ババァにババアと言った結末
「──だけどよ、やっぱエルフ出したいんだよなぁ。異世界と言えばエルフだろ?」
「問題は、最後までエルフが勇者を殺さずエンドロールまでいけるかどうかね……」
「そこよね。まず序盤でキレて、安全が保証できないわ。勇者だけじゃなくて隠密モードのカメラマンやスタッフまで殺されちゃうわ」
「ジューン!ジューンが居るじゃん!ジューンなら見た目は20代の美女だし──あ、でもなージューンはババァだからなぁ」
フレスベルグはニヤニヤしている。
私は思わず笑い出した。
この若僧、時々私をババァって言うのよ。
ババァにババァって言ってダメージになると思ってるのかしらね?
だってババァだよ?
「だから毎回言ってるじゃないの。ババァババァと言ってもノーダメージだって」
「じゃあ何なら──」
「フレスベルグ、あのね。ババァと言われてダメージ受けるのは逆に若い子じゃない?ババァじゃないのに言われて」
「──確かに」
フレスベルグは考え込んだ。
「同世代の男にババァって言われたら、殺しちゃうかも知れないけど」
「ええ?それくらいで──」
「それくらい、って思うあたりがもうね、モテない男のテンプレよ?」
「冗談なのに!?」
「そういう、本人には改善できない部分を弄るつまんないジョーク言う男はモテないのよ」
「…………」
「まあ、でも大丈夫よ。そういう男は大人の女性からは選ばれないわ、だから問題ない」
フレスベルグの顔色が悪くなってきた。
「もちろん、ババァからもね。眼中にないから問題なし。ただ、アドバイスするとしたら──自分がバカだって宣伝するのはオススメしない、かな」
ババァからの優しいアドバイスよ。
面白い、親しみあるつもりで不躾なこと言う男ってホントにモテない。
もちろん、これは女にも当てはまるけどね。
「じゃあ、じゃあどうやったらモテる!?」
カルミラがフレスベルグをまじまじと眺めてから、こう言った。
「フレちゃん、外見は最高に良いのよねぇ。美形だし、物憂げで知的だし」
「中身がねぇ……喋ったらも台無し」
「…………」
フレスベルグは静かにうなだれた。珍しく真剣な顔で、こちらを見てくる。
「俺、そんなにダメなの!?」
「惜しいのよ、ほんっとに惜しいの」
カルミラがため息をついた。
「まずね、冗談のつもりで他人を下げる癖、あれは最悪」
「いや、それは場を盛り上げようと──」
「場じゃなくて周囲を見なさいよ」
私はカップを置いてから、口を開いた。
「モテたいならまず、受け手の気持ちに想像が及ぶこと。それが第一歩」
「受け手の……気持ち……?」
「そう。自分はそんなつもりじゃなかったは言い訳。相手がどう受け取ったか、がすべてよ」
「……難しい……」
「でも、必要。あなたは見た目はいいんだから、中身も伝わるようにしなきゃ損よ?」
カルミラが追い討ちをかけるように微笑んだ。
「で、第二に──人の話、ちゃんと聞いてるようで聞いてないってのもマイナスポイント」
「そんなことない!」
「前に私が言ったピクルスのレシピ、覚えてる?」
「……え?」
「ほらね」
カルミラが肩をすくめる。
「モテる男って、他人の話を記憶して、興味を持って、適切なときに引き出せるの。聞き上手で記憶上手は鉄板のスキルよ?男女に限らず」
「あとね、女の好みを全否定しないってのも大事」
「私の大事なケルベロスを『それの何がいいの?』って言ったの、感じ悪かったわよ」
「えっ、それ俺、マジでわかんなかっただけで──」
「わからなくても、否定しない。理解は後からでいいの。共感が先」
「…………」
フレスベルグは、何かに耐えるようにテーブルの木目を見つめている。
「追い打ちすると、自分語りが多い男もモテないわよ」
「わかるー!こっちは喋る隙なくて。で、俺はさ〜って3回続いたら、もう帰りたくなる」
「…………ッ」
「でも、フレちゃん、直せば化けるわ。“顔で釣って中身で逃がす”のを逆にすればいいのよ」
「……逆に?」
「中身で繋ぎ止めて、顔で納得させる。そしたら最強」
「…………」
フレスベルグはゆっくりと顔を上げた。なにやら決意した顔で、静かに言った。
「……俺、明日から聞き上手になります」
「……急に意識高いな?」
「努力する。ケルベロスも褒める。ピクルスも覚える」
「やけに前向きね?」
「──モテたいから!!!」
「動機は下心かい!」
私達は盛大に吹き出した。
なんでフレスベルグの人生相談になったか、わからないけれど。
ま、攻撃したいなら丸見えの武器は使うなって事よ。
誰かを消したくなったら、エルフ式だと謀略か毒、暗殺かしらね。
──私がそこまで怒る事も、まず無いけど。




