ディー
ディーはミシュティに戦利品を没収され、入念に洗われている。
「結局、三日に一回は洗っている気がします……」
優しくディーを洗いながら、ミシュティが呟く。
やや毛足の長い犬だけれど、この世界には範囲を決めて熱や風を起こす魔法がある。
洗ったとしても、時間はそんなにかからないのだ。
(ミシュティは、ブラシで撫でながら温風派)
一度、逆に水魔法の応用で、毛から余計な水分を除去したほうが早いんじゃないかと思ってやってみたのだが……。
乾くのは一瞬だったが、その後のブラッシングが大変だったためミシュティから禁止されてしまった。
やはりブラッシングしながら風を当てる、昔ながらのやり方が一番いいようだ。
猫が犬を洗うという光景は見飽きることがない。
いい景色である。
きっちり乾かされ、食事前に体重を測ってもらったディー。
「成体でおそらく五キロから六キロだと思うのですが……まだ生後半年なので半分以下ですね」
「数字で聞くと小さいわねえ、見ても小さいけど」
「ナッツ……クリムゾンヘルファイアさんはディーより大きかったですよ。アマネさんの家に行く前、二キロと二百グラムでした」
「ディーは今何キロなの?」
「一キロと六百グラムです。食後は二キロ超えます」
え、そんな子が四百グラム食べるの?
多くない?
「ちなみに……一回にどれくらい食べてるの」
「成長期ですから、満足いくよう食べさせてます。一回に五百グラムの肉ですね」
「どこに入るのかしら……」
「足りなさそうにしますが、水分を先にとらせて誤魔化してます」
今日のディーの夕飯はヒドラの首肉を切り分けたものだ。
素材はマカロンちゃん。
「皮は一枚になるよう剥いだのですが、綺麗なのでどうにか加工できませんか」
ミシュティが首の皮でディーのお出かけ服を作りたいようだ。
「蛇皮に準じてるから、薄いと思うのよね……最後の砦に素材持ち込みでオーダーしてみたら?」
「そうします。成犬になってから」
「じゃあ、生皮のまま預かっておくわね。サイズ的にクリムゾンヘルファイアの分も作れるんじゃない」
ミシュティはあっという間に食べ終わったディーの口元を拭いながら、小さく頷いた。
「お揃いだと余計可愛いですね。あ、アマネさんなんですが……」
「なあに?」
「クリムゾンヘルファイアさんを洗うのに難儀しているようで。ここの洗い場を使いたいみたいで、一人で島に訪ねてきてもいいかって」
「いいわよ、好きに遊びに来たらいいわ。お部屋もあるんだし」
「きっと喜びます」
「転移は中々難しいようですが、自宅に帰るのとひよこ島に来るのだけは安定したみたいですよ」
「ひよこ島は多分座標が大きいからね。ピンポイントで出現出来るよう、練習させたほうがいい。犬温泉のそばを転移ポイントにさせましょう」
「それがいいですね。転移は数をこなすしかないですから」
「クリムゾンヘルファイア……はあっちで元気そうだったわね」
「はい。ただ、あのお宅は……フレスベルグ様もアマネさんも、尋常じゃない食事量なのでクリムゾンヘルファイアさんが肥満になる可能性があります」
レスターも住んでいるフレスベルグの新居のある島は、他住民もいるので放し飼いは難しい。
運動不足のリスクがある。
「ああ……ク、クリムゾンヘルファイア……いっぱいもらってそうよね」
「一応ネコ美さんに給餌量は伝えてますから、今のところは大丈夫みたいですけれど」
「時々様子は見ておくわ」
満腹になり、クッションの上に陣取ったディーは伏せてリラックスし始めた。
鼻先にソフィーちゃんが現れても、ゆっくり尻尾を振るだけだ。
ソフィーちゃんは結局大きさも毛の長さも変わらないままだ。
ただ、頭から生えていた二つの突起は耳ではなく明確に角のようだ。
こっちの世界にはないフォルム。
(形だけ見たら東洋の龍っぽいけれど……)
でも前足みたいのは無い。
全く、不思議な生命体だ。
ミシュティが夕食の準備を始めたらしく、キッチンから物音がし始めたのを聞きつけた犬と蛇は起き上がり、仲良く偵察のため去っていった。
野菜の切れ端や果物の皮狙いだろう。
(ディー、まだ何かもらう気なのかしら……?)




