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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
アルシア王国に移住するよ!

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事前打ち合わせ


カルミラが、優雅にサロンに戻ってきた。


「なんの話をしてたの?」


「ケルベロスの、末端脳統括型制御構造について噛み砕いて説明してたの」


「あれねえ、私もかなり研究には寄付してるんだけど中々進捗無いのよね」


私達は、ケルベロスと背中の子犬を眺めた。


「そうそう、フレスベルグ。他大陸だとダンジョン以外にケルベロスがいないのは、何でか知ってるかしら?」


「見た目もヤバイし、危険生物過ぎて討伐されるから……?」


「可愛いじゃないの!」


ああ、フレスベルグがカルミラを怒らせちゃったわ。

ブリーダーにそんなこと言ったら、怒るに決まってるじゃないの。

しかもトップブリーダーよ、トップブリーダー。


「違うわよ。ケルベロスはね、すっごい甘えん坊なの」


「咬むじゃねーか!」


「それは序列の問題ね」


「………………」


カルミラが大人の女性のおおらかさを見せ、話題を変えた。


「そう言えば、フレちゃん、魔王イベントの方はどうなってるのかしら」


「もう、子供じゃないんだからフレちゃんって言うなよ……金がなくてあんま進んでない」


「人材確保そろそろ始めないと」


「そうだなー、あ、ルートとしては最初に救い出すのは当然女の子だよなー、ロマンだから」


「今回も、歴代勇者に大人気の【幼い系巨乳美少女】奴隷役で用意するんでしょ?」


「お約束のね?勇者の庇護欲、承認欲求、性欲を刺激する感じで──今期はちょっと儚げな子とかどう?」


「あと、意味深な事言って消える美女も必要ね」


「そうだ!エルフって手もあるんじゃね?」


「…………うんっていう言うエルフ、この世に居ると思う…?」


「エルフもロマン枠ではあるんだよ、実際!」


フレスベルグは力説している。


「エルフはね、オススメしない。序盤で勇者が殺されるリスクが高すぎて。イベントで死人が出るのはNGって決まりでしょ」


「デ、デスヨネー……」


カルミラがパチンと手を叩き、微笑む。


「じゃあ娼館巡りもそろそろ始めないと、良い感じの子スカウトできないんじゃない?イベントの拘束期間が1年くらいあるでしょ?」


「それに奴隷商役もよ?やることいっぱいあるじゃないの」


「スラムの奴隷商って設定がこちらとしては一番楽で良いわね──だけど、勇者ってスラムにそんな稼げそうな美少女がなんで奴隷でいるのか、不思議に思わないのが面白いわよねぇ……」


「文化が違うからよ?奴隷制度の無い世界から来たら、そういうものだって思っちゃうんだと思う。心理的に」


「確かに知らなければ、目利きも出来ないものねぇ……」


「あ、人間に魔道具で動く猫耳カチューシャと尻尾付けたら、殿方が好きそうな感じに仕上がるんじゃないの」


「その手があったか……!」


と、フレスベルグが立ち上がって目を輝かせる。


「ダメよ」


カルミラがピシャリと制止した。


「人間に無理やり付けたら、それもう動物虐待なのよ」


「え、倫理観、そこ?」


「当たり前じゃない。うちの組合、そういうの厳しいの。あ、でも本人がノリノリならオッケーよ」


私はため息をついた。

サロンの優雅な香りの中で、議題はどんどん脱線していく。

通常運転ではあるけれど。


「でもさ、結局、勇者ってそういうのに弱いよな?気持ちはわかるけど!」


フレスベルグがニヤニヤする。


「こっちで召喚する勇者は、あえてまだ未成熟な理想を抱えてるお年頃の子でしょ。救いたい、守りたい、って思わせないと視聴率が下がるわよ」


「殺意高い子来たらどうしよう……!」


フレスベルグが、深刻そうに怖がり始めた。

やる気のある勇者の方が、尺稼げるからいいと思うんだけどな?


「魔王はどうせ殺られるんだから、殺意あっても良いでしょ」


「当代魔王の自腹でやるんだから、興行収入無かったら、赤字になるわよ」


「関連グッズも販売するなら、見積り貰わないと。あ、どこかにチラシがあったはず……」


「まあ……うちの魔王組合が異様な完成度なの、そういうとこ抜け目ないせいだよな……」


カルミラがふわりと笑った。


「そういう意味では、あなたも相当な魔王向きってことよ、フレちゃん。後はお金だけねぇ」


「フレちゃん言うなっつーの……!」


ケルベロスの子犬が「キャン」と鳴いた。

尻尾がふるふると揺れている。


「統括脳、やっぱり子犬なのよねぇ」


「そうね。平常時は完全に子犬。危機時だけ、判断優先権が逆転するの」


「でもそれって……可愛さで油断させてから殺るってことじゃ……」


「そうよ?」


カルミラはにっこりと微笑んだ。


「でもそのギャップがいいのよ。フレちゃん、理解が浅いわ」


「はいはい、どうせ俺は魔王なのにケルベロスの序列最下位だよ!」


私たちは顔を見合わせ、笑った。



──どこまでも異世界とは、滑稽で残酷で、そして、愛おしい。

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