夕食
「おお、アマネか、よく来たなぁ!」
龍島に転移した私たちを見つけ大声を上げたのは、ロペさんだった。
この島で龍保育をしている、メンバーの一人である。
「あっ、ロペおじさん!」
アマネが駆け出し、ロペさんと再会を喜び合っている。
やがて二人は物言いたげに私を見てきたので、手を上げて好きにしていいという合図を送る。
二人は跳ね回るように走り去っていった。
ロペさんたら、奥様がアマネの家庭教師だし先週も会ってるはずだけれど……。
龍人は同族をとても大事にする種族だから、アマネのことが可愛くて仕方ないのだろう。
(思春期に差し掛かる前の、不安定な無邪気さと素直さ。それに大人に近づきつつある理解力。そりゃ可愛いわけよね、性格はちょっと頑固だけれど朗らかでポジティブだし)
なんにせよ、子供が大人に守られて順調に成長出来ているのはいいことよね。
私は特に何もしてないけれど。
私が来たのを察したのか、バルフィが従業員寮から出てきた。
バルフィに勧められ、寮のゲストサロンのソファーに腰掛ける。
「実は先日、週刊競龍から取材がありまして」
「うん?」
「ロペさんが新龍舎を立ち上げるという噂が出回って……」
「ああ……ロペさんの以前の龍舎があるから?」
「はい。競龍新聞の記者繋がりで勇者チャンネルのスタッフからも取材されまして」
「龍島、ひよこ島の立ち入り禁止の徹底、後は島の座標を漏らさなければ問題ないわ」
出されたお茶を飲み、簡単な報告を受ける。
「卵はリヴァイアサンのもの以外は全て孵りました。驚異の死卵ゼロ、全て元気に育っています」
「……つまり?」
「龍種によって期間はまちまちですが、個体差でずれ込むものもいますから──来年も卵を産みに来る龍は居そうですね」
自然界だと孵るのは三割程度だと言われている。
龍の卵は基本的に放置されているので、敵も多いのだ。
卵を移動させると親が気づいて追ってくるけれど、その場で監視しているわけじゃないので外敵に壊されて食べられたり、自然災害などで損壊することも多々ある。
「ポチに言い聞かせて、産卵は今年と同じように制限しましょう」
「ふむ……前期五十、後期五十程度に調整出来れば今のままの人員で問題ありませんね」
「じゃあ、それでいきましょう」
「懸念事項は炎龍などの一般的な龍じゃない種族の産卵です」
「あ、そうね」
龍にもランクがあるのだ。
一般的な龍というのは炎龍や雷龍、風龍。
ワイバーンなどは竜種で、龍とは区別されている。
一般的龍の産卵周期は五十年毎と言われているが、白龍や黒龍は数百年周期だし上位の獄炎龍や剣龍のような希少種は千年周期。
古龍に至っては数千年という周期になる。
「公平に早いもの勝ちがいいでしょうね」
「希少種になると成体になるまでの期間も一年では済みませんから、応相談ですね……」
まあ、滅多に産まれるものでもないし。
そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。
「で、順調なの? 赤ちゃん龍の方は」
「特にトラブルは無いですね。餌が必須なわけではありませんし」
バルフィの報告はそれ以上はない様子。
私は夕暮れが紺色の空へと変わり始めたので、バルフィに夕食に参加するよう伝え、アマネを回収して屋敷に戻ることにした。
アマネは龍の赤ちゃんを追い回したり触ったりで、とても楽しそうだった。
(ざっと見た感じ、百頭あまりいるとして……珍しいのは三頭くらいかしら)
「龍に乗ってみたい」
「それでしたら……バルフィにお願いしてみましょう。夕飯時には来ますから」
アマネの言葉に、ミシュティが微笑んでそう言った。
「確かに龍騎手に載せてもらうのが一番ね。ポチでもいいけれど──」
「普通の龍の方が良いんじゃないか? ジューンは龍具も何も使わず裸龍で乗るから、参考に出来ねーよ」
「裸龍でいけるのは、さすがにポチだけね」
「わあ、唐揚げだ」
ミシュティが大皿に盛られた唐揚げを運んできた。
「今日はお米を沢山炊きましたが──まず、サラダとスープからです」
野菜が好きではないフレスベルグとアマネは悲しげな顔になった。
それぞれ、目の前に大きなサラダボウルが置かれる。
「そうだ、葉っぱに唐揚げを巻けば……」
「米、米……ご飯で食べたいよー」
「そう言わずに。あ、スープはフレスベルグ様が好きなトンジールですから」
果たして、彼らは唐揚げまで到達できるのか?
(まあ、春野菜は食べやすいから……)




