表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
アルシア王国に移住するよ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/208

ゴブリンのダンジョンとは──


エルフ、魔族、妖精、そしてケルベロス──

このパーティメンバーは、『食事』『睡眠』無しでも長期間の活動が出来る種族だ。


──飲まず食わず、眠らずでも10日以上平気なのは、攻略にかなり幅を持たせられる。


「今日は私が起きてるわ。あなた達はもう休みなさい」


二人を休ませて、私は魔導焚火の前で物思いに耽った。

ふと気がつくと、パンジーちゃんが毛布を引きずって傍に来ていた。


「あら。パンジーちゃん、寂しくなっちゃったの?」


私の足元に毛布を整えてやって、優しくブラッシングをしながらパンジーについて考え始める。


──何故パンジーが、カエルに攻撃可能だったのか?

おそらく答えは『種族特性』だと思う。

パンジーちゃんはブリーダーの元で生まれたケルベロスだけど……


本来のケルベロスは──現世と冥界の境界域にだけ、生息している魔物だ。

つまり、境界が交差する場で、自己を失わず存在出来る魔物。


──だから、位相を跨いで攻撃を出来た、ということなんだと思う。

パンジーは自分の居る側に不正アクセスしてきた物に対して『仕事』をしただけ。


──冥界に生者が入らないよう、冥界から魂が出られないよう、どちらの世界も見張り、必要なら攻撃する番犬──それがケルベロス本来の姿だ。


本能が、境界を越える存在を許さないのだ。

──自分が『どちら側』にいるのか、パンジーにはどうでもいいこと。


とにかく、境界侵犯は許さない──そういう風に出来ているのが、地獄の番犬なのよ。


だから、パンジーだけがこのパーティ内で唯一、『あちら側』にアクション可能ということね……

本能的なものだし、言って聞かせてどうにかなるものじゃないのが厄介だけど──

パンジー無しでは、絶対攻略不可能でもある。


「どうしたらいいのかしらね、パンジーちゃん」


パンジーちゃんはブラッシングでリラックスしたようで、また眠り始めた。


──いつ暴発するかわからない危険物だけど、今の私達にとってはパンジーちゃんが最終兵器でもある。


「どうしたものか….」


私は小さな声で呟いた。

焚火の揺らめく炎が、プスプスと間の抜けた寝息をたてるパンジーちゃんを照らしている。


「可愛い爆弾ねぇ……」


カサッ。


パンジーちゃんが飛び起きるのと同時に、私の耳も茂みが揺れる微かな音を捉えた。


迎撃体勢で目を向けると、両手をあげた年配男性が遠くから歩いてくるのが見えた。

パンジーちゃんに待て、と命じてから私はゆっくりと男達に近付いた。


「え、エルフ──」


わかってて来たんじゃないのかしら?

ここに来て、まさかエルフだと怯えられるとは……!

わかってはいるけど、何か納得いかないわ。


「危害を加えるつもりはないわ、私達は野営しているだけよ」


継ぎはぎだらけの服を着た、二人の男性。

50は越えてそうな年配者だ。

鑑定も通って、人間であることも確認した。

出で立ちはボロボロだけど──不衛生ではない。


だとすると、このフロアに拠点がある?

揺さぶりをかけるべきね。

ここで生き延びている者が居るのもびっくりだけど、素晴らしい情報源かもしれない。


「──で、拠点から様子を見に来たんでしょう?見慣れぬ者がいるってことで」


男達は顔を見合せ逡巡した様子だったが、やがて頷いた。


「私はアシュレイ。こちらはジョン」


「ジューンよ」


短い自己紹介が終わり、私は二人を焚火の前に招いた。

自分のエリアにいれたところで、私の脅威にもならないからね。

おまけに、パンジーが居るし。


──さて、この二人は敵か味方か?

判断は、情報を引き出してからよ。



アシュレイと名乗った男は、ゆっくり慎重に話し始めた。


「ここでゴブリン以外の種族を見たのは初めてでして──私達はギルドの依頼を受けて、調査に来たのですが」


アシュレイは出された紅茶を一口飲んで、満足そうに一息ついた。


「結局、不帰の迷宮の名前の通り──帰還できずにずっとここに住んでいる、という状況でしてね」


(不帰の迷宮……まさに、帰れない穴じゃないの…)


「……ギルドの依頼は、原因究明の解明かしら?」


「その通りです。『帰還不能指定領域No.19』の調査、でした」


ええー、ここ帰還不能指定だったの……?

完全なる私のミスだ。

知らない場所なのにその場のノリで即決しちゃって、ちゃんと事前調査しなかったから。

──ギルドが絡んでるなら、ちょっと調べればわかったことなのに──


ジョンが口を開いた。


「時々、出口や何かの扉が出現するんですよ──でも、なんといったら説明出来るのか……」


「触れないんでしょう?」


「え?なんで知ってるんです?そうなんですよ、触れないんです!だけど──」


「だけど?」


「ゴブリンは、出ていくんですよ。なんというか……ドアを開けるんじゃなくて、スゥーっと」


「消える……そのままここには来ない?」


「ええ。ちょっとゴブリンは見分けがつかないんですけど、人数が減るので」


焚火のパチパチという音が静かに響く。

パンジーちゃんは目も開けず、眠りこけている。


「もともと、5人パーティだったんです。今は4人しか残ってないのですが──扉があるのに、無いと言って笑って近寄って、転びかけて──俺の目の前でスゥーっと消えたんですよ」


「あなたに見えていた扉、消えた彼には見えていなかったと?」


「少なくとも、本人は『何言ってるんだよ、何もないじゃないか』と」


(見える人と見えない人が居る?それってもしかして──)


「ねえ、その彼って妖精か精霊なんじゃない?」


「!?」


アシュレイがジョンを見て、頷いた。


「そ、そうです。彼は……シルフ族でした」


(やっぱり!)


シルフ族は人間と同じような姿をしているけれど、れっきとした精霊だ。

ただし──具現化しているので、妖精にかなり近い存在。


ゴブリン、エインセルであるティティ、シルフ族の共通点と言えば──


「妖精、妖精だわ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ