて当日はそういった感情をやり過ごせたが。
どれだけ自分がみじめな理由を探しても、私が受験に挑戦できていると言う事実、恵まれているという事実は覆らない。この事実にもっと鬱屈した気持ちになる。
「逃げ出したいとか、思っちゃいけないよね。自分で、選んだんだもんね」
そう心の中で唱える。自分を追い込む。
ああ、まずは、模試の復習をしてみてもらうんだったな。今日のシフトは佐野さんか。理系の先生だからできなかった数学を中心にきいてみよう。自分の答案を覚えているうちに、振り返りシートを記入した私はそさくさと応接に駆け込む。
「佐野さん、振り返りシート見てもらっていいですか?」
「おー、振り返りか。やりましょう!」
講師と振り返りをすることは義務らしいが、はじめてなりに問題点だとか改善点だとか、たくさん浮かびあがってきたもので、私はいつにも増して饒舌になっていた。できなかった問題を分析して、どういう解き方を身に付けたいかなども佐野さんにプレゼンしたのだった。
「…ですので、この参考書を使って、次の模試までに苦手だとわかった数列は基礎固めを徹底して、今回わりかし得点できた微積は大門全部解けるように完成度をあげる方向でいこうと思います」
「うん、振り返りの質は高いと思うよ。きちんと問題点と改善点が明確になってるし」
「こんな感じで良いんですね」
「うん。すごいなぁ、僕はあんまりできなくて、市貝さんによく怒られてたよ」
佐野さんはここの卒業生で、在籍中は市貝さんによく叱られていたらしい。あんまり怒る人に見えないけど、私が精神的に弱いことを知っているから、特別待遇なのかな。
そんなことを頭の片隅で考えながら、やはり私は早口で捲し立てる。
「総括して、酷い出来だったのかなと思います。かろうじて国語がちょっとできたくらいですね。…まあ、お腹痛かったんですけど。ただ、とにかく焦らず基礎学力を上げていかなきゃいけないと思います」
素養はあるって、みんなが言ってくれるから。
「そうだねー、ただ2年間ブランクがあったわりには得点できているみたいだし、焦らず上げてければ大丈夫だと思うよ。あとは、体調管理に気をつけてね」
佐野さんが優しく語りかけてくれる。
「あとで市貝さんか野木さんにも英語とかみてもらってね」
「はい。あとで市貝さんに見てもらおうと思います」
なんとなく最初の塾内模試(と言っても模試の過去問を一人で解いて採点してもらうといったもの)をやっときに、市貝さんに全部見てもらったので、その流れでなんとなく市貝さんに見てもらおうと思っていたところだった。今日来るし。
人と問題点や改善点を共有できたおかげか、焦りで埋め尽くされていた思考がクリアになっていくのを感じた。完全に落ち着きを取り戻した私は佐野さんにお礼を言って自習に戻るのだった。