魔王城建設予定地の視察
「ああーーーー!」
夜中に私は飛び起きた。
思い出したわ、岩塩だわ……紐で吊るしておく、ユーニウスにあげるやつ……
忘れない内にメモしなくては!
そして、せっかくなのでタマゴサンドを2個食べた。
もう一度ベッドに戻り、変な付与魔法を考えてみつつ寝ることにして。
爆発するハンカチとか、センス無いわぁ。
そうだなぁ、ハンカチなら濡れた手で触ったら感電するとかさ…手を拭いたら悲鳴をあげるとか?眠くなるペン、全く荷物が入らないバッグ、開けたら絶叫する財布とか。
…………財布……無駄遣い防止に良いんじゃないかな……フレスベルグに持たせて……貯金出来ないか……ら…………
チュンチュンと小鳥が鳴いている。
いつの間に寝てしまったようだ。
今日は用事がないから絶叫財布でも作るか。
愛馬のお世話をしてからね。
え、チュンチュンって。
あなた、カラスじゃないの。
アルシアのカラスは、カァカァって鳴かないのかしら。
プルナの木の上にとまっているカラスは、ユーニウスが届かない場所のプルナをつついているようだ。
時折、チュンチュンと鳴いている。
念のため鑑定してみる。
ただのカラスだ。
まあ、ユーニウスが届かないプルナを食べるくらいならいつでもどうぞ。
ユーニウスのお世話をして、シチューとパンを取り出して朝食。
その後は辺境の家の作業部屋でお財布製作だ。
使ってない財布(巾着)ならいっぱいある。
フレスベルグが好きそうな……厨二心をそそる黒い革と、どす黒い赤の革を組み合わせて銀の龍モチーフが付いた財布にしよう。
巾着を一旦バラして、鳴き声が酷い鳥竜の声帯を財布の内張りとして再度チクチク縫っていく。
出来上がったら時空魔法で容量をちょっと増やして、震えつつ紫色にゆらゆら光るようにしてみた。
巾着紐は絶叫蔓の細めの蔓を使う。
これは真っ黒だからピッタリ合うだろう。
ここからが本番だ。
鳥竜の声帯と絶叫蔓の本質を闇魔法の応用で呼び起こして、お仕事をさせる用に調整。
素材1つにつき1つの事をさせるのはそんなに手間じゃないけど、精密な魔法コントロールが必要。
素材は文字通り既に死んでるから、そこを操らないといけない。
完成した財布を見て私はほくそ笑んだ。
実に禍々しくて良い感じじゃない?
巾着の紐を緩めて口を開けると
「グウオオオオオォォォ…」と不気味な音がする。
口が開ききると
「ピギャアアアアアォォアオアオアオ!!!」
と聞くに耐えない鳴き声が響き渡る。
私は笑い転げて何回も財布を開けたり締めたりして、音だけは数日後に発動するように細工をした。
うん、もう悲鳴はしないただのカッコいい財布だよ。
数日間はね!
私は早速フレスベルグが居る魔王城建設予定地の無人島へ転移した。
「おお?誰かと思えばジューンじゃん」
建物は無い。
「城は?」
フレスベルグはドヤ顔で言った。
「あっちの山にさ、ダンジョンあったじゃん?あれを利用して地下にボスの間を作ったんだ!リーズナブルだろ?」
あの山のダンジョンか…100層くらいあったと思うけど。
ダンジョンの真のボスの間のちょっと手前に魔王の部屋を作ったらしい。
宝物庫はボス部屋と魔王部屋の間に作って、脱出用転移陣も設置するんだって。
そこを突破されてボス倒されたらダンジョンコアを壊されると、ダンジョンが無くなっちゃうよ?
「大丈夫大丈夫!隠蔽魔法マシマシでかくすから。てか別にボス倒しても良くね?復活するし。コアの部屋だけ死守すれば良いんじゃねーの?」
「魔王の後にボス戦って、魔王より強くなかったら矛盾するんじゃないの?」
「………………」
「配置は途中から正解ルートを隠蔽して、コアから離れた場所に誘導しないと。まあ一回見てみるわ」
山は近かったので周囲を確認がてら、徒歩で向かって麓に到着した。
手書きの木製の標識が地面に刺さっている。
↑死の山
「いや、ほんとにさぁ…死の山ってさぁ…そのセンスなんとかならないの?おかしいでしょ、そもそも未踏の無人島に何で標識があるの」
「ええ!?だってその方が雰囲気出るじゃんかー」
「魔王はあなただから、それで良いなら良いと思う」
フレスベルグはちょっと考えて、賢そうな顔をしながら標識を燃やした。
山のダンジョンじゃボスも倒して攻略済みだから、手前のセーフティゾーンみたいな所まで転移。
そこから入り口に向かって進むのだ。
最深層から、バシバシ魔物を倒しながら94階層まで上がった。
「ここが良いんじゃない?」
この階層はとても広いけれど、下へ行く階段は迷路のように入り組んでいる。
「ほら、ここから隠蔽しちゃって、あの辺からそれっぽいダンジョン掘りなさいよ。魔王の間コチラみたいな立て札はダメよ」
フレスベルグはそっと何かをしまった。
少し歩き回ると、瓢箪みたいなかたちの部屋を見つけたので、ボスの間とその奥に転移陣と宝箱を置くことに決めたようだ。
扉はカッコいいのを設置する予定らしい。
正規ルートの隠蔽は私がやっておこう。
フレスベルグはこういう精密作業が出来ないヤツだからね。
何度も重ね掛けして、更に隠蔽魔法を隠蔽する。
なんだか掃除機を掃除するための掃除機みたいだけど。
「なあ、ダンジョンコアって壊れたらダンジョンが無くなるのはわかるけど、なんで無くなったらダメなんだ?」
「そうねぇ、一番の理由はダンジョンが産む副産物が有用だからじゃない?ここにしか無い固有素材とかの」
「あー、そういうこと」
「ダンジョンコアは壊さない方がいいのよ」
「ジューンはコア壊したことあるんか?」
「一回だけある。二度とやらない」
「ダンジョン崩れるだけだろ?」
「ううん、壊すと呪われる」
「ええ!?マジ?なにそれこわい」
私はフレスベルグの方に向き直って真面目に説明することにした。
「あのね、ダンジョンコアって……大昔に絶滅した神族の魔核なのよ。まだどうして神族魔核からダンジョンが形成されて維持されてるのか解明されてないんだけど、その元になった神族が強ければ強いほど……湧いてくる魔物も強いし階層も増えるらしい、という説が最も有力」
「知らなかった………………」
「で、コアを壊すと漏れなく呪われる。強烈だから、みんな死ぬと思う。私は自力で解呪出来たけど、400年くらい掛かった」
「マジかよ。ちなみに何階層ダンジョンだったん?」
「800」
「聞かなきゃ良かった…………94階でもベヒーモスとか龍おるのに…」
私はフレスベルグを連れて、一旦外に出た。
「まあ、そういうことだから、覚えておくといいわ」
そして本来の目的である巾着財布を出した。
私の手のひらで震えながら不気味な紫色に仄かに光っている。
「おお!?カッコいいな!それ!」
「無駄遣い防止のおまじない付きの財布よ。あげるわ」
喜ぶフレスベルグを置いて、私はさっさと王都のエイプリルの家に転移した。




