お茶
「よろしくお願い致しまーす」
ラメン屋の店員、ナナがニコニコして挨拶をした。
マサオが開いたラメン屋は、大盛況で名前はそのまま『転移ラメン』だ。
当初はマサオ、春男と中学生の集団転移をしてこっちに来た子を二名雇っていたのだが、現在は元中学生女子二名、男子一名、こちらの世界の十五歳の女の子一名に増えている。
今日は最初からいたナナと増員されたリサ、ヨハンナと私の四人で午後のお茶を楽しんでいる。
(モヤシも出荷量が安定して、農場の方も喜んでるって話だったわね)
なんのことはない、三人が定休日で仲良く遊んでいた所に行き合ってなんとなく私の奢りでカフェに来ただけである。
「みんなエルフ怖いって言うけど〜、すっごい美人ですねえ!」
ナナとリサのうっとりした視線は私の顔面から離れない。
こっちの世界のヨハンナは真っ青だと言うのに。
「私は人間が好きだから、エルフとしては異端なの。ヨハンナの反応が正しいわ」
こくこく、と頷くヨハンナ。
「私がエルフの大多数のイメージだと思っちゃダメ。エルフを見たら逃げるのが正解」
「みんなそう言うんだけど、私たちジューンさんしか知らないし?」
「そんな考えでいたら、痛い目見る間もなく死ぬから気をつけて」
「はぁい」
エルフへの認識は本当に改めるべきだ。
エルフが起こした事件は数知れず、国単位の争いになった大事件は幾つか本になっているはず。
「で、せっかく異世界に来たんだからこう、なんというか活躍したかったんですよぉ」
「でもこの世界ってハーブティーもジャムも美味しいし、書類の書き方もちゃんとしてるし」
「思いつくものは全部再現されてるんですよね」
「識字率も計算もみんな出来てるし、インフラも整備されてて……」
男と女だと、不満の方向が違うのが面白いわね。
読んでいたジャンルが違うからだろうか。
「友達はパン屋さんで働き始めたけど、お忍びっぽい貴族なんてこないって言うし……」
「それね! 貴族と知り合うチャンスすらない」
ヨハンナが紅茶を飲み込み、静かに口を開いた。
「そもそも、お貴族様がお忍びで行くのは……『行ってもいい』お店だけですよ……」
「え、どゆこと!」
「屋台や庶民の行くような店は、最初から候補外ですよ」
私はヨハンナの意見に同意した。
「二十五歳とか、成人して仕事をしている方は別だけど」
「いやいや、そんなオジサンじゃなくてぇ」
「…………」
「未婚の貴族子女となると、高位貴族の場合侍女と護衛が必ず付くから。平民と知り合う機会は限りなく低いわね」
「そんな事態になったら、使用人が罰を受けますよ……職も失っちゃう」
ヨハンナが震える声で呟く。
「低位貴族だと……跡取りじゃなければ、意外と自由に出歩いてるけどね」
「あ、子爵の四男さんなら常連さんだよねー」
(貴族が◯郎系を!? ラーメンって凄いわね)
「イケメンの騎士団長に溺愛されたかった」
「私は魔王の唯一になりたかった」
魔王はフレスベルグだ。
ちょっと目を離すとゴミ屋敷になるし、借金王なんだけれどいいのかしら。
騎士団長は……第五王子殿下が一番若くてイケメンだけど、三十間近だからナナ達からするとオジサンだろうからアウトだ。
「騎士団長はオジサンしかいないわよ」
「ええーっ」
「だって、剣技があっても人の使い方を知らない人は上に立てないでしょう? ある程度の年齢じゃないと団長にはなれない」
「そっかー、こっちも現実は厳しいんだねー」
乙女ゲームのヒロイン転生した人ならいるけどね。
そっちは命の危機になってるから、普通が一番だと思うわ。
「私の淹れたハーブティーだけ特殊効果を持つとか……」
「ってナナ、ハーブティー淹れられるの?」
「ううん、全く。これから練習すんのよ」
ケラケラと笑い声が上がる。
ナナ、リサはヨハンナと仲良くなって急速にこっちの世界に馴染み始めたようだ。
座学より経験、これは真実ね。
「侍女で見初められる案もあったんだけど、ギルドのお姉さんが貴族の家で働くには身分がないと難しいって」
「ハウスメイドとか下働きなら応募できたんだけど、貴族と会わない場所でしか働けないって言われた」
「それはそうでしょう。主に直接顔を合わせる侍女になれるのは貴族子女だもの」
ヨハンナがちょっと呆れた声で笑い出した。




