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前世の記憶は役立たず!~エルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎる~  作者: 藤 野乃
アルシア王国に移住するよ!

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タマゴサンド

「ふうん?エルフでもそういう時あるんだねえ。生肉とか普通に引き裂いて食べてるのかと思ったよ」

メアリは楽しそうに笑った。


起きてすぐこの家へ来て、私はメアリにタマゴサンドについて思いの丈を熱く語っていた。


「パン屋かい。この辺じゃ商店街に店が一つ、大森林の近くに一つ…王都に行く方じゃなくて東の隣村に一つ…ああ、地図を出してごらん」


メアリは隣村に印をつけてくれた。


「この辺じゃ自分でパンを焼く家も多いからねえ…東の村の先に行けば、この辺だったかねえ…」

メアリはもう一つ印をつけた。

「ここ、アルセンコケットの養鶏やってる大農場だったと思うんだよ。

7、8年前に観光で行ったことあるんだけどね」


「アルセンブランドか!良いですねえ

アルセンの名を冠する食べ物は高いけど美味しいんですよね!」


「そうだねぇ、なんだか色々な審査があるらしいからねぇ。

だからほら、店の中とか見えるところにアルセンブランド認定の許可証が飾ってあるのさ。

無いところはモグリか詐欺だからね」


(そんな細かい規則があるのかーい…)


他の国は"異世界らしく"結構アバウトでガバガバなんだけどなぁ。

アルシアは妙に許可証とか国民証とかさ。

そういう厳しい規則が多いよね。


「そうかい?それはアンタがエルフだからじゃないのかい?」


「うっ…それもあるかも」


メアリの家から歩いて街に行くなら、領主の森から転移した方が早い。

なので、森から商店街まで転移。

さっそく…ピンク髪が居たせいで、入りたくても入れなかったパン屋へ向かう。


ざっと見渡したがタマゴサンドはない。

ここの売りはふわふわの白パンとジャムなどを使った甘いパンみたい。

焼きたてパンの香ばしい魅惑的な香り。

パン屋に住みたいくらいいい香りだ。


全部美味しそうだけど、タマゴサンドはない。せっかくなのでお店イチオシのジャムパンを買った。

パンはフッカフカで、甘さ控えめで果肉感たっぷりのジャムパンはとても美味しかった。

それを食べながら貸し馬屋まで歩き…キャンディを引き出して、ハグイェア大森林の傍にある小規模の商店街へお散歩だ。

キャンディは嬉しそうに、パッパカ走り出した。


大森林の近くはそこそこ危険なので、住居を兼ねた店舗は無いと聞いた通りだった。


どの店も朝から昼過ぎのまで営業用みたい。

大手チェーンの獣人御用達【毛玉屋】の(ここは深夜までやってるらしい)大きい店舗と、後は食料品と雑貨の店、パン屋、医療所、薬屋くらいしかないけれど

大森林に行く人が使う商店街なのだろう。


一応パン屋を覗いては見たけれど、思ってた通り冒険者向けの保存優先で固く焼き締めたパンがメインだった。

そろそろ夕方だから、東の村近くまで行って転移ポイントを見繕ったら一旦帰ろうかな。


私は東へ馬首を向け、キャンディの気のむくままに走らせた。

目的地には30分程度で到着。

村に入る前にちょうど良さそうな林があったので、キャンディと来ない時はそこに転移しようと思う。


どこの村も出入口付近には必ず馬留めがある。

基本移動が馬や馬車だからね。

地竜とか魔物に乗ってる人も居るけど、滅多に見掛けない。


そしてこの東の村は本当に東の村って名前らしい。

街に近いせいか、道行く人々の格好も街中と変わりがなく。

村の中ではメイの姿で歩き回ってるので、違和感なくうろうろ出来そう。


あいにくパン屋さんは店じまいが終わってたけれど、こだわりコーヒーの店を見つけたので入ってみる。


「いらっしゃい」

スラッとした年配のマスターが一人。

カウンターだけの小さなお店だ。


「ネイシスではコーヒーは収穫できないんですけどね、あちこちから取り寄せた豆がありますよ」

マスターは私の好みを聞き、デジュカのコーヒーをチョイスした。

コポコポというお湯の優しい音、食器が触れあう小さな音が心地いい。

芳ばしい香りが漂ってきてナッツの入った小皿と共にオススメコーヒーが出された。


酸味は殆ど無くて苦味しっかり、コクのある濃いめのコーヒー。

チョコレートのような濃厚で甘い香りが鼻腔をくすぐる。

塩味のナッツと相性抜群だ。

このマスターは話し上手でもあり、閉店までの1時間ほど随分色々な話を聞かせてもらった。


興味深かったのは、王族の話だ。

この国の王子様王女様は殆ど成人済みでいらっしゃるけれど、末子の王太子殿下だけはまだお若いのだそうだ。

先月までグレディスの領主の屋敷に滞在していたらしい。


私はピンク髪を初めて目撃したときの事を思い出した。

パンをくわえて、お忍びの貴族のお坊っちゃまと激突していたはずだ。

それ多分王太子じゃない?そんな気がする!

領主夫妻には御子様がいらっしゃらないし、ここは辺境の地。

貴族の坊っちゃんがお忍びでわざわざ何週間もかけて来るような場所でもないもんね。


事情は知らないけど領主の屋敷にしばらく滞在していたなら、辻褄が合う。

私は自分には関係ない話とはいえ、なんだかすごく納得出来てスッキリした。


もしそうだったら。

来年度の王立学園で再会を果たすパターンだよね。

私は思わずクスクスと笑いだした。


マスターが優しそうな顔でニッコリ微笑んで

「おや?今日はいい日だったのかい?」

と聞いてきたので、実はそうでもなくてタマゴサンドを探し回ってる…と話題を変えた。


「タマゴサンドですか。卵ならやはりコケットランドでしょうな」


コケットランド!いかにもコケットがいっぱいって感じだね?


「あの辺りは元々は農場だったんですけどね、コケットランドをやってる一族の先々代が、養鶏にハマってコケット1本になったんですよ。」


マスターの話によるとコケットランドは半ば観光地となっていて、出店やコケットレース、触れあい体験などで家族連れに人気なんだそうだ。

なんなら東の村から馬車で直通便も出てるらしい。


「観光地と言ってもね、表側はそういう場だけれど実力は折り紙付きだよ。

コケットのプロだからね。アルセンコケットを作り出したのも先代だし、今の代でも養鶏はきっちりやっているから」


コケットランドの卵は間違いなく美味しいよ、とマスターは話を締め括った。


私は機嫌良くマスターに代金を支払い、退屈そうにしていたキャンディにプルナをあげて

のんびり街へ戻った。

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