ゴブリンのダンジョン②
わざわざ強酸を出して、ペロペロするなんて。
右の頭は、随分お茶目さんなのね。
フレスベルグは、顔をすすぎ終って落ち着いたようだ。
人間なら、溶けちゃうレベルだけど──フレスベルグは魔族だから、赤くなる程度だ。
「全く!ひどい目に遭ったぜ……ってスライムって久しぶりに見たな」
「そうだねェ!街中じゃ居ないもんね!?」
「聖核が買えないとこは、浄水槽にスライムいれてるとこもあるわよ。吐き出す水は純水だから」
「確かにィ!田舎とかだと下水道とかにもスライムいれてるよねェ!」
私達は、ゆっくり動くスライムを眺めた。
丸く透明なスライム。
中心は何か消化中なのか、赤黒い塊が浮かんで蠢いている。
「あれなぁ……取り込んだものが丸見えなのはちょっと……」
「昔大問題になって、それから聖核で殺菌、浄化が主流になったのよ」
「大問題って?」
パンジーちゃんが情けない鳴き声をあげ、飛び退いた。
必死にすり寄ってくるパンジーちゃんを宥めるために、しゃがんで撫でてあげると、必死に膝に上がろうとして来る。
パンジーちゃん、60kg以上あるのにな。
可哀想に、スライムが怖かったのよね──
「昔は下水道にも浄化用スライム居たのよ。でも頻繁に大量分裂するから───」
「溢れ出てきたら、ヤベェってことだよなぁ?」
ティティがスライムに小さな雷を落として、スライムを弾けさせた。
当然ながら、中身はビシャッ!
「──ああなる訳よ」
「あー、理解」
「そういうこと。菌もすごいし」
「野良はダメだな、なに食べてるかわかんないしよー」
私はこれ以上パンジーちゃんを怖がらせないよう、そっと数匹のスライムを凍らせた。
「何かこう……洞穴っぽいな、普通の」
「どの辺が秘密の迷宮なんだろねッ?」
ティティがあちこち飛び回って、周囲をチェックする。
「あれェ?入り口も転移陣も無いねェ?一方通行かなァ~」
「迷宮だから、そういうギミックはあるかもね」
「先に進もうぜ!」
私達が歩き出すと、パンジーちゃんも渋々歩き始めた。
ふさふさの尻尾が、力なく垂れ下がっている。
私はスライムを追い回す二人に声をかけた。
「パンジーちゃんが怖がるから、スライムは凍らせなさいな」
背中の子犬は眠ってでもいるかのように、目を閉じている。
ケルベロスがケルベロスモードに入ったら、それは強敵ということだ。
ケルベロスが……怖がりパンジーちゃんでいるうちは、あの二人の好きにさせておこう。
一階層はスライムしか居ないみたいだしね。
「うちのホムンクルスはスライムゼリー使ってるけど、野良じゃあんなに綺麗に仕上がらんよなぁ」
「そうね、純粋仕立ての無菌養殖スライムじゃなきゃ無理でしょ」
「知ってるゥ!なんだけ、えっと」
「スライム管理局だろ」
「そうそう!」
パンジーちゃんを励ましながら、スライムを凍らせてフロア中を歩き回り、2時間程で下へ降りる階段が見つかった。
大喜びで先陣を切って、足を踏み出したフレスベルグはそのまま転がり落ちていった。
体重がかかった瞬間、段差がなくなったからだ。
「うそ!?一階からトラップって!うわぁぁぁぁぁぁ…………」
フレスベルグの悲鳴が遠くなっていく。
「ぶはっ!結構初手からえげつないわねぇ」
「きゃはは!見た?あの顔ー!」
私はパンジーちゃんを抱きかかえ、浮遊魔法で地下一階に降りた。




