対策は慎重に
冒険者の4人がしばらく話し合っているのを横目に、私は夕食を並べ始めた。
気が付いたら空は暗く、濃密な夜の気配が漂い始めていた。
空腹で帰せば、心理状態がネガティブに傾く可能性もある。
──ここは満腹感で幸福値を……上げておくべきだわ。
団長から貰ったお肉の出番だ。
王族御用達の肉は、間違いなく強い。
このアルセンブルグのステーキを焼けば、ジュウジュウという音、香り、見た目、味──全てがいい刺激になる。
(ふふ、興味の無い講義を聞かされた後の、気分転換ってやつよね)
ドワーフが遊び心で作ったオリハルコンの肉叩きで──
丁寧に叩いた分厚いお肉を、塩コショウ。
ちょっとだけ寝かしておく間に、ニンニクをスライスして牛脂でカリッと揚げ焼き。
出来上がったガーリックスライスは避けておいて、香の移った油でステーキを焼いていく。
──あらまあ、みんなお肉に注目して。
両面を軽く焼いて、蓋をして火を止めて、数分放置。
余熱で、ちょうどいい焼き加減になる。
残った脂でソースをつくり、キノコや野菜を炒めれば、付け合わせにもなる。
柔らかいパンをかごに盛り、サラダの大皿と一緒にテーブルに。
「うまっ!」
手のひらサイズのティティだけは、こちらと同じ物だと美味しい部分が食べられないので──
お肉の好きな部分を切っていって、自分で焼いていたけど、これはいつものことなので本人も手慣れたものだ。
ステーキ作戦は大成功だった。
4人は、『いつでも帯同出来るように、拠点を近くに移します』と当面の結論をだし、機嫌よく帰っていった。
階層移動したら、もう会えないっぽいからね。
帰りたいなら、私達と一緒にフロア移動しないとだもの。
──さて。
フレスベルグとティティが、パンジーちゃんのお散歩に行ったので。
ダイエットに影響しなさそうな、赤身の部分を適当に切り分けて、パンジーちゃんの食事も準備しておく。
(みんながお肉食べたのに、パンジーちゃんだけ食べれないのは─かわいそうだもの)
後片付けが終わり、周囲がすっかりきれいになった頃、2人と1匹は騒々しく戻ってきた。
パンジーちゃんが大喜びで食事をしてる間、私は2人に『予定』を話すことにした。
「戦力としては、フレスベルグの魔臓覚醒か、そこ厳しいなら──アシュレイたちにもケルベロスモードのパンジーちゃんを──綱引きみたく引っ張る手伝いはして貰うとして──」
「綱引きって」
「ふふ、ケルベロスの子犬は物理と魔法的に無敵でしょ?子犬に綱をひっかければいい」
「ああ!確かに──でも人間4人じゃ無理な気が……」
「フレスベルグに、ちょっと余裕が出来るだけでも違うからね?」
「うん、ギリギリはもう嫌だな」
フレスベルグはマシュマロの大袋を取り出しながら、しみじみと呟いた。
「後はティティの『存在強化』ね」
きょとん、としたティティに──私はもう少し補足説明をする事にした。
「ティティに魔力名付けをする案もあるの。──魔力で魂に名前を刻めば、この世界の存在としての『立場』を強化できるからね」
「魔力名付けェ~?それはあんまりやっちゃダメっておばあちゃん言ってたけどォ~」
ティティは思い出したかのように、ふるふると震えた。
「でも、もうハネちぎられるの嫌だから……お願いしたい~!」
あっさり決めたティティが、尋ねた。
「痛い?」
「痛くないわよ」
「俺の魔臓覚醒は痛いヤツなのに──俺もそっちがいい!」
フレスベルグがゴネ始めた。
──だけど、一理ある。
フレスベルグの存在強化、有りだわ。
「そうねぇ……知っての通り、世界中で禁忌とされている『ヒト』への魔力名付けには『悪影響』の可能性があるのは知ってるわね?悪用して強制的な契約に移行させちゃったり、とかね」
うんうん、と2人が頷く。
(魔力暴走中だったユーニウスを呼び戻せたのは、魔力名付けのおかげ。使い方次第では、悪用も出来てしまう──)
「こうしましょう。魔法契約を交わすの──私は魔力名付けをしても、2人の思考や行動に影響を与えない。魂を縛らない、と。」
(──まあ付けたところで本人が本気で嫌がってることは、させられないんだけどね)
「なるほど、魔法契約があれば──なら、アリだな!」
焼きマシュマロを楽しんだ後、私達は魔法契約を交わした。
「ちょっとフレスベルグ!何でそんなに字が汚いの?──どうして左手で書いてるの!」
「は?左利きの方がかっこいいからに決まってんじゃん!練習してるんだよ」
「契約書で練習しないで!ちゃんとかきなさいよ──ああ、ティティのは小さめサイズの契約書があるから」
大騒ぎしながらもティティとフレスベルグは、お互いの契約書にも見届け人の署名をした。
島の名付けではえらい目にあったから──不確定要素の強いティティより、フレスベルグから先に済ませるべきか。
「じゃ、今日はフレスベルグから。夜番も2人に任せるわ、名付けで私が寝込む可能性もあるからね」
私は声に魔力を乗せ、フレスベルグに名付けを行った。
「…………拒否らないでくれるかしら」
「だって怖いんだもん!」