ゼグ
「うーん……」
「あ、座りにくかったら場所変えようか」
「大丈夫よ、飛びあがれるし」
今日はゼグの家にお邪魔している。
最近実家から自立したばかりなのだ。
と言っても、巨人族が住める地域は限られているので実家のある島からは出ていない。
フレスベルグ、ティティ、ゼグは同世代で仲がいい。
年齢だけを見ればベイリウスも若いのだが、彼は既婚のせいか妙に落ち着いている。
「なんで巨人族が住む島は地下帝国になってるのかしらねぇ」
私は高い位置にある椅子の座面に飛んでいき、長座という形を取って座った。
「悪いね、ここ家賃安いから他種族用の客間作れなくて」
「お気になさらずよ」
巨人族のゼグは年齢こそ六百歳近いが、他種族と比べて成長がのんびりだ。
ちなみに巨人族の肉体的成人は千歳。
その千歳は、種族独自のルールにより省かれることになるのでゼグの生物的年齢は千六百歳程度……ということになる。
精神的円熟度は、フレスベルグたちと同じくらいということね。
(まあ、お酒は飲んでるから大人だけど)
魔界だと飲酒は特に年齢制限がないから、保護者がいいと言えば解禁になる。
人間社会では十五歳くらいから成人扱いになる。
庶民はね。
「でさ、相談ってのは死の島の東の遺跡なんだけど」
「ああ、あなたが担当して補修してるところ」
ゼグは頷いた。
「城と普通に繋がってるんよ……」
「あー、ケルベロスの寝床が地下牢で、そこに繋がってるって話よね」
「塞ぐかそのままかで迷っててさ」
「んー、映像的には正面から突入して欲しいところよね」
「だよなぁ。でもただ塞ぐのは芸がないだろう?」
「ケルベロスはどうするのかしら。避難させるのか、そのまま参加か」
「あ、あのケルベロスはラウバッハと避難するらしいけど、カルミラが訓練したプロのケルベロスは参加するみたいだぞ」
「ふうん、じゃあ塞いで転移陣でどこかに飛ばす?」
「遺跡内をグルグルさせてもいいんだけどなー、城門を開ける鍵隠せって言われてるからさ」
「そうねえ、最奥だとわからないよう隠蔽してループさせるか、他の島に飛ばしちゃうか」
「その場合、転移先に戻る魔法陣作らないとだよな?」
私は自分で出したお茶を飲みながら、頷いた。
「そうなるわね」
「んー、遺跡内だとそんなに探索出来なさそうだから、島に飛ばすか……」
「いい場所あるの?」
「あ、うん。俺が趣味で作ってる生け垣の迷路がある島とか」
「生け垣……なんの生け垣?」
「そりゃ、メア・バインのだよ」
メア・バインね。
病気に強く頑健な蔦であり、原産地はメア大陸だ。
魔力さえ与えればどんな環境でもよく育つ。
最初に与えた魔力によって属性が決まるのと、ある程度育ったあとは簡単な指示なら聞く。
限りなく魔物に近い植物である。
「メア・バインの生け垣ねぇ……どういう属性?」
「入口は襲ってくるタイプ。序盤は氷系、中盤は雷──」
「…………」
「フレスベルグのクリア時間は三日と十八時間、ティティは四日と二時間。ミシュティは二日と二十時間……」
ミシュティ、私の知らないところで色々やってるのね……?
「……勇者達だと十日くらいかしら」
ゼグは鳥の巣のような巻き毛を引っ張りながら思案した。
「勇者パーティにはエルフがいるし、犬もいるからそこまで掛かんないんじゃないか」
「なら、五日から十日くらいで考えておくべきね」
うんうん、とゼグは頷きその反動で地震のようなさざなみが起きた。
「じゃあ、転移陣しくの頼んでいいか?」
「良いわよ、明日から数日デジュカに行くからその後でいいなら」
「デジュカ? 何しに行くんだ?」
私は姿勢を整えて座り直し、お茶を飲み干した。
「趣味で入っているコミュニティの会合があるの。百年に一回くらいしかないから、出席しておきたくて」
ゼグの家は新しいが、換気用の小窓しかなく明かりは魔導灯しかない。
地上に近ければ近いほど高級住宅街になるので、ゼグのようなひよっこは新たに掘られた地下深くにある区域に住むことになる。
もちろん転移陣は敷設されているので、不便はなさそうだけれど。
地盤的な関係で島の上、つまり外界部には建築物はないし居住者もいない。
無人島のような様相を呈しているのだが、それはそれで牧歌的で良い。
「じゃあ、また連絡するわね」
私はそう言ってお見送りを断り、ひよこ島へと帰宅した。




