ゴブリンのダンジョン⑨
──最初からどこにも無かった場所。
もともと存在していたゴブリンの迷宮に『何か』が干渉しているのは間違いない。
──位相の同調から起きる存在軸の捻れ──これはおそらく正解に近いはず。
あまりにも性質が似ている位相は──それが何らかの要因で接近した時に、共鳴反応を起こし、『同調』現象が発生──稀に双方の境界が曖昧になることがある。
「だけど、何か能動的なトリガーがなければ、そもそも同調には到らない──」
(……と言うことは、何者かが意図的に『同調』させている、って結論になるんだけど)
森はどこまでも優しい雰囲気で、リラックスを誘ってくる。
時折吹き抜ける風、地面に降り積もった針葉樹の葉のクッション。
湿地から来たせいか、適度な温度と湿度が本当にありがたく感じる。
2時間見て回ったが、やはり『動物』しかいなかった。
──全く論理的ではないけれど、ここが元々ゴブリン達のダンジョンではなく、ちょっと刺激的な『遊び場』だった可能性も否定できない。
──ていうより、ゴブリンがって考えるとそっちの方が納得出来るわね。
──だってゴブリンだし──
──もしそうだったら『動物』しかいないのは、一応整合性はつくのよね。
「そうだ、ゴブリン達はダンジョンじゃなくて、穴って呼んでるって言ってたじゃない──」
ダンジョンではなく、『なんとか穴』
後で、ティティに確認しなくちゃ。
野営地まで戻ろうと方向を変えた瞬間、甘い香りが漂ってきた。
──どこかで、嗅いだことがある。
野営地に近づくにつれ、甘い香りは濃厚になっていき────
フレスベルグとティティが──ものすごく真剣で、顔を突き合わせている。
何か問題が起きた?
随分と深刻そう────
二人は、棒にマシュマロを刺して魔道焚き火で炙っていた。
──職人のような顔で。
ダンジョンや危険な場所で、匂いの強いものはダメって何度言えばわかるのかしらね。
ここ、危険ではなさそうだけど。
「おー、ジューン!」
「ジューンちゃんの分もあるよぉ!」
何かの葉軸に突き刺さったマシュマロを受け取り、黙って座って焼きマシュマロ会に参加。
どうせもう香りは撒き散らされているんだし、今更よ。
──それに、焼きマシュマロは割と好き。
いい感じに炙ったマシュマロを食べきり、もう1個刺そうとした時。
葉軸の『おかしさ』気がついた。
「ねえ……この葉軸、どこから持ってきたの?」
ここは針葉樹の森。
──この葉軸……ヤシの葉、ヤシなんて生えてる?
もっと温暖な地域の植物よね?
鑑定は通らない。
フレスベルグ、ティティ、魔道具、針葉樹や岩なんかには、普通に鑑定が通る。
生育環境的に、あってはおかしいこの『ヤシの葉軸』だけ、鑑定をロックオン出来ない。
葉軸は、『無い』扱い──
この手にしっかり持っているというのに。




