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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
アルシア王国に移住するよ!

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『存在』の定義とは?


「蔦──?」


「あ、いや……もう40年も前ですし、蔦だったかどうかの確信もなくて。なんなら夢だったかもって」


(蔦──タコの足もそれっぽくはあるのよね)


私は『見えない』ゴブリンが気になって仕方がなかったので、アシュレイに質問をした。


「ゴブリンが視認できてないゴブリンって、あなたたちとはコミュニケーション取れるの?」


「いえ……」


マイケルが手を服の端で拭いながら、答えた。


「俺らは幽霊ゴブリンって呼んでるんですけどね、あいつらは『居る』だけで喋らないし反応もしないですねえ」


「動かない訳じゃないですよ、ゆっくり歩き回ってますね……」




ティティが集中力を欠きだした。

そわそわと落ち着きがなくなってきたが、これは精神体に近い妖精種族の特性なので──彼女が悪いわけではない。

同じ妖精でも、コボルトやケット・シーのようにちゃんとした肉体を持って、しっかりと『世界』に結びついてる種族とは存在軸が違うのだ。


(──妖精には『身体』が魔力タイプと、血肉有のタイプが居る)


私は、不思議そうにこっちを見ているフレスベルグに、冒険者の相手をお願いした。


ここはしっかり考えておきたい。

私はノートにアレコレ書き付けながら、見落としを探した。

何かが、『なにか』が引っかかる。



──そう、肉体が魔力主体になると……その『在り方』は他の種族と変わってくる。


曖昧な存在。


彼らに集中力がないのは当然──脳も魔力製なのだから。

──意識自体は変わらないけど、気まぐれで記憶が適当なのは【その日の魔力脳の性能次第】だから。


私はノートに『不安定な存在軸ーゴブリンー幽霊?』と書き殴った。


その傾向は、存在が曖昧な……不安定なゴブリンが一番強い気がする──

冥界ではないけど、そういう妖精には『妖精の境界域』があってもおかしくない。


(ゴブリンに聞いても──まともな答えが返ってこないから、これは誰も着手してない【概念】だわ……)



──ゴブリンも、エインセルも身体はほぼ魔力で構築され


「あっ」


「おお?どうしたんだジューン」


「存在力の在り方よ!」


私は思わず叫んでいた。

血肉を持たない方の妖精族。

ゴブリン、シルフ、エインセル──


すべて、当てはまっている。



私は全員を見渡した。


──彼らの興味は、『脱出』『そのための手段』だろう。


妖精の存在軸や『存在力』の定義を語っても、興味の方向性が違いすぎて、理解されにくそうだ。


──うまい言い回しで、簡潔に伝えないと……


「ダイレクトな解決策じゃないのはさきに言っておくわね。何をするにしても、私が今から話す理屈が前提になるから【重要】な話よ」


全員が真剣な顔をして、私を見た。

フレスベルグが紙とペンを配り始めた。


「さっき私が言った存在力──これは専門用語だから、わかりにくいと思うので、『水』だと思って欲しい」


「水は同じものだけど、氷、水、湯気になるわね?」


全員が頷いた。


「存在が強固な、人間や魔物は『氷』か『水』触れる存在ね?」


「では湯気はどうか?見えているし、触感もあるけど──【掴めない】、これが精霊や妖精」


全員がティティを見た。

ティティは笑顔で手を振り、くるりと回転した。


「大抵の妖精は『水』と『湯気』の間の、どこかに居る。水に近いと触れる。──湯気寄りだと、見えてても手では触れない。氷からも温度差で蒸発してるけど、今回はわかりやすく、湯気にしておくわね?」


(うん、ここまではみんな受け入れられてるみたいね──)


「『水』にはもう一種類の形態があるの」


「それは、湯気じゃないタイプの『気体』。バケツに汲んだ水は、ずっと放置してると──いつの間にか減っているでしょう?」


フレスベルグが、呟く。


「湯気も気体なんじゃねーの?」


「ああ──そうね。湯気も蒸発も『気体』ではあるわね。──では、今回の例えである気体は──」


「今は──性質がまだ水に近い『見える気体の白い気体』と、空気に近い『見えなくなった気体』の2種類ある、としましょうか」


全員が頷いた。


「では無くなった『水』はどこに?となると、空気中にってことになるんだけど──これは、『ある』のに『見えないし、感じ取れない』という性質がある──これがいわゆる霊的存在ね、幽霊とか」


「つまり、存在というのは『同じものだけど、濃度や性質が違う』」


アシュレイが手を上げ、疑問を言葉にした。


「では──気体である幽霊ゴブリンを、水の中に──『水』に戻すことは……」


「そうね、幽霊の部品が100あったとして、それが欠けずに100揃ってれば『理論上は可能』なんだけど──空気中に飛び散った、目視できない『同じ部品』を寸分違わず集めるのは『現実的には不可能』、無理と言うしかないわね」


「つまり、壊れたものは戻らない、と、」


アシュレイが、いたましそうにティティを見る。

同じ『妖精』の話だから、ティティに同情しているのだろう。


(──妖精は根本から人間と思考回路が違うのよね……居なくなっても、壊れても。『あ、そうなの?』って受け入れてしまうのが妖精が妖精たる所以なのよ──)


「そうね、残念ながら戻らない。とりあえず留意しておいて欲しいのは、『存在』は有無じゃなくて、形を変える『揺らぎ』と思っておいて欲しい」


「んー?そういうの、気にしたこと無いよォ~?居なくなったら、居なくなったねって思うだけだよォ~?」


だってね、と続ける。


「死んじゃっても~、そのうち、また会えるからだよォ~?」


ティティの呑気な声が、森の中にゆっくりと広がっていった。

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