暴虐の女王
「どんぐり……?」
「どんぐり欲しいの」
「な、何かと交換なら……」
「1個で良いんだけど?」
フレスベルグは気難しそうな顔をして、考え込んだ。
ティティはニヤニヤしている。
5分待った。
私が温厚なエルフで本当にラッキーだと思うよ、フレスベルグ。
普通のエルフ相手だったら、とっくの昔に戦闘になってると思うの。
「ティティ、この辺にどんぐり落ちてるトコある?」
「あるよぉー!ティティの秘密のどんぐり拾い場教えてあげるゥ~!」
秘密のどんぐり拾い場て。
君たちどんぐり仲間なのね、仲良いもんね。
私とティティは、苦悩の淵に沈んでるかのようなフレスベルグを放置して森へ出掛けた。
「ジューンちゃん!どんぐり何に使うの?やっぱり集める感じ?」
「1個でいいの。ポシェットの飾りボタンに使いたいだけだから」
「ああ!それならティティが1個あげるゥ!」
私とティティは、森の中の大きな切り株の上にどんぐりを広げた。
ティティのおすすめどんぐりを出してもらった。
「何で君たち、そんなにどんぐり持ってるの」
私はどんぐりを真剣に吟味しながら、聞いてみた。
ティティはお気に入りどんぐりを、次から次へと出してくる。
「何でってェ~勇者召喚イベントの時に毎回コンテストあるからだよ?」
そんなコンテストあるんだ……
魔界は本当に魔界だわ……
「えっとね!どんぐりコンテスト、1000年くらい前のがいよーならあるー!ママから貰ったのー」
ティティは紙を取り出した。
どんぐりコンテスト
今回もやって参りました勇者召喚!
今期の魔王は巨人族のゼグ!!
つきましては、恒例どんぐりコンテストを開催します!
部門は下記参照
・一点(単体での美しさ)
・十点(揃えた美しさ)
・重量(1個での重さ)
・大きさ
(中略)
「部門多くない!?」
「うん、艶部門とか色部門もあるからねー」
「だからどんぐり集めてるの……?」
「うん!だってティティもフレスベルグも、初めてだからー!優勝するとどんぐりトロフィー貰えるの!」
ああ、そう…………
どんぐりね、どんぐりってそういう立ち位置だったのね……
「過去に出品したどんぐりは魔法かかっててさー、再出品出来ないの!」
「い、意外と厳しいのね?」
「そりゃそうよー?不正ダメ、絶対!」
「魔王本人はどんぐりコンテスト出れないんじゃないの、コレ」
「!?」
ティティは考え込んだ。
どんぐりをしっかりしまいこんだ後。
「あ、あたしちょっと実行委員会に聞いてくる~!」
私は魔界の森に取り残された。
いいよ、自分でどんぐり探すから!
魔王がコンテストに出られないよう、圧力をかけても面白そうだけど。
私は5時間後、ようやく納得出来るどんぐりを見つけた。
────帽子付きだ。
色、艶、大きさも完璧である。
満足して、私は辺境の家に戻った。
穴を目立たない部分にあけて、ポシェットに縫い付けて……保存魔法を丁寧に掛け、完成!
良いポシェットだ。
可愛さ重視、時間停止型で容量は4万羽のコケットが入る。
翌日、私はひよこ島に行ってミシュティにポシェットを渡した。
「わぁー!すごく可愛い……!」
ミシュティは裏返したり装着してみたり、大喜びだった。
「───この飾りのどんぐり」
ミシュティは、まじまじとどんぐりを観察して言った。
「コンテストで優勝狙えそう……!」
ミシュティよ、お前もか。
てかどんぐりコンテストってそんなにポピュラー!?
「そりゃそうですよ、勇者イベントに欠かせない──一番盛り上がったのは3回目だったって祖父が。エルフのジューンが魔王…………え?」
ミシュティが急に慌て出した。
「え、え?ジューン様?魔王のジューン様…………?」
「そうだけど」
「ふぁーーーー!私、勇者ヨッシーオ話大好きで!あ、本の中では魔王は暴虐の女王としか書いてないですけど、魔界では誰が魔王やったかみんな知ってますからねっ!」
ミシュティはいそいそと本を取り出した。
「ジューン様、一生お供いたします!サインください!」
私はミシュティが出した本に、署名した。
可愛いわが家のメイドのお願いだ、仕方ない。
「うふふふ、今日は帰ってから弟に自慢します!うちの弟、暴虐の女王の歌が大好きで」
「暴虐の女王の歌……?」
「え、ジューン様知らないんですか?」
暴虐の女王が囁いた♪
勇者はその場を動けない♪
気高く強い女王様、それは最後の激闘で♪
勇者は果敢に立ち向かう♪
何度も何度も立ち向かう♪
だけど女王は強すぎる♪
暴虐の女王♪
暴虐の女王♪
どんな攻撃も通らない♪
勇者は諦めてはいけない♪
世界は世界は勇者の手に♪
「って歌ですよ?空前の大ヒットだったってお爺ちゃんが言ってました」
(聞いたこと無いんだけど……?)
「あ、みなさんの夕食をを作ってまいります。ジューン様、素敵なポシェットをありがとうございます」
ミシュティは上品にお辞儀をして、飯場へ去っていった。
ゴンタさんが感心したように報告してきた。
「ミシュティさんは素晴らしいメイドですねえ、料理も最高だし、掃除も丁寧!我が組でこんなに快適な現場は初めてです!しかも歌うまいですね……圧倒的アイドル感!」
そうね、可愛いのは認める。
だけど暴虐の女王の歌ってなによ。




