ニーヴぷよぷよ問題
3日くらい時間の空きが出来た。
辺境ギルドでお仕事してもいいけど、チェシャはまだ帰って来てないはず。
王都の冒険者ギルドで何かするか、魔術ギルドで新規の仕事をするか。
家でダラダラするか?
私は丸1日考えて、辺境の家で1日を無駄にした。
ある意味正しい休日の過ごし方?
2日目の今日は有意義に過ごすべきだろう。
ここは人間の国だし、そのペースで頑張る事が大事な気がする。
しゃらーん!ポスト横のベルを誰かが鳴らしたようだ。
お久しぶりのカイとニーヴだった。
天気が良かったのでガゼボでお茶を出すと、カイは席について話し出した。
「ニーヴは散歩がてら連れてきたんだよ、団長は今日忙しくてさ。俺くらいしかお散歩させていただけねーのよ、このニーヴさん……んで、俺の結婚式は来年に決まったからよ、招待状出すから来れそうなら来て欲しい」
私はニーヴを揉みながら、お祝いを述べた。
「それはおめでとう!楽しみね。ところでちょっと言いたいことがあるわ。ニーヴ、太りすぎだと思うの」
ニーヴはひっくり返ったまま固まった。
カイさんは、そうかー?と首を傾げた。
「これから冬になるから、本能的に体重が増えるのは仕方ないんだけど。それを考慮しても太らせ過ぎだわ」
お腹がポヨンポヨンである。
「もともと毛も多いし大きい子だから、気付いてないかもしれないけど、肋骨が押しても指に感じられないのは、肥満だわ」
「…………運動不足か?」
「それもあると思う。でも、絶対食べ過ぎてると思う」
ニーヴは気まずそうにクネクネしている。
ムッチムチでも可愛いけど、適正体重をキープしてやらないと。
「フェンリルは7、800年生きるのよ。ニーヴが人間と暮らすのはせいぜい100年でしょう?いつでも野生として生きていけるように、考慮してあげて欲しい。こんなにぷよぷよにしたら野では生きていけないわ」
カイは団長にちゃんと言っておく、と生真面目な顔で頷いた。
「でな、今日来たのはさちょっと手を貸して欲しい案件があって。引き受けられそうならギルド指名依頼出すって団長が言ってるんだけど」
「聞くだけなら聞くけど?」
「あー、うん。ハグイェア大森林の西側によ、龍泉って水場があるんだけど。ゲートから30分くらい歩く場所なんだけど」
「うん、地図では見たけど西には行ったこと無いわね」
「そっか。最近、その龍泉の近くに異世人が頻繁に現れるようになってさ」
「良く無事だったわね、あの森で」
「龍泉は魔条網に面してるんだよ、だから兵士がすぐ気が付いたし、今は小さいゲートが龍泉のとこに増設されてる」
「ふうん。で、その異世人がって話?」
「ほら、ああいう異界から来た人ってよ、来た場所の近くに居れば数時間後とか1日で居なくなるじゃん?」
うんうん、神隠しだからね。
だいたいその場に居ればもと居た場所に帰るだけだよ。
「そうね、ほぼみんな元々居た場所に引き戻されてると思う」
「それがさ、ここ数ヵ月で7件。戻らなかった件が2件」
「多いわね、普通は10年に1回とかそういう話だもの。まあ、こっちが見つける前に戻ったり、亡くなったりしてる人も多いと思うけど」
それなぁ、とカイは顔を掻きながらお茶うけの焼き菓子を口に放り込んだ。
「戻らなかった件でちょっと困っててさ。言葉が通じないんだよ。お互い指指して名前だけはわかったんだけどよ、王都に行けばわかる人もいると思うんだがここじゃあ無理でさ」
「なるほど」
「とりあえず王都に行って貰う事に決まったんだけど、それすら説明出来なくて困ってる」
犯罪者でも奴隷でもないから、無理強いも出来んし、と心底困っている様子。
「で、長生きのエルフなら異界の言葉を知ってるかもって団長が。異世人がニホンニホンって言ってるからヨッシーオの故郷の世界の人っぽいんだよね。だもんで、もしニホンニホンの言葉が解るなら護送を……」
「嫌」
「ええ?断るの早くない?」
「長期の拘束は忙しくて無理。護送、1ヶ月以上かかるでしょ」
「そうだなあ、普通の馬車で行くとそうなるんだよなー」
私は慎重に、言葉を選びながらカイに提案した。
「昔、その世界から来た知り合いが居たから、日常会話に使えそうな単語ならちょっと知ってる。王都に行くことくらいは説明してあげられると思う。今日明日なら空いてるからそれだけなら出来ると思うけど、護送は無理」
「おお?それでもいい!現状さえ伝われば今より良いしな!じゃあ早速領主の屋敷に行こうぜ!森入り口に馬車待たせてあるから」
「全然ニーヴの散歩になってないじゃないの」
「うっ……」
私とカイは領主の屋敷に向かった。
ニーヴとカイは馬車の後ろを走らせた。
領主の館は異世人の件のせいか、慌ただしそうな雰囲気だ。
すれ違う人が全員、ニーヴに"ほんの少し"何かをあげている。
全員だ。
ニーヴの肥満の原因、使用人のせいじゃない?
絶対団長家でも同じことが起きているはず。
ニーヴお手がとても上手になっている。
領主がせかせかとやって来て、助かる、助かるよと半泣きで呟いた。
領主側が異世人に伝えたいのは、王都に行く事。
そこには通訳がいる、今後の相談も出来るよう手配してある…と言うことだ。
色々お疲れ気味のようで、髪の毛が心配だ。
かなり……
私が通されたのは、領主の私的な客用の客間のようで、ガラスケースに入った武器が陳列されている。
異世人の面談まで少しかかるって事で、待ち時間に領主と武器を見て回る。
あ、このレイピアは……
「ふふ、それに目をつけましたか。さすがお目が高い…!これは例のヴァリ・ブランドのレイピアでしてね……」
「稀代の名匠ですね、こんなにいい状態で良く現存してましたね…珍しい」
めっちゃ欲しい。売ってくれないかな。
「ははは、曾祖父のコレクションでして」
「これ、手放す気は無いですよね……?龍の剥製とかそういうのと交換とか……」
「!」
龍マニアの領主は立ち止まった。
これは……押せば行けるんじゃない?無理強いはしないけど。
「うふ。家宝ですものね、無理にとは言いませんよ?素敵なレイピアなので聞いてみただけです」
「そ、そうですな!家宝……龍……」
領主は頭を掻きむしった。
あああ、髪の毛落ちちゃうよ!
それでなくても少ないのに……。
「この件が片付いたら、我が家の家宝と龍の事はゆっくりお話しましょうか……」
好感触!もしかしたら交換して貰えるかもしれない。
そうなったら嬉しいな。
その時、ノックの音がして入室した執事が告げた。
「異世人様達をお連れしました」




