魔王組合
キャンディを厩舎に戻す前に、ニーヴの首輪の事を思い出したので王子殿下のお屋敷に。
門番に用向きを告げると、直ぐに団長とニーヴが出てきた。
王族なのにフッ軽…。
「良い馬だな、度胸もある」
団長はキャンディを称賛した。
ニーヴは機嫌良く周囲をうろうろしていたが、キャンディがフェンリルに怯えることは無かった。
ニーヴを呼び寄せ、首輪を装着。
うん、問題なさそう。
ニーヴの首回りがひんやりしてきた。
「仕上げの固定魔法かけてないんです。
革に団長の紋章を入れてからの方が良いかと思って」
「問題ない。固定魔法は使えるものがいるから、こちらでやる」
団長はニーヴを撫で、その首輪が意外と冷えていることに少し驚きながら
「良いものを貰ったな。感謝する」
と無表情ながらも僅かに笑顔を覗かせた。
特に用事も思い付かなかったので、私は団長に「どういたしまして」と挨拶を済ませ、キャンディをセバ爺の元へ帰すために再び街中へ向かった。
ポツポツと雨が降って来はじめ、厩舎に着く頃には雷を伴う大雨になっていた。
雨は嫌いじゃない。
水が流れていくのを見るのも楽しいし、窓の水滴をぼけっと眺めるのも大好きだ。
キャンディは馬には珍しく、雨も雷も気にならない様子だった。
セバ爺はちょうど貸し馬の受け付けスペースに居て、事務作業をしていたようだ。
「おお、嬢ちゃん!濡れなかったか?そうかそうか、大丈夫ならええ」
若い馬丁がキャンディを連れていき、私はセバ爺といつものように少し雑談をした。
テーブルに適当に食べるものを出して、ワインで乾杯だ。
「ほほう、コケットランドか。」
セバ爺は水のようにワインを飲みながらコケットランドについて語った。
「あそこはなぁ…領民なら一度は必ず行くところだな!」
観光地ってヤツな?
コケットレースやら重さ当てクイズみたいなイベントがあるからな、小さい子に大人気なんだよ。
5の付く日だけ、イベントは休みだから気を付けてな。
え?ああ、5の付く日は市が立つんだよ。
あちこちから色んなものが持ち込まれて、あれはあれで盛り上がってるな。
セバ爺は二本目のワインを開けつつ
「嬢ちゃんは市に行きたいんじゃろ?次は20日だ。ワシも競りがあるから行く予定だ」
「コケットレースも気になるけど、まずはマルシェに行きたい」
ずーっとタマゴサンドの話ばかりしている気がするが、私はセバ爺に熱くタマゴサンド愛を語ることにした。
「そうかそうか、そんなに好きとはコケットも産んだ甲斐があるってもんだな!
ワシは肉が挟まったサンドイッチ派だな。
市にはサンドイッチの店も来てると思うぞ」
「絶対行く」
「20日だぞ」
私はメモにコケットランド、20日。としっかり記入した。
雨が小降りになってきたので、セバ爺にお休みを言って商店街の自分の拠点へ。
濡れた傘をカウンターに引っかけて、そのまま奥の部屋から自宅に戻った。
郵便物の箱をチラっと見たら何か届いてるらしく、光っている。
ダイレクトメール…
行ったことも買ったこともない店からのダイレクトメールって、なんとなく嫌よね。
そもそもどうやって魔方陣アドレス入手してるのか気になるわ。
絶対どっかの店から流出してるんだろうけど。
どこの世界も似たようなこと思い付くんだなぁって感心しちゃう。
後はギルドから一通、魔王組合から一通。
開けてみると差出人はチェシャだった。
遺品を届けたパーティーの報告と、私の捜索願が出てると。
全く心当りがない。
うろうろ歩き回りながら、魔王組合の方も開封。
見たらすぐ来い。との一文。
めんどくさ。
でも行かないともっと面倒なことになる。
私は薄手のシャツとズボン、ブーツに着替えてフード付きローブを羽織った。
いつもの魔法使い装備だ。
行き先は魔界のカルミラの居城。
魔界って言っても、どの大陸からも遠い場所にあるただの群島なんだけどね。
海側から見ると、濃い黒紫色の霧で覆われているのでとても禍々しく見える。
実のところ、色は酷いが生命体には害の無いただの霧…らしい。
紫外線を遮る効果が抜群なので、自然にそういう需要のある種族が集まってる。
居城の中にある"会議室"に転移すると、既に何人か着席していた。
「遅かったじゃないの」
魔王組合会長、カルミラが退屈そうに文句を言ってきた。
カルミラ、ネモは仲良しなので、大体一緒にいる。
不死族のカルミラ(1回目の魔王)とネモ(4)。
魔族のフレスベルグ(未)とレスター(2)。
妖精族のティティ(未)。
巨人族のゼグ(5)。
妖魔族の人魚、セレナ(未)。
エルフのジューン(3)。
この8名が魔王組合のメンバーである。
ちなみにフレスベルグは私と同じで、自然発生タイプの魔族。
初対面はどこかの戦場で、敵同士だったんだけどね。
どっちが先に動くかという緊迫した場面で
「なあ、お前ビアンカ派?フローラ派?」
と聞いてきた男だ。
私は「フローラ派」と答え、結局喧嘩になったのは良い思い出…。
今回は魔王未経験のフレスベルグ、ティティ、セレナから選出されるって話だったけれど、既にフレスベルグに決まっていた。
今回はポーカーで決めたみたい。
「なあ、俺金欠なんだけど」
「知らないわよ、何とかしなさいよ」
「利息付きなら貸してあげるゥ!」
「城どこに建てるー?」
「魔族御用達、メア大陸とか?」
「まだ魔王降臨してないネイシス一択だろ」
「やめてよ、ネイシス来ないで!」
「海中もアリであるな…」
会議は揉めに揉めて、私が強硬にネイシスへの誘致を拒否った為に魔王城は無人島に建てられる事になった。
「なら勇者はネイシスな!」
だけど、勇者召喚地に確定しちゃった。
まあ、良いけどさ。
比較的新しい国だし、盛り上がるんじゃないかな…
フレスベルグはみんなから借金をして、魔王城建設に取り掛かるという。
大丈夫か…?と不安げな他のメンバーを置いて、さっさと帰ってしまった。
フレスベルグが決めることだけど、召喚地は北のアルシア王国か、南のフェリカ共和国か。
間に挟まれてる小国家のどこかか。
アルシアじゃないと良いなぁ…
もはや、祈るしかない。