【180万PV記念回】魔王の羅針盤④
「ああもう」
私は魔法陣用の魔法紙を丸めてくずかごに放り込んだ。
どこかから召喚するのは可能。
条件をある程度つけるのも可能。
(その条件をどうするか。この世界に来て違和感のない種族──多種族を指定するのはリソースを食いすぎる)
世界で一番数の多い人間、またはそれに酷似した種族限定が無難そうだ。
あとは年齢指定。
引っ張りやすいのは、揺らぎの大きい思春期世代である。
「んー……現状に満足している者より、不満があったり悩んでる者のほうが存在が揺れてるからキャッチしやすいのよね」
思春期で、迷っている者がいい気がする。
(発動に三十秒くらい与えて、強い拒否があった場合停止させるか)
この世界には召喚する技術はあるが、償還魔法陣は怪しい。
正しい意味合いで使うなら帰還魔法陣だけど、こちらの名称は何故か償還魔法陣。
理論は立っているが、運用レベルではない。
「あ、そうか。発動時の座標と時間軸を記憶させ、対になる償還魔法陣に逆読みさせれば……」
(更にスキル傾向の指定までやれって血も涙もないわ)
あ、でも言語翻訳はつけてあげるべきだ。
こっちに来る異世界の人たちは、言葉がさっぱり通じないから。
何故か言葉がわかるなんて都合のいいことは起きない。
「うわぁ、言語翻訳機能で三割持っていかれちゃうのかー……リソースが足りない」
試行錯誤すること数十年。
無駄にした魔法陣紙は数千枚。
だが、なんとなく実用に耐えられそうな感じにはなってきた。
そこから更に練り直し、二百年経った頃にようやく対の魔法陣は形になった。
「もう嫌」
私はベッドに転がり、足をバタつかせてため息をついた。
これをそのまま魔王組合に渡すわけにはいかない。
検証が必要だ。
(やるなら人間がいいけど……)
認知症の人を一瞬呼んで戻すくらいなら騒ぎにならなさそう。
だが、やはり気が引ける。
エルフの私は躊躇わない。
でも前世の記憶が必死にNOと叫んでいる。
「座標と時間軸の逆行確認だけなら、石ころでもいいけど……」
安全面の検証は、生き物じゃないと出来ない。
小動物か……あ、地球のゴリラとかいいんじゃないかしらね。
うーん、条件指定は狭ければ狭いほど良いのは間違いないのだ。
勇者選定に関しては、地球の指定はしていないけれど。
(ゴリラならいいやってわけでもないのよね……ネズミとか魚にだって都合があるだろうし。人間じゃないから良心が痛まないわけじゃない)
私は常識あるエルフなので、良心はちゃんと持ってるのだ。
多分。
「検証に使う生命体はゆっくり吟味するとして……帰還条件はこれ以上動かせないなぁ」
呼ぶ方はまだ少し余裕があるが、返す方はギッチギチだ。
勇者(性別指定なし)と聖女(女性またはそれに近いもの)を二人呼ぶ。
魔法陣は同じ時間軸であれば複数展開して該当者を索敵し、人数に達したら消える設定だ。
償還魔法陣には、召喚魔法陣で記憶した座標と時間軸を転送するがどこをどう弄っても『個人に紐付いた二つの座標』と『一つの時間軸』しか組み込めなかった。
しかも発動すれば座標と時間軸の情報は失われる。
(つまり、帰るなら二人同時。先に片方を帰したら残った方は帰せないのよね……)
ドアが叩かれ、レスターがやって来た。
「よう」
「入っていいわよ」
レスターは椅子を引っ張り出して腰掛け、足を組んだ。
外は明るいが、やや風が強い。
砂漠地帯なのでドアの開閉で砂が入ってきている。
私は手を振って砂を消去し、レスターの方を向いた。
「何か用?」
「そろそろ魔法陣が出来たかと思ってな」
「うーん、形にはなったけど行き詰まってる部分もある」
「言ってみろ」
私は立ち上がってレスターの隣に座り、テーブルに魔法陣図を二枚並べた。
「帰還の方の償還魔法陣は、召喚魔法陣と連動させて勇者と聖女それぞれの座標、共通の時間軸を逆回しで再生して帰せるようにはなった」
「マジか。とんでもないな、エルフって」
「…………。でも、どう頑張っても返す方の陣に記録固定のリソースが無いのよ。一回しか発動しない」
「なるほど、帰るなら二人まとめていかないと、時間軸が飛ぶのか」
「そう。時間軸がリソースの半分。逆行が三割を占めてる」
「ふむ……」
「召喚魔法陣の方もちょっと条件がざっくりすぎて、もうちょっと詳細に付けたいんだけどリソースが足りなくて」
「別々の魔法陣にしないのは何故だ?」
「帰すときの魔力が魔法陣にあらかじめ注ぐ魔力じゃ間に合わない。時間軸固定だと、私のほぼ全魔力を使う」
「おいおい、一人で賄えるほうがおかしいぞ。普通呼ぶだけでも魔術師数十人だろ」
どの魔法に関してもそうだが、一人の魔力で賄えるならそれに越したことはない。
魔力がぶつかり合って暴走することもないし、弾かれる魔力がないから効率がいいのだ。
「最悪、日を置いて別々に帰す二段構えでもいいんだけれど、ひとり帰すのとふたり帰す魔力は大差ないのよね」
「それって、それぞれ違う世界から引っ張って来る感じか?」
「そう。本当は同じ世界からがいいんだけど、そこ入れたら言語翻訳外さなきゃいけなくなる」
「あー……言語は大事だな。うん」
「でしょう? 記録のリソースも減らせないし」
「うーむ」
「まあ、ダメそうだったら諦めて各自にするしかなさそう」
私はグラスに冷たい水を注ぎ、レスターに手渡した。
レスターは少し考えてから、口を開いた。
「魔王の羅針盤な。あれ、次代魔王を選定する魔道具なんだが──中を開けてみたらエグい魔法陣が出てきた」
「どんな?」
「選定条件が詳細。で、そのリソース枠を大幅にカバーしているインクで書かれている」
「あ、インク……」
「絶滅したと言われる時空龍の血だな」
「三万年前に絶滅したやつじゃないの。そんな素材どこにあるのよ」
私はがっくりと項垂れた。
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続きは190万PV☆彡




