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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
アルシア王国に移住するよ!

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魔界の常識


翌朝、ユーニウスの様子を見ると元気にうろうろしていたので、辺境へ転移。

広場は随分落ち着いている様子。


ミシュティは救護エリアに応援に行き、私はぶらぶらしてみたけど手伝いは間に合ってるようなので、家に帰って魔界へ行くことにした。


「──というわけなの。魔王組合は動いてないのよね?」


カルミラは気だるそうに顔の前で手をヒラヒラと振った。


「ネイシア大陸には、まだ干渉してないわよ、来月辺りと思ってたけど、行かなくても良さそうねぇ」


「だよな!だよな!俺もまだ行ってない!そろそろ──」


「やめて、来なくて良いわ!」


「ひどい!そう言えばジューンさ、どんぐりコンテストに俺を出られなくしただろう!」


「してないわよ、魔王は不可ってちょっと考えたらわかるでしょうに」


「概要には書いて無かったんだぞ!最初はさぁ!」


「不備は修正されるでしょ」


フレスベルグも一応、スタンピードへの関与を否定した。

やっぱり、自然発生のスタンピードだったのかしらね?

私はすり寄ってきたケルベロスに、テーブル上のクッキーを与えた。

もちろん、どの頭にもよ?

依怙贔屓したら、喧嘩になっちゃうからね。


「ジューンよくケルベロスに触れるなぁ」


「あら。可愛いじゃない」


フレスベルグは来たばかりの頃、ケルベロスに追い回されて苦手意識があるらしい。

カルミラはケルベロスのブリーダーだから、このお城には常にケルベロスがうろうろしている。


「噛むし燃やしてくるし吠えるし」


「そりゃケルベロスですもの」


カルミラが用事で席を外し、サロンにはフレスベルグと私、数頭のケルベロスだけだ。


「あのさぁ……?」


フレスベルグが呟いた。


「頭が3つなのはわかってるんだよ。何でコイツだけ、子犬背負ってるんだ?」


フレスベルグは、1頭のケルベロスを指差した。

頭は3つ。

背中には可愛い子犬がケルベロスの肩甲骨付近にお尻を置いて、尻尾に顔を向けて伏せている。


「なに言ってるの?成体になったからに決まってるじゃないの」


「え?あ?子供って事?」


「魔界の常識よ?ケルベロスは成熟したら子犬が背中に乗るのよ。むしろなんで知らないの?」


「何で!?」


フレスベルグは、子犬ガン見している。

子犬は、つぶらな瞳でふるふると尻尾を振った。


「あれは──子供ではないわ。言わばケルベロス本体よ」


「嘘ーーーーーー!?」


「いい?頭は3つ。身体はどの頭が制御すると思う?」


「……考えたこと無かったわ……真ん中?」


フレスベルグは、恐る恐る真ん中の頭を指差した。

真ん中の頭は、その指に咬みついた。


「やめろ!いてーんだよ!このバカ犬ぅ!」


「ケルベロスの身体の制御は、あの子犬よ。あれが第4の脳なのよ。大人になるまでのケルベロスがなにかとお騒がせなのは、制御不全」


フレスベルグはケルベロスにクッキーを見せつけ、指を取り戻した。


「未熟なうちは、3つの頭がそれぞれ指令を出して、混乱しているからよ」


「あの子犬は?」


フレスベルグは、子犬を指差した。

右の頭が、その指に咬みついた。


「あれは擬似餌みたいなものね。可愛いでしょう?全く脅威じゃない見た目」


「痛いって痛い、もう!」


「あの【第4の脳】はね、胴体の制御と、中枢神経の統括。緊急時に3つの頭を制御する、ケルベロスの本体なの」


「やめろってー、お前もかよ!痛いって」


「あの子犬はね、どういう理屈か解明されてないんだけど、物理も魔法も無効なの」


「はぁ?そんなことある?」


「北の山の上に研究所があるじゃないの。子犬の防御機構のシステムが複雑過ぎて、研究員泣かせの──」


フレスベルグは、ケルベロスにクッキーを見せつけ、指を取り戻した。


「なので、成体のケルベロスを倒したかったら、同時に3つの頭を落とさないと──」


「いつ!いつ子犬が乗るんだよ、おかしいだろ?」


フレスベルグは、懲りずに子犬を指さした。

左の頭が、その指に咬みついた。


「おい、ホントにさぁ……やめて……1個しかないジャム乗ってるヤツあげるから……」


フレスベルグは、ケルベロスに高級そうなクッキーを見せつけ、指を取り戻した。


全員にクッキーあげるなんて、フレスベルグは随分成長して優しくなったのね。

良いことだわ、犬は可愛がらないと。


「いつ乗るって──いつの間にか乗ってるわね。気が付いたらお祝いするのよ」


「…………そうか、意味不明に追っかけてきたり、やたらに咬むのは未熟なケルベロス……」


フレスベルグは、遠い目をした。

一体過去にどんなドラマがあったのかしら。


「なぁ。カルミラはケルベロスのブリーダーだよな?」


「ただのブリーダーじゃないわ。トップブリーダーよ」


「ケルベロス、どうやって増えるん?まさか子犬を背中に乗せたまま──」


「そうね、普通に交尾してるわね」


「なんてシュールな光景……!」






『異界生物における多重統合意識構造の研究』より抜粋


──ケルベロス個体に見られる「末端脳統括型制御構造」について(F.Wisteriafield著)


ケルベロス型生物は、しばしば「三つの頭脳をもつ魔獣」として語られるが、実際の構造はより複雑である。前方三頭部はそれぞれ部分的な意識をもちながら、背部に存在する“末端脳”が全体の生体制御を司る。

末端脳は幼体の姿を呈するが、情報処理能力においては主脳に優越し、緊急時には各頭部の意志決定を強制的に上書きする。

いわば「可視化された統括中枢」と言える存在であり、その可愛らしさに反し、非常に合理的かつ冷徹な判断を下す。

外見に惑わされて接近した者が“本能ではなく命令に従う犬”の恐ろしさを知るのは、たいてい手遅れになってからである。

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― 新着の感想 ―
追いついてしまった(´・ω・`) 面白いです、更新楽しみにしてます
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