王子と交渉
恋か。
恋と言えば、私は魔族とかエルフみたいに寿命の長い種族と恋愛的に付き合うのに抵抗あるんだよね。
付き合っても別れても、長命故にそれ以降も周囲含めた関係が続くのにさ。
周囲が元カレ元カノだらけっていやじゃない?
超長命種のコミュニティって狭いし。
そういう理由もあって、万単位の寿命がある種族とは付き合いたくないと思うわ。
魅力的な殿方もいるけどね。
その後の事考えたらめんどくさそうで。
恋をするならそれ以外の種族が良いな。
可愛がった、仲良くなった、愛した…っていう相手が先に死んじゃうのは悲しいし寂しいけれど、まあ…見送るのは慣れたよ。
………帰ったら魔剣ベルシュナでも磨こうかな。
翌日、私は再度のメア大陸。
転移ポイントは多分ラスピが居そうな場所の近く。
寒すぎて生き物の姿すら見当たらず、邪魔が入ることはなかった。
探索魔法を使いつつ、それでも2時間ほど歩き回ってようやく見付けた。
「ラスピー」と呼んでみたら、ルンルンで走ってきた。
無事この近辺を縄張りにしたみたい。
しばらく撫で撫でして再会を喜んでいたら、ラスピも巣穴を教えてくれた。
保存箱に大量のドラゴンジャーキーを入れて、またねと言って帰宅。
野生だからね、あんまり長居はしない方がいいと思って。
その後は団長に指定された日までの数日、キャンディと遠乗りに行ったり
カイのプロポーズ成功を祝ったり、メアリの家に行ったり。
特に何事もなく楽しく過ごしていたが、約束の日が近づくにつれ気が重くなってきた。
約束した日は楽しみだったり、そんなにアレコレ考えないんだけど
期日が近付くと理由は特に無くても気が乗らなくて面倒になってくる。
行くけどさ。
あの団長、私を女避けにしてる気がするし。
気が重いが当日になった。
今まさに団長が目の前にいる。
長い足を組んでリラックスしたような団長と、その足元で長々と寝そべるニーヴ。
「最近、魔物の増え方が大きくなってるらしくてな。
世界中でスタンピードが起きているらしい」
団長が物憂げに言った、
あ、うん。
多分魔王組合の勇活かな。
勇者召喚の事前活動、略して勇活。
外部から魔力を補給するのは難しいけれど、魔物にちょっとだけストレスを与えると
生存本能が刺激されて、妊娠したり分裂したりして増えるのだ。
例えばスッゴク強い何かが自分達の棲息区域に住み着いちゃうとかね。
それは何もしてこないけれど、なにもしないでそこにいるというのが結構なストレスになる。
で、若い魔物が増えれば増えるほど、スタンピードが発生しやすくなる。
そういうのが得意なヤツがいるのよ。
吸血鬼のカルミラと不死族のネモだ。
カルミラは見る度に髪と目の色が違うので風貌は説明しにくいけど、美人だしグラマラスで気だるげな雰囲気だ。
肌の色は雪のように白い…万年貧血だからなんだろうけど。
ネモは…骨だ。
完璧なバランスを持つ、白く艶々した骨格の持ち主だ。
魔力で肉付けをして人間のように擬態することも出来るけれど
引きこもり気質なので滅多に出歩かない。
でも今はきっと勇活で社会復帰してるんだろうな。
あ、不死族と言っても死なない訳じゃない。
平均5、6千年は生きてるから不死に見えるんだろうけどね。
ソレ系に効くとされている光魔法や聖魔法があまり効かないので、人間からしたら恐怖の的らしいけど…実は効果的な物もあって…
彼らは太陽アレルギーなので、紫外線にはとても弱い。
さすがに即死は無いけれども、大ダメージを与えることが出来る。
人間達はそこにまだ気付いていないだけ。
基本引きこもり一族だから、人間と接触する自体が稀だからかもね。
数を戦わなきゃ攻略出来ないから、知られていないって事。
私もいちいち他種族の弱点言って回ったりはしないし。
だって、それでなくても蛇蝎の如く嫌われてるエルフだからね…。
「まあ、ハグイェアで異変が起きても管轄は第5騎士団だからな。
我が団は国境側の警備と街の安全確保だ」
うんうん、そういう話だった気がするよ。
団長の本題は要約すると
万が一ハグィエアでスタンピードが起きた場合、私は街の防衛に回れって事だった。
緊急事態があったらニーヴが呼びに来てくれるんですって。
領主の屋敷の少し手前には綺麗に整備された広い公園があって、そこが有事の際の領民の避難場所みたい。
有事の際の最前線は第五、第三は取り零した魔物と街中の人々の避難誘導。
避難がすんだら第五と合流して魔物を押し返す、という仕組みが出来上がってるみたい。
「第5の団長なんだが」
団長が無表情で説明を始めた。
第5の団長の生家は反王政派の有力貴族なので気を付けろ。
本人はそういうのが嫌で距離を置いてはいるが、貴族ゆえに家から命じられれば逃れられない事情というものがある。
なるべく近付くなってことね。
「政治にだけは巻き込まれたくないのだけど?」
「善処しよう」
「そういうのあったら、私はこの国から出ていくから」
団長はこれは手厳しい、と苦笑いした。
いちいち言わないけど、王国から逃げ切るのはそんなに難しいことじゃない。
ここには楽しそうだから滞在してるだけ。
自分に火の粉が降りかかれば別。
殺しに来るならやり返すよ。
私はまだ生きるのに飽きてないエルフだから。
「本題はな、ニーヴの事だ」
え、ニーヴ?
なんか問題ある?
「暑いらしくてな、バテてる。
氷核を使って部屋は冷やすようにしているのだが」
あー、寒いとこにいる種族だもんね。
最近特に暑いから、そのせいかも。
毛がダブルコートだし、密度も量もスゴいものねぇ。
どうにかしてあげられる手段はあるんだけど、タダと言うわけにはいかない。
何か、こう…お金じゃない利権が欲しい。
私は暫く考え込んだ。
そうだなぁ、王都の拠点とか?
あからさま過ぎるだろうか。
拠点大好きすぎる気もするけれど、転移出来るのを知られたくないのよ。
経験上、いいように使われるだけなのがわかってるから。
ちょっとそこまで。
いいじゃない、お金かかる訳じゃないし魔力なんてすぐ回復するでしょ。
友達も一緒にお願い!いいでしょ?
なんであの人にはしてあげたのに自分はダメなの?
個人でこうなる可能性もあるし……。
どこの世界にも図々しい人って居るものだからね。
国家や政治、戦争が絡んだらもっと面倒な事態になる。
そういうのは人間同士でやってもらわないと。
「首を冷やす魔道具と、部屋を氷点下にしておける術ならあるにはありますね。
もちろん簡単では無いですけど」
さあ、交渉開始だ。




