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魔術ギルドと付与魔法

あ、この彫金師とかいいかも。

アクセサリーへの付与、内容は応相談。

報酬は面談の上。


ざっくりし過ぎだけど、どうかな……?


紙をピッと取って、受付へ。

お姉さんは依頼表を見て頷き、初仕事にはいいかもしれませんね、と笑った。


「こちらの彫金師さんは人気のある作家さんなんですよ。たまにしか募集してないのでラッキーでしたね」


南門の近くに工房を兼ねた店があるみたい。

受付をして貰い、依頼票の一部を渡されてそれにサインを貰ってくるように、と指示があった。

決まっても決まらなくても【面談】したってサインが必要なんだって。


今日のエイプリルは茶色のダボっとしたワンピース。

髪はきっちり後ろで一つに括ってあり、赤い枠の大きな伊達メガネをかけている。

しばらく歩いて南門へ向かうと、平民向けのお店が増えてきた。

奥に入れば住宅街かな?貸し部屋があるかどうか見て回ってもいいかもしれない。

すれ違う人々の種族は多様で、さすが都会だと妙に感心したり、エキゾチックなスパイスの香りが漂ってきたり。

エイプリルはそのキャラ設定にふさわしく、元気な足取りで依頼を出した“アニス”という名の店に向かった。


その店は小さくて目立たない所にあったが、店頭で3人くらいの女の子が賑やかに商品を選んでいた。

しばらく待っていると、一人が何かを購入して、はしゃぎながら立ち去っていった。

お店のスタッフらしい若い女性に声をかけると、アニスさん本人だと言う。

店の名が本人の名前……良くある事だ。


「私はいつもは銀でアクセサリー作っているの。注文があれば金でも何でもやるけどね」


アニスさんは、きれいに並んだかわいらしいシルバーアクセサリーを指差した。


「見ての通り、平民向けの物が多いの。客層が若い子だしね」


確かに良く見ると、動物だったりハートや花のモチーフが多い。


「付与なんだけど、軽いものでいいの。じゃないとお客さんが買えなくなっちゃうから。でも時々入る注文品には希望通りの付与付けてるから……それなりにちゃんとした付与が出来る人を、と思ってるの」


付与魔法は結構得意な方だけど、どこまで出来るかという申告が難しいよね。

即死魔法を弾くとか、魔力を一時的に溜めるとか、時空や隠蔽。

こういう高度なものは出来ると思われない方がいいかもしれない。


「難易度が高過ぎるのは修行中の身なので、さすがに厳しいですね。ですが、良くある付与……そうですね、リラックスとか寝付きを良くする程度なら」


精神干渉系は初心者には無理だから、中級者アピールにはこれくらいがいいと思う。

なんなら悪夢を見るとか、目覚めなくなるとか魔力を吸い続けるとか……いろんな事が出来るんだけど。


「まあ。闇魔法の付与も出来るのね。なら充分だわ。10日に1回来てくれる?在庫のアクセサリーに、その時のテーマで付与を付けて欲しいの。魔法をかける前に報酬の相談をして、折り合えば完了後に即金でお支払いするわ。注文があれば、その付与価格は都度相談で……ああちょっと待っててね」


アニスさんは帳簿を取り出して、何かメモし始めた。


「過去数ヶ月の実績なんだけれど、1回の報酬が銀貨8枚前後ね。もちろん確約は出来ないし、多い時も少ない時もあるけど……今のところ5枚以下だったことは無いの。かけて貰う量がそれなりにあるから」


月に4回なら気楽で良いし、少なくとも金貨2枚は稼げるというわけね。

細々と活動するならうってつけかも。


「じゃあ、契約前にこれに付与してみてくれる?何でもいいから」


小さなペンダントチャームだ。

ペンダントか……キラキラさせてみるか、幸運アップにするか?


この世界にはステータス数値が存在しないので、あくまでも属性値アップとか幸運値が上がる系の付与で効果がハッキリと体感できるのは【大~特大】の効果がある物だけ。

しかも効果の高いものは本人の魔力を吸うとか、効果時間が決まってたりなどの制約が生じる。

【極小~中】程度の効果だと、そこまでの効果もないから制約は発生しない。

ちゃんと鑑定すれば付与されてるのはわかるから、無意味ではないんだけどね。

アニスさんの店で求められているのは後者だろう。

ちょっと難しい幸運【中】にしておこうかな。

効果としては、微妙なとこだけど。

私は渡された手袋をはめてチャームを手に取り、簡単な付与魔法を施した。


「もう出来たの?早いわね。じゃ、鑑定させて貰うわ」


アニスさんがじっくり鑑定をし始めた。


「良いわね、すごく良い。幸運の中!おまじない程度なのは知っているけれど、うちのお店は若い女の子がターゲットなの。幸運とか魅力が上がる付与は大人気なのよ」


ちなみに魅力値アップと魅了は別物。

魅了は精神干渉系だから、多分この国では違法だと思う。


アニスさんは魔術ギルドの依頼票にサインをし、9が付く日の夕方以降か0の付く日の朝に店に来て欲しいと言い、条件が折り合ったと言うことで簡易版の緩い魔法契約紙で契約を結んだ。

魔法契約紙は高価なので、貴族や大きい金額が動く時しか使われてなくて、庶民は大体廉価な簡易版を利用する。

一応魔力は通すけど、条件が曖昧だったり偽名でも通っちゃうけど。

私はアニスさんに挨拶をして、店を辞した。



アニスさんの店は門が見える表通りにあるけれど、1本奥に入れば住宅街。

ぶらぶら歩きながら貸し部屋が無いか見て回っていると、意外なことに結構数はあるみたい。

王都らしいと言えばらしいのだけど、家賃は辺境の倍近い。

一階の角部屋で、出入口が植木で良い感じに目隠しされている狭いワンルーム物件が月に銀貨10枚。

中を見せて貰ったけど、かろうじてトイレと手洗い用の小さな水場(使用する魔核は自腹だそうだ)は付いているが、ベッドすら置けない狭さだ。

大家さん曰く、皆さん小さめソファー置いてるみたいだよ、とのこと。

もうちょっと奥に行けば安かったり広い物件があるんだろうけど…表通りから1本入っただけという好立地だ。

出入りが目立たない一階の角部屋なのもポイントが高い。

幾つか内覧させて貰ったけど、ここが一番条件には合ってるかな。

宿屋にエイプリルとして泊まる手間も省けるし、変化魔法もノーリスクだものね。


私はこの部屋を借りることに決め、2ヶ月分の家賃として金貨2枚を支払った。

エイプリル、既に大赤字だ。

とりあえず水核だけセットしてユーニウスのお世話をしに厩舎の家に帰らなくちゃ。

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