計画
「あとは聖女!」
「あー、聖女はロマンよね」
「聖女様なら今王城にいるはずですよ」
ヨハンナの言葉に、ナナとリサは意気消沈して頷いた。
「そう、それ。もう聖女いた」
(それは偽聖女で、本物の聖女はオス犬なんだけどね……)
「あとなにある? 獣人の番とか……」
「番? 繁殖のカップリングですか」
ヨハンナが小さく首を傾げる。
真っ白な肌に散ったそばかすがとても愛らしい。
「繁殖!」
「ヨハンナったら直球〜」
ナナはプリンのおかわりを注文し、まっすぐな黒髪を耳に掛け直して真面目な顔でヨハンナに話しかけた。
「そうじゃなくて、世界に唯一存在する運命の人よ」
「獣人に、唯一……?」
「え、待って。無い感じ?」
「無いわよ」
私の言葉にナナは心底絶望の表情を浮かべた。
リサは笑いが抑えられず、震えている。
「遺伝子的に相性のいい人物の体臭が心地よいというのはあるけれどね」
「全方向のルートが潰れていく……」
「そんなことより、ジューンさん。髪の毛どうしたらいいと思う?」
リサが毛先の金髪を摘みながら悲しげに訴えてきた。
生え際二十センチはツヤツヤした黒髪。
肩から下は金髪という状態だ。
「アタシとしてはまず髪をどうにかしてからじゃないと、何も考えられないのよねー」
「黒髪は嫌? とてもきれいだと思うけれど……」
「うーん、やっぱり染めたいんだよね〜」
「薄い色から濃く染めるのは、髪結屋でやってくれるけど……逆は難しいのよ」
「ですよね~」
「出来なくはないけれど、高い。あとは鬘にするか魔道具でそう見えるよう誤魔化すか」
「金髪に見える魔道具かぁ、ちなみに値段は」
リサが真剣に考え始めると、ヨハンナが助け舟を出した。
「使い捨てっていうか効果数ヶ月くらいのヤツなら、ラメン屋のお給金でも買えると思うよ」
「銀貨一枚くらいなら出せる!」
「銀貨一枚っていうと一万円くらい?」
ナナが聞き返す。
「多分そんくらい」
「うーん、一回限りの使い捨てなら銀貨一枚くらいで買えるかも」
ヨハンナの言葉にリサが絶望の顔になった。
(この世界って見た目を変えるものは高いのよね……)
「毎日働いて、家賃とか全部払ったら銀貨二枚しか残んないんですけど」
「そうだよねえ」
「まっすぐな黒髪は人気あるんだけどね、綺麗だから」
「ま?」
「切るかな……」
リサは恨めしそうにヨハンナの金髪を見つめた。
女の子三人はどの髪結屋が安くて腕が良いかの談義を始めたので私は支払いを済ませ、帰宅することにした。
明日は船に乗らなくてはいけないのだ。
セシリアとヴェラの身長より私のほうが十センチは高いのだけれど、船旅の間は座ってればいいしどうにでも誤魔化せる。
(これからフェリカ共和国に行って、三日間の船旅でアルシアにヴェラとして入国……)
入国時の審査はセシリアが受けて、ヴェラとして正式な国民証を発行するのだ。
魔力紋を焼き付けなければいけないのだが、幸いなことにアルシア国内で誕生したセシリアは、焼き付け無しの国民証だ。
同じ魔力紋は弾かれてしまうので、これだけはラッキーと言わざるを得ない。
国内で誕生した子には自動的に国民証が付与されるけれど、焼き付けを行うのは就職する時か結婚する時になる。
学園の身分証には焼き付けられているけれど、国民証と互換性はないし卒業後は破棄される。
(今のタイミングなら、セシリアの魔力紋をヴェラに偽装できる……)
高位貴族の子女は誘拐対策で、幼少時に焼き付けを済ませていることが多い。
ただこれは自費で行うもので、とても高額になる。
セシリアのような低位貴族や平民には無理なのが今回は幸いだった。
(今日はちょうどヴィランテからの船が入港するから、その船に乗ってきたということでフェリカに一泊ね)
アルシア国内の辺境の港に着くのはちょうど週末になる。
そのタイミングでミシュティにセシリアを連れてこさせて、入れ替わる。
そしてヴェラを『迎えに来た』ミシュティと一緒に王都まで戻ってもらう。
さすがにずっと馬車に乗せておく時間はない。
なので、ところどころセシリアを連れ出す作戦だ。
切れ切れにルート上の乗り合い馬車に乗って移動。
これで王都に行く侍女見習いの足跡が出来るというわけだ。




